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『シャイニング』の脚本が出来るまで⑦“シャイン”との出逢い

『シャイン』と出逢う
 
手当たり次第に読書するキューブリックはやがて複数の小説に興味を惹かれます。その一冊がスティーヴン・キングの“シャイン”という小説でした。


 後に『シャイニング』として出版された小説は元々は『シャイン』という題名でした。
 1980年、『ヘヴィー・メタル』誌のインタビューでスティーヴン・キングが説明します。
「(シャインという題名は)ジョン・レノンとプラスティック・オノ・バンドの曲『インスタント・カーマ』から採ったんだ。歌詞に、〝われわれはみな輝き続ける(シャイン・オン)〟という一節があってね。その部分がすごく好きで拝借したのさ。『シャイニング』はもとは『シャイン』という題名だった。ところが誰かが、“シャインというのは黒人に対する差別用語だから使えない”と言い出してね。自分のことをからかわれて嬉しい人間はいないから、僕は“わかった、題名を変えよう、でも何にする?”と訊いたんだ。すると、“シャイニングは?”と提案してきたから、“どうもしまりがないなあ”と答えておいた。けれど出版社の方は、“それでじゅうぶん意味は通るし、それだと本に大きな変更を加える必要もない”と言ってね。そんな具合で結局あの本は『シャイン』ではなく『シャイニング』になったというわけさ」※1

さらに1982年4月号のペントハウス誌では次のように言っています。

「というのも、ほかならぬ『シャイニング』(輝くもの)というタイトルは、ぼくが元々つけたタイトルじゃないからだ。原稿を出版社に渡したときには、ただの『シャイン』(輝き)という題名だったんだよ。契約書の記録もそうなってる。そのうち、みんなでテーブルを囲んでこの本の話をしているときに、ダブルデイ社の付帯権利担当者が立ち上がって、こう言ったんだ。「この黒人コックがててくる本を、本当にこのタイトルで出版したいと思ってるのかい?」ってね。「どういう意味だい?」ぼくは尋ねた。するとその男は、第二次大戦当時には〝シャイン〟という単語が、〝ニガー、黒んぼ〟や〝クーン黒公〟といった差別的単語とおなじ意味あいで使われていたと説明してくれたんだ。〝靴磨きの少年、シュー・シャイン・ボーイ〟の短縮形だということも教えてくれた」※2

 “靴磨きの少年”がなぜ差別語になるかと言うと当時、靴磨きをするのは貧しい黒人が多かったからだそうです。
また“シャイン”には黒人の肌の艶を仄めかして揶揄する意味もあるそうです。

1970年代のスティーヴン・キング

 キューブリックはこの小説のゲラ刷りコピーを出版前に手に入れました。そのため、キューブリックの書き込みがあるコピーの題名は『シャイニング』ではなく、『シャイン』になっています。
 キューブリックにコピーを送ったのは、当時ワーナー・ブラザースの社長兼副会長だったジョン・キャリーです。キャリーはキューブリックの良き理解者でした。
 では、キューブリックはこの小説のどこに惹かれたのでしょうか。

ジョン・キャリー(2000年頃)
“Life in picture”より

 

キューブリックの書き込みがある〝シャイン〟のゲラ刷り

※1: アンダーウッド、ティム&ミラー・チャック編『スティーヴン・キング インタビュー 悪夢の種子』風間賢二監訳、リブロポート、251ページ

※2: 同上書 387ページ


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