ぴろろ

ただの羊です。 ゼンマイ仕掛けなので、 好きな人への想いが切れると 簡単に止まります 🐏-8"。。。テクテク

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連続小説「88の謎」 

第二十四話 xilofono 小学校の頃にMOMOは母親から離れて暮らすことになった。正確に言えば無理矢理引き離されたようなものだったが、かと言って父親の加護があったわけでもない。自分の力が及ばない理不尽な力が働いて、結局のところひとりぼっちになってしまっただけだった。 ラウンジの薄い照明は、時として心の分かりやすく繊細な揺らぎを、程良く照らしてくれる。だからこの音楽と空間に身を任せて働く日々が愛おしかったのだ。両親と妹、仲睦まじく過ごしてた記憶はとうにMOMOから切り離さ

    • 連続小説「88の謎」 

      第二十三話 Waltz 新大阪の新幹線口の改札に着いても、リナはエリの涙のワケを問わなかった。エリに付き添って、リナは新幹線のホームまで歩いた。もう、お別れの時間だ。 「本当に今日はありがとう!リナちゃんに会えて、ほんっとに嬉しかった!」 「こちらこそ...隣の席がエリちゃんで良かった。今度は...」 そう言い掛けて、リナは口をつぐんだ。 (Princess U "Chouten"の本戦で会える保証なんてないんだっけ...) 運命的な出会いはあくまでも出会いでしかな

      • 連続小説 〜88の謎〜 リンク集&小ネタ解説

        本作品をお読みいただいているみなさまへ 作者のぴろろです🐏⸒⸒ みなさま「88の謎」をご覧いただき本当にありがとうございます。一部のコアなファンのみなさまの応援に支えられ、お陰様で第二十二話を書き終えることが出来ました。 この小説のモデルになったリナとエリは実在する2人の女性であり、私ぴろろが心から尊敬する表現者さんです。 彼女達について、また作品中に散りばめさせていただいた小ネタについてコチラでご紹介させていただきます。 ◾︎リンク① リナの神プレイ ゲーセンで音

        • 連続小説「88の謎」 

          第二十二話 Venusto 数人のギャラリーが見つめる中、エリは試しに両手で和音を奏でた。誰もが一瞥してピアノ経験者と理解出来る所作である。しかしエリはその音に耳を傾け、少し戸惑った様子を見せた。その直後、エリは空を見上げ、息を大きく吸った。 リナにエリの戸惑いが染み込むように伝わってきた。 ストリートピアノの歴史はまだ浅く、日本で本格的に認知されたのは10数年ほど前である。駅の構内や野外に設置されるストリートピアノは様々な人が触れ、メンテナンスも十分ではないことが多い

          連続小説「88の謎」 

          第二十一話 Unisono 千早苑を賑やかした2人は店を出て歩き始めた。食事を共にしたこともあり、お互いの距離が明らかに縮まったことを、リナもエリも感じていた。歩幅が自然と揃い、無意識の内に同じリズムで歩いていく。 エリの提案によりプリクラを撮ることになったので、リナは最寄りのゲームセンターへ案内した。 ゲームセンターの中は色々なゲームの音が鳴り響き、週末らしく賑わっている。2人で決めたプリクラのブースの中に入り、ピアノの画像を背景にして同じポーズで記念撮影を完了した。

          連続小説「88の謎」 

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          第二十話 Tempo di valse 深みがかった赤に黄色で「千早苑」と書いてある看板の下まで、2人は全力で走った。 「もう...ちょっと...ムリなんだけどぉー!!」 エリは肩で息をしながら両膝に手をついていた。 「まさか…エリちゃんが…あそこで転ぶなんて...ふふっ」 リナも息を切らしながら笑っている。町中華を掛けた乙女達のかけっこはリナに軍配が上がった。 一足先に軽く前髪を整えたリナは、バッグから白と黒のシュシュを1つずつ取り出した。白のシュシュで自分の後ろ

          連続小説「88の謎」 

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          第十九話 Smorzando 一巡目の回答が揃い、面接官は次の質問へと移った。 「それではこのイベントで優勝したら賞金の500万円はどんなことに使いたいと思っていますか?」 心なしか面接官の注目がリナとエリに集まっているかのように思えた。リナが答えた。 「私を育ててくれた母親への恩返しとして、コンサートを開きたいと思っています。地域の子供たちやご年配の方々も招待してクラシックと言う音楽を少しでも世に広げることができたらと思っています。もちろんお世話になっているリスナー

          連続小説「88の謎」 

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          第十八話 Rhapsody 面接用の別室は、通常20名くらいの会食で使う「桐の間」という個室だった。部屋の名前を見て、リナは自分に風が吹いているように感じていた。 ほどなくして別室に呼ばれたリナとエリとは1メートルほど離れた隣同士で席に座った。その奥にさらに別の参加者2名が等間隔に座っている。 リナはあたりをそれとなく見まわし、男性2名と女性1名の面接官が座っているのを確認した。そして、会場で聞いた説明から逆算して、個別の質問の解答時間はトータルでも1人あたり2分強だろう

