ほとんどの人が「本当に肌にいい化粧品」を知らない、という話。
先日、ご紹介した「肌トラブルは化粧品がつくりだしている」というお話。
上の記事でご紹介した東京美容化学研究所所長の小澤貴子さんは、おもにプロの理美容師さんたちを中心に皮膚の構造や化粧品化学について講習会を行ってらっしゃる方です。その小澤さんが2015年に上梓された『ウソをつく化粧品』から、本日は、【「肌にいい化粧品」がどのようなものか、多くの人が知らない】というお話をご紹介します。
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大手化粧品会社による白斑被害は起こるべくして起こった
祖父が始めた美容大学(現美容科学講座)は、化粧品業界に携わる一方で、プロのための勉強の場を提供しようとはじめたもので、かれこれ60年が経ちました。自社で取り扱っている製品とは一線を画し、一般的な化粧品の原料、つくり方、栄養学、頭皮や皮膚科学を勉強するものですが、こうした講座をはじめた理由は、本質をとらえた美容法があったとしても、ユーザーに知識が行き届いていなければ美容法を正しく続けられないからです。
たとえば、「敏感なお肌を守るために」とか、「少しでもきれいな肌に」。どちらも正しい美容法でしょう。では、実践するために、みなさんはどんなクリームを選びますか?
「とにかく添加物、防腐剤なんて絶対ダメ! 安心安全なオーガニック」
「敏感肌を研究! セラミド不足を補うから、うるおいが違う」
「売り上げナンバーワン! マイナス10歳肌を実感! 口コミ評価4・85 ★★★★☆」
まるで、掃除用洗剤を買うときと同じように、美肌に効果がありそう、肌によさそうだ、といった直感で選んでいませんか? もしかしたら、有名な化粧品口コミサイトをサーチして決めているかもしれません。
化粧品は使用されている成分が表示されていますが、食品と比べても原材料が難解で、良し悪しの判断が難しいものです。私は化学科を卒業していますが、そうしたリケジョにとっても同じ状況です。なぜなら、化学の世界ではアメリカでも日本でもチリでも通じる共通の名付けルールがありますが、化粧品原料の名前はノールール。肌にいいのか悪いのか、名前からは見当もつきません。まるでわからない日本酒やワインを選べと言われているようなもの。かろうじて知っている銘柄がいくつかあるくらいで、そもそも、「おいしいお酒」の定義自体、わからないように、「肌にいい化粧品」とはどんなものなのか、みなさんわからないのです。「おいしいお酒」は人によって異なるかもしれません。ワインであれば、重いものがいい人もいれば、口当たりが軽いものがいい人もいるでしょう。
美容の世界では、「シミ、シワ」をとるのにいくつも方法がありますから、「○○式美容術」といった書籍が、山ほど書店の棚を占領しています。これから私がお話しするのは、明日にもシミやシワをなくして美しい素肌を得ようという方法ではありません。
20年、30年、若い方なら50年続けた先の肌を考えるものです。
一昨年、カネボウ化粧品による、美白化粧品の白斑被害がありました。この商品にかぎらず、現在メーカーが認めている、「化粧品の原料によっては皮膚の細胞にダメージがある」という危険性について、私たちは、事件が起こるずっと前から講座でくり返し説明してきました。今回被害が発覚する8年も前に、まさに、「美白化粧品」を取り上げて、父が問題点を指摘した記事も手元に残っています。皮膚が入れ替わるには少なくとも1か月、人によってはその倍以上かかりますから、今日明日きれいになる方法と、長期的に(私どもは本質的にと考えていますが)きれいになる方法は違ってきます。実は、長期的な視点できれいになることにとって大切なのは、オーガニックか無添加か、ということが問題なのではないのです。
明日すぐにきれいにならなくても、1か月、2か月と続けていくうちに、肌の変化は十分に感じられます。続けていったのち、それは大きな違いとなって現れます。焦らなくて大丈夫です。本質的なポイントを抑えることは、それほど難しいことではありません。私たちがお伝えしている美容法を半世紀以上続けてこられた80代、90代の健康で美しい素肌を見てきていますから、私は安心してそう言えるのです。
たいていの化粧品に入っている「浸透剤」が肌を老化させている
本書で詳しくお話ししていきますが、化粧品の成分が作用できるのは角質層という皮膚のごくごく表面までにとどめる、と薬事法(※注)で定められています。しかし、ほんとうにシミをとったり、シワをとったりと効果を発揮させるには、成分を皮膚のもっと深いところ、「内部にまで浸透」させないといけません。
たとえば、目元クリームや美容液では、成分が肌の内部にまで浸透することで、ぷっくりした肌になります。ですから、たいていの化粧品は、薬事法で定められた基準を超えて、化粧品の成分がじっくり肌の内部に浸透する処方になっています。
そうした肌を若返らせるとうたう化粧品を使ううちに、次のような症状が出たことはありませんか?
「シワが目立たなくなるクリームを使いはじめたら、冬場の乾燥がひどくなった」
「美白化粧品を使っていたら、シミができやすくなった」
「最近、すっぴんになると肌の色がワントーンくすんでいる。そういえばBBクリームやCCクリームみたいな、1つで化粧水とクリームと美容液を兼ねる化粧品を使っていた」
そうです。たしかに浸透剤によって化粧品の効果は発揮されるのですが、そうした化粧品の作用は、違った形で、みなさんのお悩みを増やしてしまうのです。
困ったことに、美白やシワとりなどの機能をうたわない商品だから浸透剤が入っていないということではありません。
「敏感肌用化粧品を使っていたら、敏感肌用化粧品以外使えない肌になっていた」
「オイルクレンジングやオイルシャンプーをはじめたら、弱肌になった気がする」
「美容液を使っていたら、肌の表面はしっとりしているけど、肌の深部は乾燥している感じがする」
浸透剤は乳化剤ですから、「油と水を混ぜる力が強い」という性質を持っています。ですから、成分を肌内部に浸透させる目的ではなく、油と水を混ぜるためにも使用されています。乳液などは、油と水を浸透剤で混ぜることで、サラサラしたテクスチャーを実現しています。乳液などによって、肌に浸透剤が触れるとどうなるでしょうか?
人の皮膚にはバリア機能といわれるものがあり、肌はおもに油によってコーティングされ、外部の刺激から守られています。化粧品に配合された浸透剤は、肌を守っている油まで溶かしてしまうのです。そうした結果、きれいになろうと思って使った化粧品によって、わたしたちの肌は、シミ、シワ、乾燥、敏感肌、弱肌といった悩みを抱えるようになってしまうのです。
浸透剤によって、皮膚のバリア機能が弱まると、
「乾燥肌になり、肌の油分も水分も流出するのでシワが増える」
「肌の内部や表面から油が抜けてスカスカになり、刺激に弱い敏感肌になる」
「成分が肌の奥深くに入りやすくなり、成分が刺激となってシミができやすくなる」
といった症状が現れます。あなたのお肌はいかがですか?
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(※注)平成26年11月25日より「薬事法」は「医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律」に改正された。改正が本書の執筆中につき、本書内では旧名の薬事法となっているが、本書の内容はそのまま維持されるものである。改正について加筆するとすれば、医薬部外品の申請、審査手数料が改定され、金銭的なハードルが大幅に高められた点である。
▼『ウソをつく化粧品』についてVoicyでもお話しています
(編集部 杉浦)
Photo by Amanda Dalbjörn on Unsplash
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