見出し画像

大事なのは「金」?それとも「命」?【少女を誘拐してしまった孤独な男の話】【The Safe House #1】

動画制作に時間がかかるので、

イメージ画像をつけた台本を
先出しします。

動画投稿までは、
文章を変更する可能性があります。


■補足説明

※前回・前々回はこちら。
 2本とも、補足説明的な内容です。

 事前に読むと、
 作品の要点を理解しやすいです。
 必須ではありません。

▼0話

台本(記事内に動画へのリンクあり)

▼0.5話

台本(記事内に動画へのリンクあり)

■この物語はフィクションです

あくまでも「作り物」ですので
あしからず。

現実での犯罪、ダメゼッタイ。

この物語はフィクションです。

実在の人物・組織・出来事等とは
一切関係ありません

また、
登場人物が
自殺を図ろうとする場面があります。

精神的に不安な方は、
ご視聴をお控えください、

また、この作品を参考に、
現実で誘拐行為等をするのは
おやめください

最後に、
大好きな作品へ、
リスペクトを込めて……。

■本編

▼誘拐シーン「社会からの逃避行」

――オレは
名前も知らぬ少女に、叫んだ。

夢野陽
「オレと!
 どこか遠くへ……逃げない?」

少女
「!!!」

少女は目を見開き……
部屋にひっこんだ。

夢野陽
「…………」

(オレ……今、なんて言った?

 あの子に……
 一緒に遠くに逃げよう……
 なんて、言ったのか? 
 今……)

「なに言ってんだ、オレ……」

ドンッ……

夢野陽
「……?」

少女が……
目から大つぶの涙をこぼしながら、
オレに……しがみついていた。

少女
「…………!!」

夢野陽
「……!!!」

(この子は、オレに……
 助けを、求めている……!!)

……オレは、彼女の手をとった。

屋敷に、背を向ける。

【画面暗転】

夢野陽
「行こう……どこか、遠くへ……」

【足音】

……名前も知らぬ少女を、
誘拐するなんて……

……オレは頭が、
おかしくなってしまったのかもしれない。

けど……
オレは、それでも……

目の前の命が
消えてしまいそうなのを
見過ごすなんて、

できなかった……。

▼1日目「孤独同士の出会い」

・夢野陽の憂鬱

――すべての始まりは、去年――。

家に、いたくなくて……
どこか、遠くに行きたくて……

電車に、逃げ込んだ。

人の波についてゆき、
気が付くと……

イルミネーションと、
カップルたちの中にいた。

夢野陽
(ああ、今日は……クリスマスか……)

……笑顔の波におされるまま、
ふらふら歩く……。

夢野陽
(……恋人なんて……
 オレなんかには、まぶしすぎる……)

……突然、人の流れが止まった。
赤信号の交差点の前だった。

モブ

女性
「さむいーっ」

男性
「……ほら、手」

目の前のカップルは手をつなぎ、
寄り添った。

女性
「……あったかい……」

夢野陽
「…………」

……オレは
自分の上着のポケットに、
手をつっこんだ。

【信号のぴぽぴぽ音】

信号が青に変わった。
カップルの波が、動き始める。

夢野陽
(……家にも、どこにも……
 オレの居場所なんて、ない……)

オレは人のいないほうへ、
早足で逃げた……。

【雑踏の音、じょじょに遠ざかる】
【画面暗転】

・少女との出会い

――気が付くと、
見覚えのない住宅街にいた。

あたりには大きな家ばかり、
立ち並んでいる……。

……広い道の真ん中に、
オレは突っ立っていた。

夢野陽
(……いつの間に、こんなところに……)

クリスマスだというのに、
あたりには誰もいない。

ときおり、
雪が屋根から落ちる音だけが、
聞こえてくる……。

夢野陽
(……寒い……)

??
「ママ……私が、いけないの……?」

……どこからか、声が聞こえた。

夢野陽
「……?」

あたりを見回す。

……しかし、
か細い声の主は、見あたらない。

??
「わたしが……私が、
 悪い子だから、いけないの……?」

……どうも、
上の方から声がしているようだ。

見上げると……

大きな屋敷の二階の
窓のところに……

女の子が、立っていた。

夢野陽
「えっ」

真っ白な服をきた
彼女のからだが、
空へかたむき――

夢野陽
「あ、あぶないっ!」【音量150くらい】

少女
「!?」

……思わず、声をかけてしまった。

――少女は窓枠をつかみ、
その場にふみとどまった。

夢野陽
(ほっ……)

少女はあたりを、
きょろきょろと見まわし……

大きな瞳を、オレの方へ向けた。

夢野陽
「あ、あぶないよ……」【音量通常】

少女
「あっ……」

少女はビクッと身体をふるわせ、
目をさまよわせた。

少女
「は、はい……」

ビュオッ!

