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68)食生活と病気の関係(その2):多価不飽和脂肪酸のオメガ6:オメガ3比の上昇

体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術68

ミトコンドリアを活性化して体を若返らせる医薬品やサプリメントを解説しています。

【摂取した脂肪の種類によって体の機能が変わる】

 私たちは食物から摂取した栄養素(糖質・脂肪・タンパク質・ビタミン・ミネラルなど)から、細胞や組織を作る材料や体を動かすエネルギーを産生しています。食事中の糖質は単糖(ブドウ糖や果糖など)に分解されて吸収され、細胞内で分解されてエネルギー源になるか、グリコーゲンに合成されて貯蔵されます。タンパク質は20種類のアミノ酸に一旦分解されて吸収され細胞内で新たにタンパク質に合成されます。したがって、糖質とタンパク質に関しては、食品の種類による生体機能に対する影響に差はありません。一方、脂肪はその種類によって生体機能に対する影響が異なります。
 

脂肪は代謝されてエネルギー源となり、また分解されて生成した脂肪酸は細胞膜などに取り込まれて細胞を構成します。細胞の構成成分として使われる場合、その脂肪酸自体は変化せず、それぞれの構造や性質を保ったまま使われます。つまり、細胞膜をつくるとき脂肪酸の違いを区別せず、手当たり次第にあるものを使用するのです。その結果、食事中の脂肪酸の種類によって細胞の性質も変わってきます。さらに、その細胞膜の脂肪酸から作られるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの化学伝達物質の種類も違ってきて、炎症やアレルギー反応や発がんに影響することが明らかになっています。
 
 
例えば、リノール酸のようなω6系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、血栓ができやすくなり、アレルギー反応を増悪させ、がんの発生頻度を高めます。ω6系不飽和脂肪酸を多く取り込んだがん細胞は増殖が早く転移をしやすくなります。

一方、魚油に多く含まれるドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)のようなω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、炎症やアレルギーを抑え、血栓の形成や動脈硬化やがん細胞の発育を抑える作用があります。DHAやEPAを多く摂取するとがん細胞が抗がん剤で死にやすくなることも報告されています。その理由は、食事から摂取されたω3系不飽和脂肪酸ががん細胞の膜の脂質組成を変えることによって細胞シグナル系に影響して増殖を抑えるからです。
 

現代の食事では、ω6系不飽和脂肪酸の摂取が増え、ω3系不飽和脂肪酸が減少していることが問題になっています。ω6:ω3の比率は旧石器時代の食事では1から2の間でしたが、現在の西洋食はこの比が20を超えていると言われています。この脂肪酸の種類の違いが、現代の多くの病気の原因となっていることが指摘されています。(下図)

図:食品から摂取される脂肪酸はそのまま細胞膜の脂質二重層に組み込まれる。食事からのリノール酸やアラキドン酸の摂取が多いと細胞膜のアラキドン酸(細胞膜の図の青で示す)の量が増え、ω6不飽和脂肪酸由来のメディエーターの産生量も増える。一方、ω3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)の摂取量が多いと、DHAやEPA(細胞膜の図の赤で示す)がアラキドン酸と置き換わるので、ω6不飽和脂肪酸由来のメディエーターの産生は低下し、ω3不飽和脂肪酸由来のメディエーターが増える。炎症やがん細胞の増殖・転移、血栓形成、アレルギー反応はω6不飽和脂肪酸由来メディエーターで促進・悪化され、ω3不飽和脂肪酸由来のメディエーターは抑制する。したがって、不飽和脂肪酸のω6:ω3の比を低下させると、がんや炎症性疾患や血栓形成やアレルギー性疾患を予防できる。



【ω3 系とω6 系の不飽和脂肪酸はその働きに大きな違いがある】

 脂肪酸は1 個ないし複数個の炭化水素(CH2)の連結した鎖(炭化水素鎖)からなり、その鎖の両末端はメチル基(CH3)とカルボキシル基(COOH)で、基本的な化学構造はCH3CH2CH2・・・CH2COOHと表わされます。

 
脂肪酸には、飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸があり、飽和脂肪酸では、炭化水素鎖の全ての炭素が水素で飽和しています。一方、不飽和脂肪酸では炭化水素鎖中に1個ないし数個の二重結合(CH=CH)が含まれます。不飽和脂肪酸中で二重結合の数が2個以上のものを多価不飽和脂肪酸と云い、5 個以上の二重結合を持つ脂肪酸を高度不飽和脂肪酸と呼びます。  

脂肪は、それを構成している脂肪酸の構造の違いによって融点などの化学的性状が異なってきます。二重結合をもつ不飽和脂肪酸の多い脂肪は常温で液状になりますが、飽和脂肪酸になると固まりやすくなります。固まりやすい脂肪を多く摂取すると血液がドロドロになって動脈硬化が起こりやすくなります。

