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【夏物語】女性の生きづらさを考える1冊🌻貧困×ジェンダー×生殖医療

最近、ジェンダーに関するニュースが多いですね。

そこで今日は、皆さんに女性の生きづらさがとてもよく描かれているとっておきの小説をご紹介したいと思います。

『夏物語』(川上未映子さん、著。文藝春秋)本屋大賞2020ノミネート作。

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☆第1部は『乳と卵』がもとになっている

本書は、2008年夏の3日間を描いた第1部と、それから8年後の2016年夏~2019年夏を描いた第2部に分かれています。

第1部は、2008年に出版され芥川賞をとった『乳と卵』という作品のリメイクです。

もうすぐ12歳になる「緑子」は主人公「夏子」(30歳)の姪で、主人公の姉である「巻子」(39歳)は27歳のときに産んだ緑子を一人で育てています。夏子は作家を目指し上京していますがまだ芽は出ません。巻子と緑子はそのまま地元大阪に住んでいますが、2008年夏に3日間だけ東京の夏子のもとに来ることになりました。東京に来る目的は、なんと巻子の豊胸手術!しかし緑子は半年前から、なぜか巻子の前ではまったく喋らなくなってしまい、そんなちょっと気まずい状況のまま東京に来ることになります。

現代の樋口一葉とも称される、改行なしで読点によって区切られ延々と続く特徴的な文体で、3人の登場人物の身体観と哲学的テーマが鮮やかに交錯し、魅惑を放ちながら物語は進行していきます。

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☆貧困×ジェンダー

第1部のテーマは、ズバリ、「貧困×ジェンダー」です。貧困とジェンダーの話がこれでもかと出てきて、まさに私のためにある小説です😝

書き出しからすごいです。ちょっと引用してみます。

「その人が、どのくらいの貧乏だったかを知りたいときは、育った家の窓の数を尋ねるのがてっとりばやい。食べていたものや着ていたものはあてにならない。貧乏の度合いについて知りたいときは、窓の数に限る。そう、貧乏とは窓の数。窓がない、あるいは数が少なければ少ないほど、その人の貧乏がどれくらいの貧乏だったのか、わかることが多いのだ。」

(引用ここまで)

…確かに😭

他にも、シングルマザーである巻子が病気で働けなくなった際に、夏子が生活保護の申請を勧めるのですが、巻子がそれに泣きながら反対する場面も印象的です。回想シーンとしてサラッと描かれているのですが、私はこの描写を、自己責任を押しつけ、生活保護に偏見を抱きがちな日本社会への痛烈な風刺と受けとめました。

第1部は、夏子目線の文章と、緑子が日記に書いた文章とが交互に進行していきます。ジェンダーの話は主に緑子の日記に出てきます。例えばこんな感じです。またちょっと引用します。

「わたしがびっくりしたんは、じつは女の人は死んでも成仏ができんのらしい。そのわけが、ひとくちでいうと女の人というのが汚いからやと。昔のえらい人らがなんこもなんこも女の人がなんで汚いか、なんであかんかってことをずらずら書き残してるんやと。で、どうしても成仏したい場合は男に生まれかわる必要があると。なんやねんそれ。わたしはびっくりしてもうて、そんなんどうやって男になるん、ときいてみた。純ちゃんもようわからんと言った。純ちゃんに、純ちゃんあんたそんなあほみたいなん信じるん、すごいな、と言ったらちょっと空気が悪くなった」

(引用ここまで。純ちゃんは緑子の友達の一人で、お寺さんの子。)

緑子ちゃん、気が合いそうです😝

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☆生殖医療民法特例法について

第2部になると夏子の書いた本がちょっとしたベストセラーとなり、貧困というテーマは後退します(多額の奨学金の返還、みたいな話も少し出てきますが)。代わって登場するテーマは「生殖医療」です。そこでちょっと予備知識として、2020年12月4日に可決・成立した「生殖医療民法特例法」について簡単に説明します。