          連続小説「88の謎」 

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          第十七話 Quadro 〜空へ〜 その日の朝、前日まで3日間続いた雨がウソのように止んでいた。晴れ渡る空のその青さにリナは呆れるような気がしてきた。 (ま、晴れるよねー) リナは自他共に認める「晴れ女」だ。節目のイベントごとでは必ず晴天を連れてきている。我ながらすごいと鼻歌混じりで朝を迎えていた。 そんなリナは、地元大阪では知らない人はいない天満橋の桜を横目に、リズムよく歩いている。数週間前まで桜が咲く季節をこんな気持ちで迎えるとは思ってもみなかった。リナはふと高校に入

          連続小説「88の謎」 

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          第十六話 Più mosso 結局リナはリスナー達からの強い後押しを受け、Princess U "Chouten"への参加を決めた。その時リスナー達にはリナがそう決めたように見えていただろう。リナが応援をしてくれる人達の期待を裏切りたくないと思ったのも確かだったが、実際には既にリナは参加することを決めていた。リナが参加を決めたのは、古民家カフェでぴろからイベントの概要を聞いた時だった。 リナという人間を表す唯一無二の存在、それはピアノだ。リナはピアニストであり、ピアノと生

          連続小説「88の謎」 

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          第十五話 Ottava シンゴは佐藤の話を整理しつつ、疑念を抑えられなかった。 (かなり話にムリがある...というかムリしかなくね?どんだけ国土交通省のお役人はバカなんだか...) IR関連の管轄省庁は国土交通省である。生まれ育った故郷を思い起こして、シンゴは少しの間、感慨に耽った。どう考えても、到底あの地に一大リゾート施設が出来るというイメージが湧かないのだ。ふと視線をグラスに戻し、シンゴは佐藤に尋ねた。 「お話の背景は見えました。それで私に何を期待されているのでし

          連続小説「88の謎」 

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          第十四話 Narrante 待ち合わせに後から来た方がイニシアティブを取れる。そんなことは佐々木小次郎と宮本武蔵が過去に証明しているもんな。だから俺は10分前にここに来たのだ。大体30分以上前から近くのカフェで時間潰して待ち合わせに万全を期す、なんてどこぞの啓発本の受け売りでしかない。 その日のシンゴは敢えて深めの色のスーツを選び、出来るだけ会話を控えて仕事を終えた。緊張はしてるといえばしていたが、どちらかといえば少しワクワクする気分を抑えるのに精一杯だった。だからこそ身な

          連続小説「88の謎」 

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          第十三話 Marcato タカシのMOMOへのキスはいつも丁寧だった。真っ直ぐ目を見つめ、その後ゆっくりと唇から頬、首すじ、耳元まで、繋がれた真珠のひとつひとつを辿るように、優しく這っていく。それに応じるようにMOMOは少し顎を上げ、瞼を閉じる。MOMO は心から「愛されている」と感じた。その気持ちが昂るにつれ、時に泣きそうな感情を抑えるのに精一杯になる。それでも堪えられずに涙が溢れてしまうと、いつもタカシは困ったようにMOMOへ問いかける。 「ごめん、MOMO。嫌だった

          連続小説「88の謎」 

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          第十二話 Lamentabile 軽井沢から旧国道を使い、嬬恋村と湯沢町を経由して魚沼市を越えたあたりで、ゆずを乗せた車は街並みを外れ、とあるガレージに入った。そこはゆず達の仮のアジトであり、さほど快適ではないが最低限の休息を取るには十分であった。昔の交通公園のゴーカート置き場に手を加え、いざの時の備えにしておいたのが役に立った。幸いなことにゆずの腕の怪我は簡単な治療で止血することが出来た。 「ベンツを血まみれにされちゃ敵わんからな。」 仲間の一人が悪態をつく。 「す

          連続小説「88の謎」 

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          第十一話 Klar エリは配信で気になることがあった。ここしばらく少し変わったリスナーが立て続けに来ている気がしたのだ。念のために後で事務所のマネージャーにでも相談しようかと思っていたが、ついつい後回しにしていた。 変わったリスナーの共通点としては、 ①初めて配信枠に来た「初見さん」である ②配信枠に入室と共に高額の課金をする ③ほぼノーコメントで過ごす ④お礼を言う間も無く無言で去っていく そして... 「えー、この人ももうアカウントないじゃーん!?」 エリはワ

          連続小説「88の謎」 

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          第十話 Joybox リナは気を取り直して配信部屋に移動した。たまにはすっぴん配信でもしてみるか。多分この時間ならまだ来るリスナーもいるかも...いや、なんなら誰も来なくてもいいや。 幾分矛盾した思考の中で、リナはピアノを斜めから少し見下ろす画角で、携帯をホルダーにセットした。早く誰かと話したい気分でもあったのは確かだった。そんな気持ちを沈めて、背筋を伸ばしピアノに向かった。肩甲骨ごと肩を回した後、右手の掌手を左手で掴み、ぐっと向こう側に向ける。左右の手を入れ替えてゆっくり

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