――その時一瞬、
強い風が吹いた。

少女
「あっ」

少女が、宙に手を伸ばす。

夢野陽
(あぶない……!)

少女
「ああ……!」

少女の指先を、白い何かがかすめた。

……彼女は焦ったような顔をして、
部屋に引っ込んだ。

夢野陽
「……」

少女がつかもうとした、
白いそれは……

まるで雪のように、
ふわふわと宙を舞い――

オレの足元に、音もなく落ちた。

夢野陽
(紙……?)

拾い上げ、見てみる。

夢野陽
「…………た……かける? ばつ?」

ぐしゃぐしゃになっている
紙の真ん中には、

「た」「×」と書かれている。

夢野陽
(……なんだ? なにかの暗号か?)

……しかし……
…………震えている文字を見ていると、
なんだか……

……胸のあたりが、ざわざわする……。

夢野陽
(いや……これはきっと、
 そんなものじゃない……。

 もっと、切実な…………)

??
「か、かえして!」

夢野陽
「!」

さっきの少女が、
少し離れたところの
門の向こう側にいた。

……その小さな姿は、
小学生の低学年前後に思える。

少女
「かえして……ください」

オレは紙についたシワを、
ていねいに伸ばした。

【陽、左の方へ移動】

門に近づき……
その隙間から、紙を少女に差し出す。

夢野陽
「……はい」

少女は震える指先で
紙を素早く手にとり、
胸元に抱きしめた。

夢野陽
(あれ、この子のほっぺた……)

少女は振り返り、
屋敷の方へ歩き始める……。

夢野陽
「……あ、あの!」

【少女、ビクッとおどろく】

……彼女はゆっくりと、
肩越しにこちらを見た。

少女
「……?」

夢野陽
「だ……だいじょうぶ?」

少女
「!!!」

……少女の大きな瞳に、
涙があふれたように、見えた。

彼女はすぐに前に向き直り、うつむく。

少女
「…………だ……
 だ、……だいじょうぶ、です……」

……彼女は足早に、
屋敷の方へ走っていった。

夢野陽
(……あの子のほお……
 ひどいアザが……)

転んで打った……
というレベルのものには、見えなかった。

まるで……
そこだけを何度も何度も打ったから、
できたような……

大きな青アザだった。

??
「こんなところで、何してるのッ!?」

??
「ご、ごめんなさい……」

夢野陽
「……?」

門の向こうから、声がきこえてきた。

門の隙間からは、
屋敷の玄関のドアが見える。

そこに先ほどの少女と、
初めて見る、大人の女性が立っていた。

女性
「部屋で勉強しなさいって、
 さっき言ったじゃない!

 なんでまた、部屋から出たのッ!?」

少女
「……ごめんなさい……」

女性
「ごめんなさいで許されるなら、
 私たち警察はいらないのッ!」

女性は
少女の持っていた紙を奪い取り、見た。

女性
「なに、これ……!?
 変なことしてないで、
 勉強しなさいよッ!

 ……気持ち悪い、意味分かんない……!」

女性は紙を地面にたたきつけ、
靴で踏みつけた。

夢野陽
「!」

少女
「あ……!」

女性
「……はあ……」

女性はため息をつき、
少女のまわりを歩き回る……。

女性
「……アンタねえ……
 いつも、いつも言ってるでしょ?
 
 将来、
 私みたいな
 立派な警察官僚になって、
 良い男性と結婚しなさいって。

 それが警察官僚一家に生まれた、
 アンタの使命で、幸せだって。

 小学校受験は、その第一歩なのよ?

