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生活すること

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生きるって何だろう?それは生活することなのではないだろうか────30才で伊東市にある海の街へ移住して感じたことを書いています。
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#多様性を考える

社会と私の間にはいつもアートがある

社会と私の間にはいつもアートがある

他者と上手く混ざり合えたら、伝えられたらアートなんて必要ない。私はいつも社会と自分の間にできた溝を埋めるように作ってきた。作らないでいられることはそれだけ人生が充実している証拠でもあり、作れることは自分だけの逃避場所があるということ。アーティストが元気な時より病んでいる時の方が作れるなんて話があるのは、創作行為が現実からの逃避だからなのだろう。

作る時は一人だ。みんなで一緒に作るバンドなどは例外

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私のポンコツバッテリーの使い方

私のポンコツバッテリーの使い方

まるで水の底にいるかのような重たい身体を、地べたに横たえる。胸が締めつけられているせいで上手く呼吸ができず、脳に充分な酸素が行き渡らない。1秒先のことを考えるだけで精一杯。冷蔵庫の中にあった納豆や豆腐やレタスなどの調理しなくてもいいものを機械的に食べ、また地べたに横たわった。この傾いた世界を見るたびに私は、自分が躁鬱だったことを思い出す。

風景画展の準備のために大量のエネルギーを使い、バッテリー

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戦わない勇気

戦わない勇気

ギターとキャリーバッグを担いで、バスへと乗り込んだ。運転手さんにゆっくりでいいですよ~と言われる。久しぶりの大荷物に私は手こずっていた。こんなに重たかったっけ。今回の荷物はまだ少ない方で、これよりもっと重い荷物を担ぎながら全国を飛び回っていたなんて信じられない。あの頃は重さなんかよりも、世界が広がっていくワクワク感の方がまさっていたのだろう。伊東駅でお土産を買うと店員さんに、たくさんありがとうござ

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天国に生まれた私たちは

天国に生まれた私たちは

家にいながら好きな時間にドラマや映画を楽しめる。本を読まなくてもYouTubeで誰かが分かりやすく解説してくれている。お店に行かなくてもネットで注文すれば次の日には欲しいものが届く。どんなに遠い世界の果てでも写真や動画で見ることができる。お店の口コミを調べればハズレを引くリスクを下げられる。100円均一でだいたいの生活用品は揃えられる。500円払えばおいしい牛丼を食べられる。スマホを開けばすぐに誰

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現代社会での自分なりの幸福論について考えてみる

現代社会での自分なりの幸福論について考えてみる

観葉植物たちが無事に冬を越えられるかを心配している。ベンジャミンは部屋が寒すぎたのか、半分ほど葉を落としてしまった。パキラは冬眠させているからあまり変わっていない。他の植物たちは冬の日差しでもニョキニョキと成長し、新芽を生やしたものもある。植物を通してたくさんのことを学んだ。水をあげるタイミング、日差しとの距離、土に混ぜる肥料の種類、植え替えの時期など、それぞれの植物に合わせて環境を用意する必要が

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海の上で暮らしているようで

海の上で暮らしているようで

どうやら数日前からフラットな世界へ戻ってきたようだ。躁と鬱の両方を体験した約1ヶ月半はかなり危険な旅だったけど、無事にまたここへ戻ってこられて安堵している。波のある生活を受け入れることにしているから波があること自体に問題はなく、どんな旅で、どうやって戻ってきたのかが分かれば次の波もそれほど怖くない。躁鬱はまるで、海の上を漂う船に乗っているようだと思った。追い風を受けて加速しすぎれば、戻ってこられな

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誰かの幸せと私の幸せ

誰かの幸せと私の幸せ

私は幸せのハードルがとても低くなった。毎日海を見に行けて、お気に入りのコーヒーが飲めて、干物が食べれて、ご近所さんと喋れて、作品を作ることができれば満足。今はこれ以上望むものはない。だから毎日がわりとハッピーで、たまに鬱は来るけどそれでも根底はハッピーで、明日も明後日もこの繰り返しでいいなあと思っている。向上心のカケラもない(笑)ただ探究心はある。音楽も絵も文章も躁鬱も、もっともっと深く知りたい。

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降っていく

降っていく

手すりを掴みながら、緩やかな階段を一段一段降っている。いつまで降るのだろうか。今までは急降下してしまい、何が起きたのか分からないまま地面に叩きつけられて大きなダメージを負っていたけれど、今回は落ちるのを理解しているから自ら下へ向かってみている。ここで無理やり元気に振る舞おうとしたり、普段と同じことをやろうとすると、余計に下へ引っ張られる。争うのではなく、受け入れていくイメージだ。躁でやりすぎた分、

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伝えること

伝えること

人は馬で移動しなくなって乗馬が趣味になったように、自分で考えて伝えることが趣味になるという話を聞いて腑に落ちてしまった。自分の頭で考えていることを、他人へ誤解のないように分かりやすく伝えるのは難しい。私は考えて伝えることは、人間だけに与えられた究極の嗜好品だと思っているのだけれど、どうやらそれすらも放棄しようとしているらしい。面倒くさい人間同士のやり取りをAIで早く終わらせて、摩擦のない円滑な世界

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一人が好きなのは悪いことじゃない

一人が好きなのは悪いことじゃない

一人の時間が好きだ。一人でいることを寂しいと感じない。流石に山奥で仙人のように籠っていたら寂しさを感じるのかもしれないけど、必要最低限の社会との繋がりがあれば充分だと思ってしまう。挨拶を交わす干物屋さんや八百屋さんがいて、世間話をするご近所さんがいて、たまに泊まりに来たりお茶したりする友達がいて、すぐに連絡できる家族がいて、遠く離れていてもSNSを通して繋がってくれている人たちがいて、今こうして書

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競争

競争

競争が好きだった。そしてそれは持つべき精神だと疑っていなかった。採点され、順位をつけられ、誰よりも勝ることで自分のポジションを確立していく。そうしなければ劣等生の札を貼られて、アイツは怠け者だと言われてしまう。私はそういった競争社会の中にいる時間が長かった。学校では常にテストで採点され、100点満点中自分はどれほどの人間なのかを測られる。学校が終われば、今度は習い事で採点される。習字やピアノでは賞

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