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『小江戸ぶらり珍道中』 第三話 約束の場所

《あらすじ》
 銀婚式を迎えた夫婦の金田勝治と信子は、結婚して既に独立した長女の美穂から、娘婿と一緒に住んでいる川越での食事の誘いを受けた。
 あまり乗り気でない勝治とは違い、信子は久しぶりのお出掛けに胸膨らませていたのだ。そして小江戸(川越)へと二人の珍道中が始まるのであった。
《目次》
第一話 一本の電話
第二話 到着までの道中
第三話 約束の場所
第四話 お店の中で
第五話 帰りがてら

第三話 約束の場所

 東武東上線に乗り、娘婿夫婦の住む川越市に降り立った金田勝治と妻の信子だが、東武東上線の『川越市駅』で娘婿夫婦と落ち合う事となっていた。時計の針は、まだ正午の十二時前であったが、勝治と妻の信子は『銀婚式』のお祝いとして一人娘の美穂(旧姓:金田美穂)や孫の俊太に会えることを心待ちにしていたのだった。

 二人は駅の前で暫く待っていると、一台の白いワンボックスカーが勝治と妻の信子の二人の目の前の道に停まり、運転席から一人の男性が降りてきた。そう娘の美穂の夫である長山正平だ。正平は二人を見つけると、嬉しそうな笑みを浮かべ二人の方へと近づいて来た。そしてこんな言葉を勝治と妻の信子に投げかけたのだ。
「お久しぶりです。お義父さん、お義母さん。 場所はわかったでしょうか?」

 この言葉に最初に反応したのが妻の信子であった。
「あら、ずいぶん久しぶりねぇ。娘の美穂から電話で聴いてたから大丈夫よ!」
「それは良かった。車の中に今、美穂も息子の俊太も載せて来ているので・・・」

 そう正平が答えると、勝治は嬉しそうにこう言ったのだ。
「つまらない物だが孫の俊太が好きだと思って……バームクーヘンを買って来たんだが・・・」

 勝治は孫の俊太のために自分が買って来てあげたと言うアピールをし、その事を婿の正平にアピールしたのであった。この言葉を聴いた妻の信子は、夫である勝治に花を持たせてあげたのだ。そしてこころの中ではこう思っていた。
「つい一時間前までは、洋菓子じゃなく和菓子だって言ってたじゃない。それに貴方は穴の空いたバームクーヘンじゃなく、餡子がぎっしり詰まった大福でしょ!」

 そんな思いが湧き起ったが、言葉に出すと勝治が拗ねると思い、妻の信子は大人の対応を取ったのだ。そして再びこころの中でこう呟いた。
「これで貴方に貸しがひとつ出来たのだから、近いうちに返して貰いましょう」

 そう信子が思っていると、夫の勝治と婿の正平は車の方へと歩きだしたのであった。その後を妻の信子も後ろから付いて行き、白いワンボックスの車の中に乗り込んだ。そして久しぶりに勝治と妻の信子は娘の美穂と再会し、また小学校二年生になる孫の俊太と再会を果たしたのである。

 そこから車で『時の鐘』の方角に十分くらい車を走らせ、その途中にある一軒のお店の駐車場に吸い込まれて行ったのだ。そこが今日、勝治と妻の信子の『銀婚式』を迎えるために、娘婿夫婦が予約していた『鰻割烹「小澤菊」』と言う鰻屋である。

 実は勝治の好物である鰻を知っていた娘の美穂は、夫である正平に川越で一番美味しい鰻屋をリサーチして、今回の勝治と妻の信子の二人の『銀婚式』に食して貰いたいと思っていた。

 車から降りた勝治は、とても嬉しそうに婿の正平や娘の美穂にこう言ったのだ。
「俺の好物を覚えてくれていたのだな、ありがとうよ!」

 そう言うと正平や娘の美穂も続けざまにこう言ったのである。
「いやぁ、美穂がお義父さんにぜひ食べて貰いたいからと言うから・・・」
「お父さん、昔っから俺の誕生日は鰻を食わせろって、口癖のようにお母さんに言ってたわよねぇ」

 すると今度は嫁の信子が、こんなのとを言ったのだ。
「長月(九月)になりましたが、まだまだ暑い日が続きますから精力つけて仕事も頑張って貰わないと・・・」

 この言葉を聴いた勝治は嬉しさと照れくささで、こう言ったのであった。
「それじゃお店の中へ、金田家 長山家の御一行様のお通りだぁ。そして若殿の俊太 様のお通りだぁ」

 勝治がこう言って『鰻割烹「小澤菊」』の中に孫の俊太を肩車して入って行くと、俊太も嬉しくなってこう言ったのだ。
「僕は殿様だ、頭が高い控えおろう」

 するとお店の中にいる店員さんやお客さん達がどっと笑い、笑顔が溢れたのであった。

つづく・・・

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