 ……なのに……」

【女性、動きを止める。

 以降、問い詰めながら、
 少女を左の端へ追いやっていく。

 ひとつの質問につき
 一歩ずつ、左へ】

女性
「アンタ、なんで遊んでんの?

 今の自分の学力、分かってんの?
 このままじゃ受験、落ちちゃうわよ?

 常識で考えなさいよ、

 あの学力じゃあ、
 毎日休まず勉強するのが
 当たり前でしょ?
 
 遊ぶなんて、ありえないでしょ?

 ……私、
 なんか間違ってること言ってる?」

【少女、身体を震わせる】

少女
「い、いいえ……ッ」

女性、ニヤリと笑う

女性
「でしょ?

 私はアンタの将来を思って、
 言ってるのよ?」

少女
「…………は、はい……」

夢野陽
(……将来を思って?

 ……泣いておびえている人を、
 責め立てるのが……?)

女性
「……さっきから
 アンタねえ、
 泣いたら許されるとでも思ってんの?

 いつまでも
 メソメソしてんじゃないわよ、
 
 とっとと部屋に戻って、
 必死こいて勉強しなさいッ!」

彼女は腕を振り上げ、
屋敷の上の方を指した。

少女
「は、はい……」

少女は玄関の扉へ向かって、
ふらふらと歩き出した。

【少女、画面中央へ歩き出す】

少女
「あうっ」

夢野陽
「あっ」

……少女が、転んでしまった。

女性
「なにしてんのよ!
 とっとと立ちなさい!」

女性はその場で地団駄を踏んだ。

少女は立ち上がり、
ふらふらと歩き出す……

が、また、転んでしまった。

少女
「う、うう……っ」

夢野陽
(だ、だいじょうぶかな……)

女性
「チッ……
 ……ああ、もう!!」

女性はものすごい勢いで
少女の手を引き、
玄関に引っ込んだ。

夢野陽
「!」

少女
「いたい……!」

夢野陽
「!!」

少女
「いたい、いたいよ、ママ、いたいぃ……!」

夢野陽
(痛いって、まさか……)

……さっき見た、
少女のほっぺたの青アザが、
頭をよぎった。

女性
「アンタがどんくさいのが、
 いけないんでしょお!?

 そんなんだから!
 アンタはいつまでも、悪い子なのよッ!

 とっとと来なさいッ!
 このクソガキッ!」

……スマートフォンの電話アプリに、
指が伸びた。

~幕間~

【画像を表示】

・警察の実態

――数分後。

パトカーがやってきて、
屋敷の門の近くに止まった。

ドアが開き、
男性の警察官がふたり出てくる。

夢野陽
「あの、
 通報した者なんですけど……
 この家です。

 ……オレが、
 心配しすぎかもしれませんが……」

年配の警察官
「いえ、大丈夫ですよ。
 情報提供、ありがとうございます。

 あとはこちらで対応しますので」

夢野陽
「あ、はい……」

警察官ふたりはオレに軽く頭を下げ、
目の前を通り過ぎた。

年配の警察官が、
インターホンを押す。

夢野陽
(……警察の人も来てくれたし、
 だいじょうぶかな……)

オレはスマートフォンで、
近くの駅までの道を調べる……

年配の警察官
「……夜分遅くにすみません。

 S警察署の者です。
 ……ええ、いつもの通報です」

夢野陽
(……いつも?)

すぐに屋敷から男性がやってきて、
門を開いた。

警察官ふたりは
門を開いた男性に会釈をし、
屋敷の方へ歩いていった。

夢野陽
(……いつも、って……
 これが、当たり前なのか?

 ……通報を受けて、
 警察が来るようなことが?)

……そう思っていると、

屋敷の方から、
警察官ふたりがこちらへ歩いてきた。

若い警察官
「いやー、
 今日もいい仕事しました!」

爆速で帰還

夢野陽
(早っ!?)

若い警察官
「通報してくれた人には、
 感謝ですよー。

 この家にくるたびに、

 ふつうに働くのが
 バカバカしくなるくらいの金が、
 もらえるんですから……」

夢野陽
(お、オレ……? 金?)

年配の警察官
「……金を受け取ったからには、
 黙っておけよ。
 
 警察のお偉いさんが、
 ひとり娘を虐待していて……

 通報でかけつけた警察官を
 金で追い返しているなんて、
 とんでもない話だからな」
 
夢野陽
(えっ……!?)

