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無職は無価値?【パワハラ】【The Safe House #0】

元動画→

【】→動画内に記載のない説明・文章


この物語はフィクションです。
実在の人物、組織、出来事等は一切関係ありません。

また、この作品には、
パワハラ、希死念慮等の内容が含まれます。

精神的に不安定な方、不安な方は、
ご視聴をお控えください。

最後に、この作品には、
現実での犯罪を推奨する意図は
一切ございません。

上司
「またミスしたの!? 何度も言ったでしょ!」

氷室零
「すみません……」

上司
「ほら、もう一回早くやりなさい!
 ……ああ、またミスして!
 
 ねえ、なんでミスするの!」

氷室零
「すみません……すみません……」

【ログハウス・寝室】

氷室零
「……ハッ! ……夢か……」

……そうだ。
もう仕事は、やめたんだ……。

……今は、当時住んでいた土地を離れて……
山奥のログハウスで……静かに、暮らしている。

傍らに目をやると、もう一人の住人・メグが、
すやすやと眠っている。

……正直、うらやましい。


【ログハウス・リビング】

氷室零
「……ん?」

リビングのテーブルの上に、
メグが寝る前まで描いていた絵が置いてある。

色鮮やかな公園の中、メグと、私と……
もう一人の住人の男性が、楽しそうに笑っている。

氷室零
(……ああ、今日は楽しかったな。
 夕方まで三人で砂だらけになって、ふざけあって――)

【零、悪夢がフラッシュバックする】

笑顔のまま、一瞬固まる零

上司
「またミスしたの!? 何度も言ったでしょ!」

上司
「ほら、もう一回早くやりなさい! 
 ……ああ、またミスして!
 
 ねえ、なんでミスするの!」

【零、辛そうに顔をゆがめる】

氷室零
「……うう……!」

???
「……どうしたの?」

氷室零
「……!」

振り返ると、もう一人の住人……
この家の持ち主がいた。
夢野陽だ。

零の辛そうな顔に気づく陽

氷室零
「あ、いや、その……眠れなくて、な」

夢野陽
「そっか。
 オレ、ココア飲もうと思うんだけど……
 氷室さんも、どうかな?」

氷室零
「あ、ああ……飲む……」

夢野陽
「わかった、ちょっと待ってて」

彼はリビングの電気と暖炉をつけると、
キッチンにひっこんだ。

私はソファーに座る。

少しして、
彼は湯気の上がるマグカップを
ふたつ持って戻って来て、
テーブルに置いてくれた。

氷室零
「悪い……」

夢野陽
「ううん」

彼は首を横に振り、私の隣のソファーに座った。

ココアを一口飲むと、
ふわっ……と甘さが、口の中に広がった。

氷室零
(……おいしい……)

マグカップをテーブルに置き、息を吐く。

陽もココアを飲み、頬をかいた。

夢野陽
「オレも、ねつけなくってね……
 はは、公園ではしゃぎすぎて、興奮してるのかなあ」

氷室零
「……どうだろうな」

そう返した。だが……

……公園のことが、遠い昔のようだ。
今の私の頭の中は……あの悪夢だけだ。

一瞬、世界が赤く染まる

氷室零
「私は……無価値なんだろうか……」

夢野陽
「ん?」

氷室零
「上司に何度言われても、簡単なことすらできなかった……。
 そのあと、ほかの場所で働こうとしたが、ムリだった。

 怒鳴られると、前の職場を思い出して……
 集中できなくなる。

 ……職場を転々とするうちに……
 履歴書を書く手さえ震えてきて、涙がとまらなくて……
 ホームレスになった……」

夢野陽
「うん」

氷室零
「今、たまたまお前に拾われて、
 全ての世話をしてもらってるが……

 自分はなんなのか、何をしたいのか……
 何も、分からない……。

 家事だって、お前の方がなんだってよくできる……
 私がやる意味がない。

 何もしない、できないんだから、ダメだろ。
 生きている意味がない……。
 贅沢な悩みだよな……もう、食うのには困らないのに。

 私には金も、スキルも、地位も、
 頭の良さも、器量も、女らしい愛想も、何も無い……。

 働けないのなら……何もできないのなら……
 きっと、死んだ方が世のためになる……。
 ここにいたって、お前の金をムダに減らすだけだ……」

夢野陽
「そう……」

氷室零
「すまん、また、こんな話を……。
 お前には世話になってるのに、ひどいことを言ったな。

 変わりたくないガキのワガママだ、忘れてくれ」

陽、この一言をきき、真剣な顔になる

夢野陽
「…………うん」

氷室零
「ココア、うまかったよ。もう寝……」

夢野陽
「本当に、価値がないのかなあ」

氷室零
「……え?」

夢野陽
「何もしない人は、本当に価値はないのかなあ」

氷室零
「そりゃ、そうだろ……。
 身体が元気なら、働くべきだ。

 社会のために、誰かのために、
 必ず何かをしなくちゃだろ?」

夢野陽
「……しなくちゃって、
 氷室さんは何か、したいことはあるの?」

氷室零
「……そ、それは分からない……でも、何かしなくちゃだろ、
 お前は家のことで忙しいんだから、
 それこそ、私が外に出て働くとか……」

夢野陽
「……自分のことが分からない、死にたいのに、
 またムリをして働くの?」

氷室零
「……だって!
 さすがにいつまでもこうしているわけには!
 
