Music × English なエッセイ 【9】
今回の動画
大都会マンハッタンから来た、狂える男の悲哀について。
絵画をきちんと勉強した人は怒るかもしれないけど、僕は印象派のファンなのですね。彼らの技法は、光を捉えつつ、今や世界で売れちゃっている漫画のような、明確な輪郭線を引くことがフィクションであることを訴えるものでした。
モノに輪郭なんてないだろって批判。
この動画はまさに輪郭線が揺らぎます(陽炎みたい)。
印象派の思想を承けてかは不明ですが、この動画では、あたかも生々流転するかのように、事物の輪郭が滲んで変容していくのです。動く印象派?
ゴッホは生前に才能が認められずに、絵が売れたのは死後だったそうですね。
青の時代じゃないが(ピカソはキュビズムだけど)、動画の中、憂鬱を表すブルーで埋め尽くされているのも僕は好きです。そういや最近ブルーピリオドって天才っぽい響きの漫画が以下略。
美しい色ですけどね、ブルー。なんで憂鬱を指すんだろう。
A Madman From Manhattan
作風の異質さ
ホワイト・ストライプスが解散してしまって、ジャックがソロ名義で活動をしていますね。
バンド時代と同じく、クラシックなロック全盛期のような曲の造りで、ゴリゴリのギターを弾く人ですが(音楽の語彙が貧弱ですいません。もちろんその弾きまくりが良いのですが)、この曲はアコースティックな作風です。
アコースティックな曲を一切創らなかったのに、という意味ではないのですが、これまでのはあくまでも、上述したような古典的なロックの巨人たちが創ったようなアコースティックであったよなと。
かくもブルースとかジャズを意識しました、みたいなテイストはなかったよな、と思うのです(比較的ですが…)。
歌詞(後半を抜粋)
試訳
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訳出にあたり考えたこと
wrong を呼びかける主体
それは誤りだ、と言っているのは、実は間奏で現れる天使さん(なんと酒のボトルからキラキラ現れる…汗)なんですよね。たぶん。
an angel comes to him and sings, she swims under whiskey with her wingsなんてのは幻視にしか思えませんね。
まあ、神がかっているのだから、天使が舞い降りてきて彼に聖歌で唄いかけ、ウイスキーの中を羽で泳いでみせるなんてのは…。泥酔してるとはいえ、わりとサイケですよね。
間違っているのは、記憶の混同、いわゆる思い出補正?
それはまだ健全な人のうちか。
あるいは、酒浸りはインモラルだ、という過ちだろうか。両方かも。
この言葉遊びのようなキャラクターの狂人は、泥酔するうちに強固にその補正以外を認めなくなって久しいんでしょうな。
天使が彼の脳のバグが創った創作なら、究極、he said it to himself でしかないわけで、呼びかける主体は結局主人公のマッドマンなのかなとも…。
押韻の楽しさ
言葉遊びのような、というのは、
madman と Manhattan と a man's hat のような
掛詞のためにだけ創作されたキャラクターじゃなかろうか(苦笑)ということです。
韻を踏むということだと、語形は似てないのに、フロアマットやサテンとも韻の仲間にされています。
倒置?
ここから別論ですが、最後尾付近の、Had the brains の部分は、教科書的にどうか微妙ですが、倒置的な叙述じゃないかと。
というのも、歌詞の該当箇所にリンクしましたが、複数形にもかかわらず、the brains の形で、日本で言うカタカナ英語のブレインらしいんですよね。
それで、倒置を直して、ブレインはそうせざるを得なかった(had to do)という訳出にしました(無理筋ならご容赦)。
ちなみに人工知能は、脳があった、ってそのまんまでヒントにならなかったんですよね…。うーむ。
その事実関係違うぞ(あるいは、この状況は道義的におかしいぞ)、と天使さんに補正されているのに、狂人は認めない。
彼女に見限られたという事実に直面したくなくて、彼は世界に対し、閉じてしまったのかも。
締めくくりに
たまに別れた相手を美しく思い出すなどというのは、誰にも無害ですからよいですよね。
老化防止に良いのかも(苦笑)。
この歌にあるような錆びてしまうほど長い関係だと。
対して、歌詞世界は別れたわけじゃなさそう。
破綻した夫婦関係?あるいは同棲相手なのか…。
たぶん戸建てに住んでいて、一階のキッチンの戸棚あたりに大きな缶があって、その中に奥さんなり恋人が貯金をしている(アメリカ映画コテコテ?)。
それを2階に居るらしき狂人が、くすねてやろうと狙っている。
飲み代に消えるのか、ギャンブル代に消えるのか…経済が悪化していく中で、リアルに今後の日本でもありそうで微妙ですが。
しかしまあ、ブルースって起源からして、名の通り肉体労働者の憂鬱さを歌い上げるためのものでしたから、後発にもかかわらず、ジャック・ホワイトは伝統を踏まえているのかもしれませんね。
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※ 2023年12月20日追記
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