……オレはとっさに、
少し離れたところにある
電柱の陰に隠れた。

夢野陽
(……つい、隠れてしまった……)

……電柱から、顔だけを出す。

警察官二人が、
パトカーの前で
立ち止まっているのが見えた。

若い警察官
「わかってますよ!

 誰にも言いませんって、
 こんなにオイシイ”臨時収入”……!」

若い警察官は分厚い封筒から、
はちきれんばかりに詰まった、
紙の束を取り出した。

【若い警察官、跳ねて喜ぶ】

若い警察官
「……へへっ、
 やっぱ世の中、
 カネだよなあ……!」

彼はその束を、指で数え始める……。

夢野陽
(あの指の動き……本当に、金が……)

雪が降っているというのに……
汗が、頬を伝う……。

若い警察官
「あはは、最高ですよ、この仕事……!」

若い警察官は
札束を扇子のように広げ、
ゆるりとあおいだ。

若い警察官 
「普段サボってても、
 このお屋敷の通報に
 かけつければ……

 こうして”臨時収入”がもらえて、
 将来のキャリアまで
 保証されてるんですから!」

 夢野陽
(……は……!?)

年配の警察官
「……嬉しいのは分かるが、
 はしゃぐのはそのぐらいにしとけよ。

 ……誰かに、
 聞かれてるかもしれない」

夢野陽
「……!」

……オレはいつのまにか
道にはみ出しかけていた身体を、
電柱の陰に戻した。

若い警察官
「ああ、すんません、つい……」

若い警察官は満足そうな顔で、
札束で作った扇子を閉じた。

分厚いそれを
丁寧に封筒に入れ、
胸元にしまう……。

若い警察官
「……ふう。

 ……まあ、あの女の子には、
 申し訳ないですけどね」

……彼は、真面目な顔つきになり……
屋敷を見上げた。

若い警察官
「……あの女の子……
 ホントにかわいそうだ……。

 こんな、クソみたいなお屋敷に
 生まれちまって……。

 ほんとなら、
 可愛い一人娘だー……って、
 大事にされるはず
 じゃないんですかねえ?

 でも、今のあの子は……
 ――ただの、母親のサンドバッグですよ……」

年配の警察官
「……そうだな。

 まあ……
 昔からよくある”しつけ”だ」

夢野陽
(……「しつけ」なのか? あれが?)

……若い警察官は
封筒をしまった胸のあたりを、
手でなでた。

若い警察官
「……今日のカネ、
 早くパチンコにぶっこみたいっす!

 いけないことしてる……
 っていうのが、
 めちゃくちゃ気持ちいーんすよ!

 今度、一緒に
 打ちに行きましょうよー!」

夢野陽
(……は……!?)

年配の警察官
「ああ。
 ……署に戻るぞ」

若い警察官はうなずいて、
パトカーの中に入った。

年配の警察官は帽子を手で直し、
辺りを鋭い目で見まわす。

夢野陽
「……!」

オレは首をひっこめ、息をひそめた。

【ドアが開き、閉まる音】
【車のエンジン音、去る音】

……門の方を見ると、
もう、パトカーはいなくなっていた。

夢野陽
(……警察……だよな、今の……)

……スマートフォンの通話履歴を開く。

――110という文字が……
なんだか、ぼやけて見える……。

夢野陽
(……自分さえよければいい……って、

 カネで、正義を捨てるなんて……

 ……腐ってる……)

……もう一度、屋敷へ目をやる。

白い屋敷は闇の中、
誇らしげに建っている。

……少し前まで、
女性の怒鳴り声が響いていたのに……

今では物音ひとつ、
聞こえてこない……。

……二階の窓に立っていた
少女の真っ黒な瞳が……
頭をよぎった。

月を見上げているのに、
光ひとつない、瞳……。

若い警察官
「でも、今のあの子は……
 ――ただの、
母親のサンドバッグですよ……」

警察官の言葉を、思い出す……。

夢野陽
(やっぱり、そうだったんだ……
 あの子は、お母様に――)

