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『地獄の黙示録』の心臓〜極端な偏見で始末せよ
ウィラード大尉はナ・トランの司令部に呼び出される。
そこで三人の男に迎えられる。若い将校と年配の将校、そして軍服でなくワイシャツ姿の男だ。右襟の階級章から判断すると、若い将校はカーツと同じ大佐であり、年配の将校は大佐より二階級上の中将であることが分かる。ワイシャツ姿の男は諜報機関の関係者、おそらくCIAの局員という設定なのだろう。脚本には“civilian(非軍人、文民)”と書かれている。
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑩ ついに書き始める
キューブリックは脚本を書き始める
キューブリックはキングの『シャイニング』に夢中になりましたが、そのストーリー全てを気に入った訳ではありませんでした。
キューブリックが説明します。
「正直なところ、本の結末は私には少々平凡で、あまり面白いとは思えなかった。私は観客が予想もしないような結末が欲しかった。
映画の観客はハロランがウェンディとダニーを助けると思うだろう。ハロランが殺されると、
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑨キングとキューブリックの会話
キングとキューブリックの対立
キューブリックはスティーヴン・キングの小説『シャイニング』に夢中になりましたが、その物語の全てを気に入った訳ではありませんでした。
小説『シャイニング』の映画化権が売れてからキューブリックによる映画化を知らされるまでの間に、キングは自ら『シャイニング』の映画脚本を書きました。
しかしキューブリックはキングの脚本を読みさえしなかったそうです。最初から原作のあらす
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑧『ザ・ブルー・ホテル』
『ザ・ブルー・ホテル』
キューブリックはキングの小説『シャイニング』のどこに惹かれたのでしょうか。
ホラー映画を作ろうとした訳ではない、とキューブリックは言います。
「私はずっとESPやパラノーマル現象に興味を持っていた。これまでの科学的実験では、その存在についての決定的な証拠が単に不足しているだけということが示されている。
(中略)
しかし映画『シャイニング』はそれについての映画を作ろ
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑦“シャイン”との出逢い
『シャイン』と出逢う
手当たり次第に読書するキューブリックはやがて複数の小説に興味を惹かれます。その一冊がスティーヴン・キングの“シャイン”という小説でした。
後に『シャイニング』として出版された小説は元々は『シャイン』という題名でした。
1980年、『ヘヴィー・メタル』誌のインタビューでスティーヴン・キングが説明します。
「(シャインという題名は)ジョン・レノンとプラスティック・オノ・バ
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑥矢追純一氏の取材
矢追純一氏への証言
ある小説を映画化したいと思うのは、その小説に恋するようなものだ、とキューブリックは言いました。
同様の証言をキューブリックから直接聞いた日本人がいます。
それは矢追純一氏です。
日本で『シャイニング』が劇場公開される直前の1980年冬、矢追純一氏はキューブリックに突撃インタビューを試みました。テレビ番組「木曜スペシャル」の為に取材したそうですがその番組では使われず、
『シャイニング』の脚本が出来るまで⑤原作選びは恋と同じ
映画化の決め手は恋と同じ
キューブリックは映画の原作としてどのような物語に惹かれるのでしょうか。フランスの評論家ミシェル・シマンのインタビューには次のように答えています。
「正直なところ、何が私にこれまでの監督作品を作らせたのかを答えることは出来ない。私に言える最善の答えは、私がその物語にただ恋をしたということだ。
突き詰めると、なぜ夫がその妻に恋をしたかを説明するのにいささか似てくる。つま
『シャイニング』の脚本が出来るまで④『時オレ』と『バリ・リン』の場合
『時計じかけのオレンジ』と『バリー・リンドン』の場合
キューブリックはどのような小説が映画化の原作に相応しいと考えたのでしょうか。
小説『時計じかけのオレンジ』のどこに惹かれたのかという質問に対してキューブリックは次のように答えています。
「すべてだ。そのプロット、登場人物、思想にもだ。また、この物語が特に偶然の一致とあらすじの対称性を故意に何度も使っている点でおとぎ話や神話にとても近いこ
『シャイニング』の脚本が出来るまで③運を頼りに読書する
キューブリックは運と偶然を頼りに読書を始める
キューブリックはどのように映画の原作を探すのでしょうか。
その方法は手当たり次第に読書することだとキューブリックは説明します。
「『バリー・リンドン』が完成すると、私は多くの時間を読書に費やした。数ヶ月が過ぎたが特に興奮するものは見つからなかった。とりわけこういう時には、どれほど多くの本を読まなければならないか、そして(目的の本は)決して見つから
『シャイニング」の脚本が出来るまで②オリジナル脚本は書かない
キューブリックがオリジナル脚本を採用しない理由
キューブリックは自分自身でオリジナルの脚本を書くことはありませんでした。その代わりに原作になりそうな本や記事を探します。
オリジナル作品を作らない理由をキューブリックは次のように説明します。
「文学作品を原作とすることにはとても素晴らしい利点がある。それは、そのストーリーを初めて読み知る機会が得られることだ」※1
さらに説明します。
「私
『シャイニング』の脚本が出来るまで①『バリー・リンドン』の不入り
『バリー・リンドン』の公開後、キューブリックは次作の題材を探し始める
キューブリックが監督した『バリー・リンドン』は1975年の12月を皮切りに世界各国で公開されました。
ヨーロッパ諸国での『バリー・リンドン』の興行成績はまずまずでしたが、イギリスとアメリカでは配給会社ワーナー・ブラザースの期待に届きませんでした。キューブリックも落胆したそうです。
「『バリー・リンドン』でキューブリック
『シャイニング』二人のグレディ
グレディは、ジャックより数年前にオーバールック・ホテルの冬期管理人だった男である。
そのグレディの名前がストーリーの途中で変わってしまうのである。
どういう事かというと、映画の冒頭で描かれるジャックの面接場面でホテルの支配人はグレディの姓名を“チャールズ・グレディ”だと説明する。
ところがストーリーの後半、ボールルームの化粧室の場面ではグレディが自分の姓名を“デルバート・グレディ”と名乗る
『シャイニング』双子の少女の誕生
『シャイニング』に登場する双子の少女たちは、もはやこの映画のアイコンだ。
この双子の少女のイメージは、写真家ダイアン・アーバスの作品にキューブリックが触発されたのではないか、と言われているが実は偶然の賜物だった。キューブリックは凝り固まった完全主義者ではない。試行錯誤しながら、より良いものを探し求める。その過程で偶然が幸運をもたらすこともあった。
スティーブン・キングの原作小説では双子でな
『シャイニング』幻の病院場面②
削除された病院場面について、ダイアン・ジョンソンは次のように言っている。ジョンソンはキューブリックと共同で『シャイニング』の脚本を書いた小説家だ。
「キューブリックは、病院にいるウェンディとダニーを見せて、二人が無事であることを観客が知るべきだと感じていました。キューブリックはウェンディとダニーに愛着があったんです。そしてホラー映画の最後では、すべてが正常に戻って観客が安心するべきだと考えてま
『シャイニング』幻の病院場面①
病院の場面は、すでに複数の劇場で一般公開が行われている最中に削除された。編集技術者が映画館に派遣され、キューブリックの厳密な指示に従って物理的にフィルムを切り取ったのである。
病院場面はストーリーの中でどのような意味を持っていたのであろうか。
病院場面が削除されたことについて、ウェンディ役のシェリー・デュバルは公開半年後、以下のように感想を話した。
「彼(キューブリック)は間違っていたと思