明治時代の条文を受け継ぐ現行の民法は、第三者が絡む生殖補助医療による出産を想定していません。子の身分が法的に裏づけられていないため、精子提供で誕生した子の父であることを否認する訴訟が起こされるなど、親子関係が不安定になりがちで法整備を求める声がずーっと(20年以上前から)出ていました。

ちなみに、渦中の日本学術会議は2008年の時点で「生殖補助医療の法整備が必要」とする報告書をまとめています。

「生殖医療民法特例法」には、

🍓女性が自分以外の卵子を使って出産した場合、卵子提供者でなく出産した女性を「母」とする

🍓妻が夫の同意を得て、夫以外の精子提供を受けて出産した場合、夫は生まれた子の「父」であることを否認できない

などの規定が明記されました。

☆出自を知る権利 

「子が自身の出自を知る権利」は『夏物語』でも重要なテーマの一つとして描かれています。

「生殖医療民法特例法」が子どもの法的地位を定めたことは一歩前進と言えるかもしれませんが、同法には「心身ともに健やかに生まれ」という文言が入っており、「優生思想の介入を許す」などの批判が上がっています。また、参院審議に参考人として出席した慶応大の長沖暁子講師は、

🍓「法案に出自を知る権利が入っていないことに失望している」

🍓「出自を知らないまま成長した後で事実に直面すると、人生に喪失感を覚える場合がある」

🍓「子の福祉や権利を最優先にしないといけない」

と仰います。現行法では、子が「自分は提供された精子(卵)で生まれた」と知っても、提供者が誰なのかを知る権利が規定されておらず、そのことが深刻な精神的傷となってしまうケースが多々あるのです。

早く法律を成立させることも重要ですが、慎重な検討を要するデリケートな分野でもあります。拙速な審議で法律を成立させるのではなく、生殖補助医療で生まれた当事者、医療や法律の専門家など幅広い人の意見を丁寧に聞き、十分な検討を行う必要もあると思います。

「出自を知る権利」などの諸課題については「2年後をめどに法的な措置を検討する」ことを盛り込んだ付帯決議が議決されました。今後の世論を盛り上げていきましょう。

『夏物語』第2部ではAID(提供精子による人工授精)によって生まれた当事者が登場し、「出自を知る権利」が認められないことの苦悩がとてもよく描かれています。

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☆おわりに 描かれる苦悩とラストの感動をぜひ!

『夏物語』には、いろいろな立場の人が、それぞれにおいて人生で「生きづらさ」を抱えながら苦労して生きていく話がとてもよく描かれています。子のない人、独り者、AIDで生まれた当事者、AIDを使ってでも子を持ちたいと願う人、虐待を受けて育った人、シングルマザー、一見幸せそうに見える家庭があっても実は不幸せな主婦、などなど。それぞれの立場からのそれぞれの主張がとてもよく描かれており、小説における社会風刺としてはとてもフェアだと思います。

そして、『夏物語』には女性の登場人物が多く、男性はあまりいません。しかも男性陣は、物語のキーパーソンとなる一人を除いては、ほぼ全員ロクデナシです。…これもある意味で現代の日本への痛烈な風刺なのかもしれません、なんて書くと男性ファンが減るかしら😝

女性のさまざまな「生きにくさ」を巧みに描きつつ、最後は泣けて感動できます。2020年の本屋大賞はハイレベルで本作は7位という結果でしたが、これで7位というのが信じられません。大賞を受賞していても全然おかしくない力作です。ぜひ読んでみてください。ジェンダーに興味関心のある方は必読です!

ネタバレになるので言えませんが、個人的には、最後の最後で「アレ」の話が登場するのがとても意外で、でもロマンがあってとても良かったですね。個人的に「アレ」の話はかなり好きなので。ええ、「アレ」です。離れていても心は通い合っているという話で「アレ」を引き合いに出すとは、川上未映子さんの感性と博識ぶりはホントにすごいと思います。超感動です。ぜひ読んで、「アレ」とは何かを確かめてくださいね✨

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