【画面、じょじょに暗転】

~幕間 TIPS「大告発時代」~

画像イメージ

令和の世は、大告発時代――

少女の家の者、警察関係者、
週刊誌の記者など……

これまでに多くの者が、
少女への虐待疑惑を
「解決しよう」「公にしよう」
と動いてきた。

しかし、
少女の母親によって、

彼らの存在は
「なかったこと」にされてきた。

ひとりの例外もなく。

▼2日目「相談」

翌日。

少女の住む地域の
児童相談所の人に、
昨日のことを話した。

【自動ドアが開く音】

……相談所を出て、歩く。

夢野陽
(……きっと、だいじょうぶだ……。
 
 警察は、
 あの子の親が関係者だから、
 ダメだとしても……

 第三者の児童相談所なら、
 もしかしたら……)

……振り返り、
相談所をジッと見た。

夢野陽
(……もう、任せるしかない……)

▼3日目「誘拐」

・陽の迷いと決意

それから、数週間後。

家に、いたくなくて……
どこか、遠くにいきたくて……

ふたたび、電車に乗った。

……何本か電車を乗り継いだあと、
ふと、案内表示の画面を見た。

夢野陽
「あ……」

(……途中の駅、
 あの子の住んでるところだ……)

頭をよぎる少女の顔

夢野陽
(……あの子……
 だいじょうぶかな……)

女性
「将来、私みたいな
立派な警察官僚になって、
 良い男性と結婚しなさい」

「このクソガキ!」

夢野陽
(……オレにはとても、
 「しつけ」には、思えない……)

飛び降りそうな少女を思い出す

夢野陽
(……あの子の様子を、
 見に行ってみようか?

 ……いや……

 何の関係もないオレが
 行ったところで、何になる……?

 ……それに……)

夢野陽
(児童相談所にも伝えたんだ、
 だから、大丈夫だ、きっと……)

年配の警察官
「ええ、いつもの通報です」

【陽、青ざめる】

夢野陽
(まさか……
 児童相談所も
 金を握らされてるなんて、
 ないよな……?)

 警察への通報は
 「いつも」らしい。

 なのに、
 あの子は、ふらふら歩いていて……
 家から、落ちたがっていて……

 ……誰かに、
 助けられている様子がない……。

夢野陽
(……たとえば、オレみたいに……

 誰かから、
 児相へ相談が来たとして。

 あの屋敷を訪れた職員の人が、
 金を渡されて、
 追い返されるのは……

 ……まったくありえない話じゃ、ない……。

 ……いや……考えすぎか?

 ……児相を信じたい、けど……)

飛び降りそうな少女と……

札束を扇子にして
あおいだ警察官の顔が……

……どうしても、頭を離れない……。

若い警察官
「やっぱ世の中、
カネだよなあ……」

「今日のカネ、
 早くパチンコに
ぶっこみたいっす!

 いけないことしてる……
 っていうのが、
 めちゃくちゃ気持ちいーんすよ!」

【電車のブレーキ音】
【電車の揺れ、止まる】

夢野陽
(……警察なのに……

 苦しんでいる命が、
 死にそうな命が、
 目の前にいるのに……
 
 そんなにカネが、大事なのか……!?)

バンッ!!!

――電車のドアが開き、
風が勢いよく吹き込んできた。

【風が吹き込む音】

運命が、陽を呼んでいる

夢野陽
(この駅は……………
 あの子の家の近くの……)

……紙と、少女の叫びが、
頭をよぎる……。

少女
「いたいぃ……!」

夢野陽
(……このまま……

 何もしないで、
 この電車に、乗り続けたら……

 もしも、もしも今日……

 ……あの子が、死んでしまったら……)

……オレは絶対に、後悔する……。

夢野陽
(………様子だけでも……)

オレは、電車から飛び出した。

改札を出て、走る

夢野陽
(……何もなければ、
 それでいいんだ……

 オレの悪い妄想ですめば、
 それでいい……!

 誰でもいい、
 あの子を助けてくれていれば……

 あの子が、
 笑顔で生きていてさえ、くれれば……!)

夢野陽
「はあ、はあ……!」

……走ったのなんて、
いつぶりだろう?

なんで、オレは今、

名前も知らない少女のために、
こんなに必死なんだろう?

