見出し画像

ハルジオン

前作はこちら。

桜井時音しおん提案ていあんで、
時田真守まもるは家族と彼女の4人で、
ホームパーティーを行うことに。
 
しかし突然、
時音はその最中に帰ってしまう。
 
真守が何度、時を戻しても…。
 
そして出て行った時音を、
追いかけた真守は…。
 
「ちょっと待って…」
「時田さん…。
 どうして…
 どうして、時を戻さないの?
 
「だって、
 無駄なんだろ…何をしたって
「そうよ。
 絶対にのがれられない未来。
 あなたがどんなに時間を戻そうと、
 私の選択肢は変わらない未来
 
「やっぱり…
 何でこんなこと」
「単純なことよ。
 
 その能力が万能じゃないことを、
 知ってもらうため。
 
 そして…
 
 あなたと…
 さよならするためよ

 
「さよならって…
 僕たち…
 始まってもいないのに終わりなの?

「じゃあ時田さん…
 能力を使わないとちかえる?
 
「なぜそんなに僕に、
 能力を使わせたくないの?」
「………」
 
「時音ちゃんは、
 僕の何を知ってるの?!
「あなたが…
 あなたが教えてくれたんじゃない!
 私に正しい能力の使い方を!
 そして能力との向き合い方も!

 
「え?
 いつ?」
「やっぱり…覚えてないよね。
 忘れてしまったの…あの日のこと」
 
「あの日?」
 
ス~~
 
空から何かがフワリと降ってきた…。
 
雪?
 いや、桜の花びら…

 
「思い出して、時田さん!
 …………
 思い出してよ……
 …………
 …………
 …………」
 
また…
小さい女の子が泣いていた。
 
彼女の前には女性が倒れている。
 
そして…
猛スピードで逃げていく車。
 
女の子はかがみ込み、
大声で泣きじゃくっていた。
 
(かわいそう…
 かわいそう…
 
 助けなきゃ!
 助けなきゃ!!)
 
僕が近づくと、
彼女は真っ赤な目でこちらを見上げた。

(この目…) 

だいじょうぶだよ…僕にまかせて
 
次の瞬間…
知らない男性が現れた。
 
そしてその男性は、
あわてた様子で…電話をかけた…。
 
(なんだ…
 何なんだ…これは…)
 
街路樹の桜は散り落ち風にのり…
紙吹雪のように、花びらが舞っている。
 
そして泣いていた女の子は、
その桜吹雪の中へと消えていった。
 
………。
 
「何だ、今の?!」
「どうしたの、時田さん?」
 
……
 もしかして、
 泣いていたのは君なの?

「………」
 
「車に轢かれた女性の前で」
「………
 思い出した?」
 
「でも…ハッキリしてないんだ。
 僕は君に声を掛けた後が、
 よくわからなくて…」
「でも、そこまで思い出したんだ。
 
 私の口から話そうと思ったけど、
 覚えてない人にそんな話…。
 
 しかも…
 いきなりこんな変な話したって、
 信じてもらえないし困惑すると思って、
 話せなかった…。
 
 でも、思い出してくれてよかった。
 
 ここからは私が順を追って、
 話してもいい?

 
「…うん」
「あれは私が小学4年の時。
 
 新学期になったばかりの、
 ある日の帰り道。
 
 私は…
 信号に止まらず家まで帰るっていう、
 思いついたひとり遊びをしていたの。
 
 もうこの時、私は、
 時間を戻せる能力が使えてた。
 
 赤信号につかまると、
 時間を戻し…
 ダッシュで青信号のうちに駆け抜けて…。
 
 そんなことしているうち、
 私は家の近所の信号まで来たの。
 
 そして私が、
 最後の横断歩道を渡ろうとした時…
 私の横を自転車が通り過ぎた…。
 
 次の瞬間には…
 私の目の前に女の人が倒れてた
「それは…」
 
「ぶつかった車はすぐに走り去って、
 残された私はどうしていいか、
 わからなかった…。
 
 でも目の前の人を助けなきゃ!
 この人、このままじゃ死んじゃう!
 
 そう思って…
 私は時間を戻した。
 
 その人を助けたい一心で…
 
 でも、ダメなの…。
 何回やっても無理だったの。
 
 私は女の人を何度も止めた!
 そっちにいっちゃダメって!
 