図:脂肪酸は飽和脂肪酸と不飽和脂肪酸に分けられ、多価不飽和脂肪酸にはオメガ3系とオメガ6系がある。

 

リノール酸 CH3(CH2)3 CH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3 に最も近い二重結合は、CH3から6番目のCにあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸に分類します。

 
α-リノレン酸CH3CH2CH=CHCH2CH=CHCH2CH=CH(CH2)7COOH では、CH3に最も近い二重結合はCH3から3番目のC にあります。この位置に二重結合を持つ全ての脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸に分類します。
 
最近ではω6の代わりにn-6 を用いてn-6系不飽和脂肪酸、そしてω3の代わりにn-3を用いてn-3系不飽和脂肪酸と呼ぶことが多くなっています(下図)。

図:CH3 に最も近い二重結合がCH3から3番目のCにある脂肪酸をω3系不飽和脂肪酸、CH3から6番目のCに最初の二重結合がある脂肪酸をω6系不飽和脂肪酸という。

 

 動物(人を含む)はリノール酸とα-リノレン酸を合成できません。これら2種類の不飽和脂肪酸は動物にとって不可欠であり、動物はこれらを食物として摂取する必要がありますのでこれらを必須脂肪酸と言います。

ω6 系不飽和脂肪酸はリノール酸 → γ-リノレン酸 → アラキドン酸のように代謝されていき、アラキドン酸からプロスタグランジン、ロイコトリエン、トロンボキサンなどの重要な生理活性物質が合成されます。アラキドン酸はリノール酸から体内で合成されますが、体内で十分な量が生成されないためアラキドン酸も必須脂肪酸になっています。

 

ω3系不飽和脂肪酸はα-リノレン酸 → エイコサペンタエン酸(EPA) → ドコサヘキサエン酸(DHA)と代謝されていきます。α-リノレン酸から体内でEPAとDHAが産生されますが、その量は少ないので最近では必須脂肪酸に入れることもあります。実際にヒトの成人では、 α-リノレン酸からEPAへの変換は8%程度、DHAへの変換は0.1%以下と極めて低いことが報告されています。したがって、食事やサプリメントでEPAとDHAを積極的に摂取する意味はあります。

 

脂肪を多く摂取すると動脈硬化や脂肪肝になると誤解されることが多いのですが、健康に対する脂肪の影響は脂肪の種類によって異なります。動物性の飽和脂肪酸の摂取を減らし、オレイン酸の豊富なオリーブオイルやω3不飽和脂肪酸の豊富な亜麻仁油(フラックスシードオイル)や紫蘇油(エゴマ油)や魚油(ドコサヘキサエン酸やエイコサペンタエン酸を多く含む)を増やせば、心疾患やがんを予防する効果が得られることが明らかになっています。



【DHAとEPAは抗炎症性メディエーターの前駆体】

 DHAやEPAには抗炎症作用や鎮痛作用があります。実際に関節炎などの痛みを緩和し、CRP(C反応性たんぱく)などの炎症マーカーを低下させる作用もあります。そのメカニズムとしては、プロスタグランジンE2などの炎症を引き起こす物質を生み出すω6系のアラキドン酸がω3系のDHAやEPAに置き換えられ、したがって炎症物質ができにくくなるからといわれていました。すなわち、ω3系不飽和脂肪酸を多く摂取すると、細胞膜中のω3系不飽和脂肪酸が増加して、アラキドン酸濃度が低下するので、その結果アラキドン酸由来の炎症促進性物質の産生が抑制されるという機序です。

 

しかし、最近の研究では、ω3系不飽和脂肪酸のDHAとEPAが炎症を抑える物質を生成することによって能動的に炎症を抑制することが明らかになっています。外傷や感染などに反応して急性炎症反応が起こりますが、異物の排除が完了すると炎症反応は速やかに消散し、組織の修復過程に移行します。炎症反応が終了することを「炎症の収束」と言います。
 
炎症の収束は、これまで起炎反応の減弱化によると考えられてきましたが、最近の研究で、受動的なものではなく、能動的な機構であることが明らかになっています。急性炎症の特徴(症状)は白血球の組織への浸潤に伴う浮腫、発赤、発熱、痛みなどで、これらの反応にはアラキドン酸から生成されるプロスタグランジンやロイコトリエンなどの脂質メディエーターが関与します。これらの物質によって好中球の浸潤や活性化、血管透過性の亢進などの炎症反応が起こります。
 
