スーパーコンシェルジュ 1-③

 「さっき佐藤さんは家族と食べるとおいしい、と言ったけど、さすがに一人でごはんを食べてる人に家族を用意してあげることは出来ない。せいぜい……お手伝いくらいなら出来るのかも、だけど。でも今言ったようなことをお客様に提案するということは、うちの店でも十分可能なんじゃないかと思うんだけど、どうかな」
 
 それは……たしかにそうかも知れないけれど。
 「でも、どうやって?」
 だって、私には商品を仕入れてくることも出来ないし、そもそもそういう商品がなければ、提案なんて出来ないんじゃないの?
 「それは……実はまだ、何も決まっていない。決まっていない、というよりすべてはこれから、なんだよ」
 「やっぱり、無理な気がします」
 すごく心が動いてるけど、何も決まってないって……私、ただのパートだよ?
 
 「このコンシェルジュという仕組みは、今回やってみようということが決まって、本部の隣にあるこの野分店が実験店舗、という位置づけで、まぁその……佐藤さんに白羽の矢が立ったと」
 
 まったくの、ゼロ……から?
 「もちろん、僕やマネージャーも相談に乗ったり、いろいろなアイディアを出したりするし、本部からは人事課と販売企画が全面協力する、ということになってるから、何もかもを一人でやれという意味じゃないよ。むしろ最初のうちは本部から『こんなことやってみない?』とか『こういうことを勉強してきたら?』ということを一つずつ実行していくのが仕事、みたいな感じでスタートするんじゃないかな」
 「そう、ですか」
 
 正直な所、最初の「ぜったいヤダ!」っていう気分は、薄らいでいた。
 だって店長の言ってること、すごく納得できる。働いているからには、リバティマートが、この野分店が、店長の言っているような食を提供できたら、すごくいいなぁって思うから。
 そういうお店になれば、私はもっと働くことが楽しくなるだろうし、そういうお店になる努力をするっていうのは、そんなにつらいことにも思えなかった。簡単に考え過ぎかもだけど。
 
 「会社のお金で勉強してみるってのも、悪くないと思わない?」
 それは確かに魅力的かも。
 「最初に佐藤さんは『もっと他にいい人が』って言ったよね。たしかに誰にやってもらおうかという話になった時に、いろんな人を思い浮かべたよ。でも、こう言っては失礼かもしれないけど、若くてまだ結婚もしてないような社員にやってもらうより、パートさんで、今食品に携わってて、主婦もちゃんとやってる佐藤さんのような人の方が、うちのお客さんにとって、等身大で、いいと思ったんだよ」
 「ちゃんとやってるかどうかは、知りませんけど」
 思わず、そこにつっこんでしまう。
 
 「それに、佐藤さん意外とこちょこちょと小細工するの、好きでしょ、売場」
 見られてるんだなぁ……
 「えぇ、まぁ」
 手書きのPOPとか、そういうの、確かに好きかも。ネットでちょっと調べたことを書いたりしてたことはあるな。そう言えば最近はあまりしなくなってたかな。ちょっと反省してみたり。
 
 「ということで、お願いしますよ。仰々しい肩書だけど、佐藤さんが親しみやすい仕事に変えてくれればいいから」
 あー、うん、なんていうか、ま、いいか。
 私の表情を読んだかのように、店長はにこっと笑った。
 「じゃ、よろしく」
 
 立ち上がって、ぽんと肩をたたかれた。私も座ったままでは居られなくて、立ち上がる。
 「……はい。えっと、やってみるだけ、やってみます。よろしくお願いします」
 あーあ、言っちゃったなぁという思いも半分。
 でも残り半分は確かに「楽しそうかも」という思いが湧いているのも事実だった。未知の仕事だけど。終着点なんて、ましてや分からないけど。
 まぁ、店長も、本部の人も助けてくれるっていうし。
 
 なんとかなる、かな…… なるといい、なぁ。

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