 ……あ、いや、でも……
 どうせ、私はダメなんだから……
 働けやしないんだろうけど……」

夢野陽
「……それでいうとさ、極端な話、
 メグちゃんはどうなのかな」

氷室零
「……え?」

夢野陽
「あの子はまだ五歳だ、
 学校に行くような年じゃないし、
 家で絵を描いてることが多いじゃない。
 
 社会や誰かのために何かをしないといけない、
 何もしないのなら無価値というのなら、

 何もしない子どもは、無価値なのかな?

 自分がやりたいから、絵を描いてるあの子は……」

氷室零
「それはちがう!」

思わず立ち上がった。

氷室零
「メグは無価値なんかじゃない!
 大切な命だ!

 誰かのために何かをしなくても……
 いてくれるだけでいいんだ!

 一緒に話して、絵を見せてくれて!
 ただいてくれるだけで、
 共に楽しい時間をすごせる、笑顔になれる……あ」

氷室零
(私は、なんでこれを、自分に……)

夢野陽
「うん。
 オレも、そういうことだと思ってるよ。
 
 人によっては、”働かざる者食うべからず”
 ”働けない人はいらない、無価値”なのかもしれない……。

 でもオレは、そうは思わないよ。
 だって、それは……あまりにも悲しいよ。

 誰だって、子どもの時は働けない。
 生きていればいつか、働けなくなる時がやってくる……。

 家のこともそう。
 誰だって、常に人のために、
 何かできるわけじゃない……。

 死にたくなるくらいつらい人に、何かしろなんて……
 オレは、言いたくない。

 ……まあ、オレが、
 甘えた考えの持ち主なのかもしれないけどね。

 オレはたまたま、母親の遺産があるだけで……。
 毎日働かなくちゃ死んでしまう人も、
 世の中にはたくさんいる。

 その人たちにとっては、オレの話はひどく残酷で、
 それこそガキのワガママ、理想論なのかもしれない」

陽は暖炉の方を見た。

【薪が燃える音】

夢野陽
「でも……やっぱり……
 否定ばっかりなのは、つらいよ。

 自分や他人を否定しても、誰も幸せにはなれない……。

 最後は、いつも、死にたくなるだけだ……」

彼の細められた瞳に、炎が揺らめいている……。

氷室零
「陽……」

夢野陽
「……時々、思うんだ。
 
 オレたちは今、
 戦争のない平和な国で生きているのに、
 なんで、言葉や暴力で、
 人を傷つけるんだろう……ってね。

 ささいな一言がきっかけで、
 目の前の人は死んでしまうかもしれないのに……。

 氷室さんが、言葉で傷つけられたみたいに……」

夢野陽
(……もしも、何かが違えば……
 氷室さんと、彼女の上司の人は、
 仲良くなれたのかな?)

【薪が燃える音、フェードアウト】

私はためいきをついて、ソファーに戻った。

氷室零
「……なんで人を傷つけるかなんて、分からん。
 ……そもそも私の上司は、
 私を傷つけた自覚すらなさそうだった。

 ……まあ、私が言えたことじゃないけどな。

 私だって、
 これまでに無意識のうちに、多くの人を……
 今だって、お前のことを、傷つけたかもしれない……」

夢野陽
「……ううん、オレはそんなことないよ。

 ……むしろオレは、本当は、
 こんなキレイゴトを言える人間じゃない……。

 オレは、今……人を傷つけてる」

氷室零
「……え?」

夢野陽
「メグちゃんのこと。
 ……オレは、彼女の親御さんを傷つけてる……。
 
 メグちゃんをこんな山奥に、
 親御さんの許可も得ず、勝手につれてきて……」

……そういえば、そうだった。

この男は、メグ……少女を誘拐した、犯罪者なのだ。

彼はメグをさらい、私を拾い、
今、ここにいる……。

氷室零
「……なあ……
 初めて会った時もきいたが、もう一回確認させてくれ」

夢野陽
「ん? うん」

氷室零
「お前は……陽は、
 命が大事だと思うから、メグに声をかけたんだよな?

 たとえ犯罪者になっても……誘拐犯になってでも……
 家から飛び降りそうなメグを、
 赤の他人であっても、助けたいと思ったから……

 メグの手を引いて、ここまで来たんだよな?

 ……今もその気持ちは、変わっていないよな?」

【陽、無表情になる。BGM、消える】

零、あらためて陽のやったことを思い出し、彼を疑う

夢野陽
「…………」

To Be Continued……


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