マガジンのカバー画像

連載小説「もっと遠くへ」二章

5
小説の二章を読めます。
運営しているクリエイター

記事一覧

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-6

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-6

3-5はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n063319ae0633

勧誘活動が忙しくなっていたのか、焼き鳥屋に顔を出す頻度も徐々に減っていき、週に一度程になっていました。

その頃の僕は、相変わらず、大学での友人などはおらず、アルバイト先の同僚と仕事終わりに酒を飲んで、これが東京に来て出来た唯一と言えるほどの道楽でしたので、それに耽り、たまに酔いが回

もっとみる
初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-4

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-4

3-3はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n9196971f5719

壁の向こう側では、早くも何かが始まるそんな気がして、それを互いに言わずとも感じていましたので、黙って、壁に男二人並んで、耳を当てていました。

江戸のボロ長屋から一変して、東京のボロアパートに舞台を移しましたが、薄い壁に耳を当てていると、そこに大きな違いなどあってないような、そんな気

もっとみる
初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-3

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-3

3-2はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n2a6740740287

初めて日本酒を飲んだのも、確かその時だったと記憶しています。僕にはどうしても、理科の実験で使うエタノール液にしか思えず、味わうということが出来ませんでした。

二合の冷酒をおちょこで少量ずつ飲み、その度に、顔の全てのしわが中心に集まってきて、お互いの顔を見合いながら、苦笑し、

「大

もっとみる
初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-2

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-2

3-1はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/na4534caae01b

煙草の先端の燃える箇所をただただ眺めながらいましたら、

「いや、何か用があるんかも知れんから、一応聞いとこ思て」

亮介が続けます。僕は、なんと答えればいいのか分からず、とりあえず黙っていましたら、

「時間あるなら、これから一緒に飲みに行かへん?いいとこ知ってるから。もし、あれや

もっとみる
初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-1

初稿の連載小説「もっと遠くへ」3-1

2-4はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/nc887f2d726fb

上京東京の経済学部のある大学に進学しました。

あの日以来、父はちっとも口を聞いてくれなくなりました。荒れることもなく、大人しいという印象さえありました。僕はそんな父から逃げるように東京に出てきたのです。

京王線の聖蹟桜ヶ丘という駅で部屋を借りましたが、その部屋が、築年数五十年を超

もっとみる