 でも何回戻しても、
 女の人は轢かれたの…
 私の目の前で…何度も…

「………」
 
やがて時間を戻せなくなった時…
 私は…うずくまって泣くしかなかった。

 
 悲しくて…
 ふがいなくて…
 グッシャグシャになるまで泣いた。
 
 すると急に目の前に、男の子が立ってた。
 
 その男の子は、こう言ったの…
 
 だいじょうぶだよ…
 僕にまかせて…
 
 とても優しい声で…」
「………」
 
「そしたら次の瞬間…
 男の子の姿は消えて、
 そこには救急車が止まってた。
 
 そしてすぐに女の人は運ばれていった。
 
 あとで母から、
 女の人が無事なことを知った。
 
 でも、私は怖かった。
 本当に怖かったの。
 
 だって私が時間を戻したから、
 女の人が事故に合ったと思ってたから。
 
 能力を使うことで人を不幸にする…
 その可能性があると知ってしまった。
 
 そして例え時間が戻せても、
 戻らないものがあるっってことも…。
 
 でもあの時…
 あなたが助けてくれた。
 
 そして…
 教えてくれた。
 
 きちんと、
 目の前の現実と向き合いなさいって。
 
 あなたはそれを行動で、
 私にしめしてくれたのよ

「僕が…」
 
「私の想像だけど…
 あの時あなたは、時間を戻した…。
 
 しかも無意識に…。

 だから覚えてないんだと…。
 
 そして時間を戻したあなたは、
 おそらく近くの大人を探して、
 救急車を呼んでもらった。

 
 だから事故直後なのに、
 目の前に救急車が到着して、
 女の人はすぐに救助された

「そうか…。
 5分戻して事故が起きる前に、
 救急車を呼んでおいたのか

 
「私もあの時…
 あなたに救われたの。
 
 あのまま…
 あの人にもしものことがあったら、
 私は一生その傷で苦しんだはず。
 
 だから…
 あなたはヒーローで…私の恩人。
 
 そして…16年。
 
 あなたを見つけた時は、
 本当にうれしかった…

「?!」
 
「私は面接会場で、
 偶然、あなたを見つけた」
「!!」
 
「私は受からなかったけど、
 あなたが受かったのは、
 会社の近くで見かけたから…。
 
 私はどうしても…
 お礼が言いたかった…。
 
 あなたに会って…あの時のことを。
 
 だから友達のつてを辿たどって、
 やっとあの合コンを…」
「あの合コンって…まさか?!」
 
「そうよ。
 時間掛かちゃったけど…。
 
 でもやっと会えるって思うと、
 すごくうれしかった…
 
 でも、その当日…
 あなたは来なかった

「僕が?
 …来なかった?
 いや僕は…」
 
最初●●、参加メンバーに、
 あなたの姿はなかった。
 
 だから私は、
 あなたが合コンに呼ばれるよう、
 友達にお願いして、
 参加する男性のひとりを、
 個人的にデートに誘ってもらったの

「ちょっと待って。
 え?!
 それって…時音ちゃん…
 時間戻したの?
 
そう…あなたが参加するように
「戻すって…え!?
 合コンに来ない僕を確認してからって…
 それって…戻す時間が…

 
「時田さん、
 当然それも知らないわよね。
 
 私も最初は1日5回…
 5分しか戻せなかった。
 
 でもあの事件以降、
 ずっと能力を使ってなかった。
 
 そして気付いたの…」
「………」
 
「その日…
 使わなかった能力は蓄積ちくせきされる…
 ストックされるということに

 「ストック?」
 
「そう。
 この能力は繰り越すことが出来る…
 使わなければ使わないほど
「えっ?!」
 
「それに気付いた時、
 私は1度だけ試したの…
 その時は10分戻せた…。
 
 でもやっぱり怖くて、
 それから私は使ってない…。
 
 私が止めたのは、
 小学4年の夏休み前から…。
 
 だからその気になれば、
 2週間ほど戻すことができる。
 
 だからあの日は、
 あなたが来ないことを知り、
 丸1日…24時間戻したの
「何で、そこまでして僕を…」
 
私はあなたに、
 どうしても会いたかった。
 ごく自然な形で…

「……何か…ごめん。
 ごめんね、こんな僕のために…。
 
 使いたくない能力使わせて…
 しかもこんな僕で…。
 
 がっかりしたよね…。
 
 時音ちゃんのこと覚えてないし、
 記憶の中のような…
 カッコいい僕じゃなくて…

 
「いいの。
 忘れてるのは分かってたし…。
 
 でもこうやってまた会えて、
 大事なことも伝えられたから…。
 
 能力のリスク…
 わかってくれたでしょ?
 
 時田さん…
 能力で逃げた先にも、
 逃げられないことがあるの。
 
 だから……」
「………
 ありがとう、時音ちゃん。
 
 君の言ってることが、
 ようやくわかったよ。
 
 話してくれてありがとう。
 
 それに大事なことを、
 思い出させてくれて…。
 
 それもこれも、
 君と昔の僕のおかげだ…。
 
 これからは能力に頼らず、
 嫌なことから逃げずに、
 現実と向き合っていくよ

 
「…よ…よかった…。
 ほんとう…に…よかった…。
 
 ………。
 
 それだけ聞けたら…
 ……もう充分。
 
 時田さん……
 あの時は本当にありがとう。
 
 いま…
 私がこうしていられるのは、
 あなたのおかげです。
 
 本当に…本当にありがとう。
 
 じゃあ………元気でね
「ちょっと、待ってよ。
 僕たちは…終わりなの?」
 
「………」
僕はもっと君を知りたいよ…
 時音ちゃんのこと。
 
 まだ僕は、何にも知らないんだ。
 
 パクチーが好きなことしか。
 
 だから…
 また僕と出かけてくれないかな。
 
 今度はちゃんと予約するから

 
「なに……
 そのカッコ悪い誘い方。
 もっと、情熱的な言葉とかないの?」
「ごめん。
 
 ………。
 
 時音ちゃん…
 
 ………。
 
 好きです…
 付き合ってほしい

 
「………
 ………
 ………いいよ
 
ス~~
 
フワリフワリと綿毛のような雪が、
二人を祝福するかのように…
頭上に降りそそいだ。
 
 

このお話はフィクションです。
実在の人物・団体・商品とは一切関係ありません。

お疲れ様でした。