記事一覧
ショートショート『君に贈る火星の』
”君に贈る火星の権利”
散歩中、見知らぬ男から突然渡された封筒に書かれた、謎のメッセージ。
どうやら俺は、火星の権利を得たらしい。
土地の権利書でも入っているのかと封筒の中身を確認してみると、出てきたのは印のついた地図だった。
「あれ、これってあの公園か?」
*
「ちょうどこの辺りだな」
印の指す地点に到着した俺は、不自然に盛り上がっている地面を発見。どう見てもここに何か埋まっている。
ショートショート『コロコロ変わる名探偵』
女の勘は鋭い
とよく言われるように、
愛する男の前では、女はみな”名探偵”だ。
今日もある女が、男の部屋で名推理を働かせていた。
「この髪の毛、私のじゃない」
黒髪の女は、寝室の枕元に落ちていた、ゆるくパーマのかかった茶色い髪の毛を拾い上げてそう呟いた。
「新しい女ができたのね、許さない……」
*
黒髪の女が家を後にした30分後、男とゆるふわ茶髪女が帰ってきた。
「……ねえ、ちょっと誰
ショートショート『数学ギョウザ』
「数学上の未解決問題」
それは、数学界に果てしなく存在する、未だ証明が得られていない命題の数々。
「コラッツ予想」は80年以上、
「リーマン予想」は160年以上、
「ゴールドバッハ予想」はなんと270年以上も
未解決のまま今日に至る。
わたしの掲げる「今回こそギョウザの皮とタネをちょうどよく使い切る予想」は、いつ解決するだろう。
ショートショート『株式会社リストラ』
株式会社リストラは、入社希望者が後を絶たない。
「ひとり入社したら、誰かひとりが強制退職させられる」という、社名を感じさせる何とも残酷なルールが人気の理由だ。
自動的に優秀な人材だけが残り、会社にそぐわないとされる存在が淘汰されていくシステムによって、働く社員はやり手中のやり手ばかり。業績は右肩上がり、給料やボーナスの額もトップクラスなスタートアップ企業の採用募集に、向上心溢れる野心家たちが殺
ショートショート『金持ちジュリエット』
”目覚めたジュリエットは、大変驚きました。
なぜなら、目の前には亡くなったロミオの姿が――…”
「あああもう!!なんでまたバッドエンドなのよぉ!!!」
苛立ったジュリエットは、思わずコントローラーを放り投げた。
今年30歳を迎える財閥令嬢のジュリエットは、年齢=恋人いない歴のいわゆる「喪女」だ。「ずーっとうちに居てくれていいんだからね?」と甘やかしてくれる大富豪のパパに無理を言い、自分の名前
ショートショート『アナログバイリンガル』
全盛期のA社を支えていたエース社員が、一身上の都合により会社を去ることになって早20年。社長待望の大型新人が、ついにA社に現れた。
彼はあらゆるプログラミング言語を自在に操る、いわゆるバイリンガルプログラマー。
入社するや否や革新的システムを次々と開発し、A社を再びトップ企業へと引き上げたのだ。
そんな救世主は、入社日から個室が用意されるほどのVIP待遇。今日も彼は誰にも邪魔されない自分だけ
ショートショート『空飛ぶストレート』
「ストレートヘアを持つ人に魔法の粉をふりかけると、空が飛べるの」
ティンカーベルは言った。
「ピーターパンってそんな話だったっけ?」
「”信じる心”が条件じゃなかったっけ?」
「てかコイツほんとにティンカーベルか?」
ネバーランドに何故か迷い込んでしまった僕たちは、目の前に現れた妖精のことがどうにも信じられなかったが、もとの世界に戻るためには空飛ぶ力が不可欠だったので、とりあえず順番に魔法の
ショートショート『しゃべるピアノ』
放課後。今日も私は学校で唯一の話し相手に会いに、
ひとり音楽室へ向かう。
ピアノの椅子に腰かけ、その日あったことを報告するのが私の日課だ。
「今日は英語で小テストがあってね」
「…小テストなんてあったんだ」
「そう、予習のおかげで満点だったの」
「…そっか…すごいね…」
「……ねえ、どうしていつも話しに来てくれるの?」
いつも相槌ばかりだった君が、初めて質問を投げかけてきた。
どうしてってそ
わたしを思い出させてくれた、tokyobikeというブランドが好きだ。
東京は下町・谷中発のサイクルメーカー「tokyobike(トーキョーバイク)」が、このたび清澄白河にフラッグシップショップ「TOKYOBIKE TOKYO」をオープンするということで、いちユーザーとして ファンとして、遊びに行ってきました。
かっこいい外観。
おしゃれな内観。
部屋に飾りたい植物たち。
(メルボルン発のプランツショップ「The Plant Society」がパートナー店舗と
「長野に行くならこれ食べてきて」と勧めたら「閉店らしいよ」と返事がきた。
えっ。
友人が送ってくれた食べログのURLをタップすると、確かにページのあたまに「閉店」の文字。
それはそれはショックでした。だってその店は、今まで出会った食べ物の中で最もわたしに衝撃を走らせ、同時に最もわたしをワクワクさせた「焼きおにぎりパン」のある場所だったから。
長野県は長野市にある(あった)「森田ベーカリー」という名のパン屋さん。どうやら2020年の5月末、74年間もの長い歴史に幕を