夢野陽
(分からない……)

少女の母親が、ひどいと思ったから?

警察が少女を
助けようとしなかったのが、
許せなかったから?

夢野陽
(いや……
 そんな、理屈なんかじゃない……。

 目の前の命が苦しんで、
 失われようとするのを、
 見過ごすなんて……

 オレには……できない……!)

あの子と何の関係もないオレには、
何もできない。
そんなこと、分かってる。

でも……
足が、前へと動くんだ。

・運命の時

……少女の家の前に、辿り着いた。

巨大な白い屋敷は、静まり返っている。
……クリスマスの時と、同じように……。

……あの日と同じ場所に立ち……
屋敷の二階を見上げた。

夢野陽
「そんな…………」

少女が窓のところに、
立っていた……。

……あの日と、同じように……。

……視界がぼやけ、
少女の姿が、
はるか遠くに見える……。

夢野陽
(あの日から……
 なにも、変わってない……。

 ……オレのやってきたことは、
 全部……………ムダだったのか?)

警察への通報も……
児童相談所への相談も、
全部――

少女
「あ……!」

……少女が、オレを見ていた。

彼女の顔が、ぐしゃっとゆがみ……
その大きな目に、涙があふれた。

夢野陽
「……!」

少女はオレから顔をそらし、
空を見上げた。

そのからだが、ぐらりと、前に――

夢野陽
(ダメだ、それだけは!)
「あの!!!」

少女
「!」

少女が、オレの方を見る。

夢野陽
「オレと、一緒に……!」

……頭の中で、
クリスマスの時に見た、

パトカーの赤い光が、またたき始めた。

【心臓の音】

……同時に……
心臓が、
うるさいくらいになっている……。

夢野陽
(わかってる……。

 頭では、理屈では……
 絶対にやっちゃいけないって、
 わかってる……。

 オレは無職で……
 大切な人も、いない……。

 だからって、
 やっていいはずないって、
 わかってる……)

オレをぼうっと見ている
少女のほおに……

ひとすじの涙が伝った。

夢野陽
(でも……
 この子を、見殺しにするなんて……

 やっぱり、オレには、できない……!)

【心臓が一度、大きく鳴る】

夢野陽
「オレと!
 どこか遠くへ……逃げない?」

少女
「!!!」

……その大きな瞳に光が宿ったのが、
なぜか、はっきりと見えた……。

……彼女は、部屋にひっこんだ。

夢野陽
「…………」

……ほおを、汗がつたう……。

誘拐犯になることは自覚していたが、

「少女の母親が警察官僚である」という事実は
陽の頭から都合よく、抜けていた。

夢野陽
(オレ……
 今、なんて言った?)

……頭をおさえ、うつむいた。

夢野陽
(あの子に……
 「一緒に遠くに逃げよう」
 なんて、言ったのか? 

 今……)

夢野陽
「なに言ってんだ、オレ……」

【右の方から、はだしで走る音】
【下の方でぶつかる音】

夢野陽
「……?」

……下の方を見る。

少女が……
目から大つぶの涙をこぼしながら、

オレに……
しがみついていた。

少女
「…………!!」

夢野陽
「……!!!」

(この子は、オレに……
 助けを、求めている……!!)

……オレは、彼女の手をとった。

屋敷に、背を向ける。

【画面暗転】

夢野陽
「行こう……どこか、遠くへ……」

To Be Continued……

■イメージ画像のためにお借りした素材一覧

※敬称略

▼立ち絵

・夢野陽/少女/カップルの男女:
 わたおきば

・女性(少女の母親):
 あめのちはる

・若い警察官:9685

・年配の警察官:桃源郷社

▼背景

・電車内/駅のホーム/
 児童相談所/改札:

 みんちりえ

・クリスマスの東京/雪の透過素材:
 Studio Celeste

・ログハウス/高級住宅街/
 屋敷/屋敷の門:

 背景素材屋さんみにくる

▼その他

・「た×」の紙:TEAM-PIECES

・「た×」のフォント:玉栄

・パトランプの光:chozetsuko

・一万円札:フリー素材あそび

⇒ふと思ったんですが。

 最後に「金」の素材が来るのが、
 なんかこう、「美しいな」と……
 (登場順に並べたらたまたまこうなった)

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