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スーパーコンシェルジュ

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スーパーマーケットの食品担当者だったのに、なんだか突然食品フロアの専門職に!? スーパーマーケットのお仕事小説、全編無料です
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記事一覧

スーパーコンシェルジュ1-①

 1)辞令は突然に  第1話
 
 その日も私は普通に発注をしていた。乾物、乾麺まで終わり、いよいよ調味料コーナーに差し掛かろうという所。顔をあげ、辺りにお客様のいないことを確認して、ちょっとだけ腰を伸ばす。首から下げた発注機は、長時間だと意外に重く、肩も凝れば、腰痛にだってなってしまう。
 
 腰をちょっとトントンとたたいてから、いよいよ醤油の棚に差し掛かった時だった。
 「佐藤さーん、あ、いた

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スーパーコンシェルジュ 1-②

1)辞令は突然に ②

 コンシェルジュ? えーっと、あ、そうだ、コンシェルジュ。なんだっけ、ホテルでフロントの隣とかにコンシェルジュデスクとかって、あったような。あれのことで合ってるのかな。でもそれと私とこのお店の間に、一体なんの関係があるって言うんだろう?
 私がまったくぴんと来ない顔をしているのに気付いたのか、店長はさらに
 「食品フロアの、アドバイザー。お客様にいろいろなアドバイスをしたり

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スーパーコンシェルジュ 1-③

 「さっき佐藤さんは家族と食べるとおいしい、と言ったけど、さすがに一人でごはんを食べてる人に家族を用意してあげることは出来ない。せいぜい……お手伝いくらいなら出来るのかも、だけど。でも今言ったようなことをお客様に提案するということは、うちの店でも十分可能なんじゃないかと思うんだけど、どうかな」
 
 それは……たしかにそうかも知れないけれど。
 「でも、どうやって?」
 だって、私には商品を仕入れ

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スーパーコンシェルジュ 2-①

 2)コンシェルジュって、何?
 売場に帰って、もう今日の勤務時間はほとんど終わりだったけど、チーフの所に顔を出した。
 「チーフ……」
 「情けない顔してるなぁ」
 もちろんチーフは知ってるみたいで、そう言って笑われた。
 「一応店長には『はい』って言っちゃったけど、なんかもう、今階段下りてくる間にもしまったなぁとか、言わなきゃ良かったとか、後悔してきて」
 「まぁまぁ。佐藤さんなら大丈夫って」

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スーパーコンシェルジュ 2-②

 夕食後、潤ちゃんの言ってた番組を探す。見た。
 ちょっと待ってよ。
 「ねぇ、潤ちゃん? 言ってたのって、これ? こういうの、求められてるのかなぁ……」
 泣くぞ。画面に映ってたのは、東京の高級スーパーで「コンシェルジュ」の肩書を持ってる人だったから、多分これなんだけど。
 「無理、っていうか、無理。絶対!無理」
 日本語含めて三か国語を操る、めっちゃ上品なイタリア人のマダムが映ってるんですけど

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スーパーコンシェルジュ 2-③

 翌朝。起きたら少しすっきりしてた。ベッドに入って眠りにつくまでもあれこれ考えて、なんとなく、……なんとなく、なんだけど少し気付いてきたっていうか。
 私、食べること、好きだよ? 今のお仕事、好きだし……誇りも持ってる。じゃぁどうしたいの? って思ったら、お客さんにも同じように「食べることって楽しいなぁ」「幸せだなぁ」って思って欲しい。
 
 これが、私の一番中心かなって思う。
 そうしたらどうす

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スーパーコンシェルジュ 2-④

 休憩を終わって降りると、案の定、チーフ経由で15時に集まってという連絡が回って来ていた。着任まではもう数日あるけど、やっぱりすでに「何かが動き出している」感はあるなぁって思う。
 まぁ仕事が変わるって分かってて、今の業務をずるずると引きずるのもなんだか違うと思うので、それはそれでいいかなと思うんだけどね。
 
 そして……今朝から感じていたんだけど、今までどれだけ私って、自分の売り場の商品を見て

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スーパーコンシェルジュ 3-①

3)出来ることから始めよう

 ミーティングから三日後。今日からいよいよ、サービスカウンターに出勤になった。私が担当していた食品は、パートさんの募集は掛けるというものの、今の所は私が欠員した状態で、ちょっと心苦しいけど、仕方ない。
 
 「おはようございます」
 朝、サービスカウンターに行くと、吉野チーフが出迎えてくれた。
 その顔を見ると、逆に緊張してくる。それが分かったみたいで
 「リラックス

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スーパーコンシェルジュ 3-②

 次の休みは、潤ちゃんは仕事で私一人のお休みだったので、みっちゃんの言っていたお店に行ってみることにした。もちろん何度かは訪れたことはあるけれど、あまり頻繁には来たことがない……かな。
 近くに寄っても、私はデパ地下とかの方が多くて、なんとなく素通りしてた感じだったから。
 
 一階はショップで2階がレストラン。3階以上は……イベントホール? ギャラリー? イマイチよく分からないけど、ちょうどベネ

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スーパーコンシェルジュ 3-③

 昼食を終えて、再び一階へと降りる。来ようと思ったときの一番の目的は、専門職っぽい人がいるっていうから、どんな感じなのかを見てみよう、と思ったことだった。
 ぐるっと回ると、確かに胸にバッジをつけたような人が時々いる。でもそれをじろじろ見るわけにはいかないし。
 まとめて一人の人(それは私みたいにフロア全部を見てるっていう意味で)がいるといいなぁって思ったけど、そういう感じの人はいないみたい。サー

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スーパーコンシェルジュ 4-①

4)素朴な疑問

 サービスカウンターでの勤務に居心地の悪さを感じていたのは、ほんの1週間足らずのことだった。今でも難しい仕事は出来ないけれど、大抵の受付は出来るし、受け付けたことを自分で処理できるか、誰かにお願いするか、なんてことは瞬時に判断できるようになってきた。
 サービスカウンターのチーフ以外のメンバーも、最初は中途半端な私の対応に少し困っていたような空気もあったけど、多分もう慣れたっぽい

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スーパーコンシェルジュ 4-②

 あれで良かったんだろうか……と一抹の不安。あまり外れたことは言ってないと思うんだけど、自信を持って大丈夫と言える、とも言えない感じ。
 ネットで確認してみようと思ったけど、そこへお客さんが……
 
 バタバタして結局調べられないままに、2時間ほどが経ってしまった。
 こうやって調べられないままになんのかんのと時間と言うか日数が経って、今に至ってるんだよなぁ。ちょっとだけ情けない。
 前にも思った

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スーパーコンシェルジュ 4-③

 そんな感じでどっと疲れて。それでも就業時間終えて、サービスカウンターを後にして、食品事務所へと向かう。
 「お疲れ様です」
 数人のチーフさんたちと、マネージャーも居た。
 「お、どうした?」
 マネージャーが声を掛けてくれる。
 「いや、ちょっとお願いと言うか、相談がありまして……」
 一般食品のチーフも「どうした?」って感じで、パソコンの手を留めて、こっちを見てくれていた。
 「あの、商品情

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スーパーコンシェルジュ 5-①

 5)知ってほしいバイヤーの想い
 ①
 バイヤーさんたちは、それぞれの部門に何人かいるわけで、その中でも「この商品」という担当と「この店」という担当を持っている。一般食品の野分店担当のバイヤーは、商品でいえば調味料とギフト。もちろん、担当以外の商品でも元々は一般食品の担当者だった人がバイヤーになるわけだし、お店の担当としては、自分の担当以外の商品は知りませんと言うわけには行かないので、チーフとか

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