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北乃利人
2021年7月5日 22:06
電車待ちのホーム。今日は、晴天なれど思いのほか風が強い。着ているシャツが、パタパタとはためく。バタバタといってもいいくらいだ。電車到着までは、まだ時間があるようだ。そこでおれは、目をつむり思考を飛ばしてみる。目の前に広がるのは、広大な海だ。ここは日本海か。海風が容赦なくおれを洗う。あいにくの曇空。じきに一雨くるだろう。人影も無く、猫の子一匹見当たらない。ただただ、白浪
2019年8月12日 22:20
「どちらになりますか」「ありがとうございます」「いや〜、ありがたいですよ。今日は人出も少なくて」同業者でごった返した道路を、車は慎重に動き出した。「車内の温度はいかがですか」いや〜今日も暑かったですよね〜こんな日は、みんな早目に帰っちゃうのか、ススキノはガラガラですよ。そうなんですね… 実はね、私、こう見えて昔、会社をやってましてね。えっ、そうそう、会社を経営してたんで
2019年6月29日 15:47
「雨が降ってるのか…」目覚めた時、なんとなくすぐに分かった。だってかすかに、アスファルトが濡れている音が遠くで聞こえているから。「朝から雨か」今日が休日で良かった。これが平日、これから仕事といった朝なら、きっとげんなりしたはずだ。雨の日は、煩わしいことがやたら増える。着て行く服になやみ。履いて行く靴を気にかけ。なにより、傘というまあまあの荷物が一つ増えるから。「けっこう降
2019年6月13日 09:35
彼は空を飛ぶことを夢見ている。でも現実には、履き潰したスニーカーは地面にへばり付いたままだ。彼は、空を飛べはしないだろう、とも思っている。だから、その場でジャンプをしてみることさえしたことがない。ジャンプしたところで、空を飛べることなど決してないと思うからだ。事実、夢を語る時、誰もが空を見上げるばかりなのだから。あの人も。あの人も。あんな人でさえ。ある日、懐かしい顔を見かけた。
2019年2月15日 22:02
生産性なんてな無いと思ってた。あの頃は…北の街の二月には、晴れ渡る青空よりも、少し寒さが和らいだ雪時々曇り、そんな朝がいい。湿った雪がしんしんと降り続く音無き音。湿度が窓を曇らせて、この部屋は打ち捨てられた様に静かだ。彼女と足を絡めながら、狭いベッドで天井を見上げて過ごす。時折、その髪の匂いを嗅ぐ。少しだけタバコの香りがする。彼女はタバコを吸わない。それだけ、この部屋で長い時間