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連載小説「もっと遠くへ」一章

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初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-4

初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-4

2-3はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n735c51b79710

父は喜んでいました。そのはずです。普通科に入ったことは知らないのですから。
いつからでしょう。僕の中で、「本音」を隠すという行為が次第に「嘘をつく」という行為にすり替わっていたのです。

三年間、父を騙す事はそう難しいことではありませんでした。

父に対する嘘は板につき、自分のことを

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初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-3

初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-3

2-2はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n50ecd26b58ca

土曜のその日、父はあれこれ僕に仕事を体験させてくれました。測量のやり方だの、道具の名称だの、ユンボの操作だの、もちろん子供であったため、運転などはさせてもらえませんでしたが、運転席に座る僕を見て、

「どげな、きもちよかろっ」

と、答えは一つであると決められているかのような質問でし

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初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-2

初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-2

2-1はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/nffe9df010f5a

本音という猛獣が鉄格子の中で暴れ出し、その様子をじっと観察する。人が人と共に生きる(共存する)と言うことはすなわち、これをずっと檻の中に閉じ込めておくことであると理解したのは、僕が記憶している限り、小学校の二年生、八歳頃ごろだったと思います。

僕は鹿児島の田舎で生まれ育ちました。東

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初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-1

初稿の連載小説「もっと遠くへ」2-1

1-3はこちら↓
https://note.com/fine_willet919/n/n767e53123548

父と本音

「あなたは何を食べても美味しいと言うね」

今では自分にとってそう珍しい言葉でもなければ、驚くこともありません。

むしろ、その言葉は僕の代名詞のようにもなっており、愛着さえ湧いているほどです。

服のセンスもまるでないと言われます。同じズボンを着回し、

「これしか持っ

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