炎症の収束過程においては炎症性サイトカインの産生が抑制され、血管透過性が正常に戻り、好中球の遊走阻止や浸出液中のリンパ球の除去や、マクロファージによる死滅した細胞の除去などが起こります。この炎症の収束過程には、EPAやDHAなどのオメガ3系不飽和脂肪酸から体内で生成されるレゾルビンやプロテクチンという抗炎症性メディエーターが関与します。
 


つまり、DHAやEPAはアラキドン酸と競合することで炎症性ケミカル・メディエーターの産生を阻害するだけでなく、抗炎症性(炎症収束性)の脂質メディエーターを生成することによって積極的に炎症を抑制する作用があるということです。
 
EPAやDHAの抗炎症作用やがん予防効果や心血管保護作用や脳神経系保護作用など多くの作用に、EPAやDHAから代謝されて生成される抗炎症性の脂質メディエーター(レゾルビンやプロテクチン)が関与していることが明らかになっています。

図:アラキドン酸などのオメガ6系不飽和脂肪酸はプロスタグランジンやロイコトリエンのような炎症を促進する化学伝達物質(メディエーター)を産生する。一方、オメガ3系不飽和脂肪酸のドコサヘキサエン酸(DHA)やエイコサペンタエン酸(EPA)は炎症を収束する化学伝達物質(レゾルビン、プロテクチン)を産生する。



【ω3系不飽和脂肪酸を増やす食生活】

 旧石器時代と現代の食事の内容の違いが、現在の西洋諸国に見られる病気の原因の根底にある重要な要因である可能性が指摘されています。食事内容を適切に変えれば、糖尿病や心臓病やがんなど現代病と言われる多くの病気を防ぐことができます。

旧石器時代と現代の食事の内容の違いにおいて、現代病の発生と強く関連しているのが、精製した糖質の増加と、オメガ6系不飽和脂肪酸の増加の二つです。
 


食事中の不飽和脂肪酸のオメガ6:オメガ3比は、狩猟採取で食品を確保していた旧石器時代の人類の食事では1〜2程度でしたが、近代における西洋型食事ではオメガ6:オメガ3比は20程度まで上昇しています。さらに動物性の飽和脂肪酸の摂取量も増えています。このような食事中の脂肪酸の組成の変化が、がんや心臓病、メタボリック症候群、炎症性疾患、自己免疫疾患の発症を促進していると考えられています。


 
アメリカ人の食事はω6:ω3の比が10~20になると報告されています。一方、伝統的な日本食(大豆と魚の豊富な食事)ではその比は1~2.8にあると言われています。しかし、日本でも食事の欧米化によってω6:ω3の比が高くなっています。

ω6:ω3の比を1~2以下にするためには、肉類は減らし、野菜はバランス良く摂取し、ω3不飽和脂肪酸の多い青背の魚(いわし・あじ・さば・さんま・まぐろなど)を食べます。野菜にはリノール酸などのω6脂肪酸が多いので、ω3不飽和脂肪酸のα-リノレン酸の豊富なシソ油か亜麻仁油をドレッシングとして使用するのが有効です。DHAやEPAは高熱で酸化しやすいので、魚は揚げ物や焼き魚は避け、生(刺身)か煮付けで食べることが大切です。
 
魚が苦手な人はDHAやEPAのサプリメントを利用します。極端にω3脂肪酸を多くとると、血液が固まりにくくなるという副作用が出ますが、DHA/EPAのサプリメントを1日2~4グラム程度で、食事の内容を変えてω3不飽和脂肪酸を増やすのであれば、問題はありません。


植物油は亜麻仁油と紫蘇油(えごま油)以外はオメガ6が多いことを知っておくことが重要です。中にはオメガ6:オメガ3の比が100を超えるものもあります。(下表)

表:亜麻仁油とえごま油(紫蘇油)以外の植物油はオメガ3系不飽和脂肪酸(ω3PUFA)に比べてオメガ6系不飽和脂肪酸(ω6PUFA)が多い。(参考:日本成分表2022:八訂)
 
 
一方、脂ののった魚には100グラム当たり数グラムから20グラム程度の脂肪が含まれ、ω3系多価不飽和脂肪酸が1〜6グラム程度含まれています。DHA/EPAも数百mgから4グラム程度含まれています。脂ののった魚を1日100〜200g程度食べることはがんや心臓疾患の予防や治療に効果が期待できます。

表:脂の多い魚には、オメガ3系多価不飽和脂肪酸(ω3PUFA)がオメガ6系多価不飽和脂肪酸(ω6PUFA)の数倍から10倍程度含まれる。DHAとEPAも100g当たり1〜4g程度と多く含まれる。日本食品成分表(五訂増補脂肪酸成分表)より抜粋


体がみるみる若返るミトコンドリア活性化術 記事まとめ


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