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『小江戸ぶらり珍道中』 第一話 一本の電話

《あらすじ》
 銀婚式を迎えた夫婦の金田勝治と信子は、結婚して既に独立した長女の美穂から、娘婿と一緒に住んでいる川越での食事の誘いを受けた。
 あまり乗り気でない勝治とは違い、信子は久しぶりのお出掛けに胸膨らませていたのだ。そして小江戸(川越)へと二人の珍道中が始まるのであった。
《目次》
第一話 一本の電話
第二話 到着までの道中
第三話 約束の場所
第四話 お店の中で
第五話 帰りがてら

第一話 一本の電話

 先日、当然一本の電話が金田勝治と信子の住む家に飛び込んできた。その電話の相手は金田家の一人娘で、現在は結婚して川越市に夫と息子の三人で暮らす長山美穂(旧姓:金田美穂)からの電話であった。

 電話に出た信子は久しぶりの娘との会話に花を咲かせ、お互いの近況などを語り合ったのだが、信子の夫であり美穂の父親である勝治はこう思っていたのだ。
「金田家から出ていった者に今更、何の用事があるんだか?」

 勝治は一人娘の美穂に対して、頑なまでに厳しい姿勢を取ってきた。それには美穂と美穂の夫である長山正平の駆け落ちとまで言える結婚に原因があった。当時、勝治は美穂や正平に対して自分のお店である『八百屋』を手伝って貰いたいと言う思いがあったからだ。

 しかしその期待は途中から裏切られ、正平の実家がある川越へ移り住んで、正平の実家が営む宿場を切り盛りする事となった。そして信子と娘の美穂の電話がようやく切れたのだった。
「ねえ貴方、今度の週末に娘婿の正平さんのところの宿に来ないかって、美穂から誘われて・・・」

 この言葉を聴いた途端、勝治は不貞腐れるように妻の信子にこう言った。
「突然の誘いって、今までそんなこと一度も無かったなあ? 誘うからには大義名分があるはずだが・・・」
 そう言うと、信子も間髪入れずにこう言ったのだ。
「わたしも忘れてたんだけど・・・。 わたし達の結婚二十五周年の『銀婚式』のプレゼントだって!」

 この大義名分を聴いた勝治は、論破することなど無理な大義名分に、ぐうの音も出なかったのだ。そして信子は、どんな服装で出掛けるか箪笥から何着か服を出しては、衣装合わせをしていた。その様子を観て、夫の勝治は信子にこう声を掛けたのだ。
「信子! 何時もの普段の服装と同じでいいじゃないか」
 そんな勝治の言葉を聴いた信子は、血相を変え夫の勝治にこう言ってきた。
「貴方わかってるの? わたし達の『銀婚式』なんですよ、今度の週末は・・・」

 この信子の言葉を尻目に、夫の勝治はこんな風に思ったのである。
「これだから女は面倒なんだよ。結婚して二十五年も一緒なんだから、今更何を着ようが大差なんかないと思うんだが・・・」

 こんな言葉が喉の所まで出かかったが、勝治はグッと堪え言葉を呑み込んだのだ。下手に軽口を叩くと痛い目に遭う事は承知していたからであった。だから勝治は妻の信子の機嫌を損ねないよう、信子が着る服を観てこう言った。
「いやぁー。 お前は何を着ても良く似合うじゃないか。俺はお前と『銀婚式』を一緒に迎えられるだけで幸せなんだよ!」

 こんな上っ面の言葉が、いとも簡単に勝治の口から出て来るわ出て来るわ。それを聴いた信子も満更ではない。
「ほんとー! 貴方がそんな事言うの、ずいぶん珍しいわねぇ」

 勝治はこの時思ったのだ。所詮、女は何時になっても乙女でいたいと思うし恋心はある。それは五十路の信子も例外ではない。そして漸く服装も決まり、勝治と信子の週末の『小江戸ぶらり珍道中』の旅が始まるのであった。

つづく・・・

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