スーパーコンシェルジュ 4-③

 そんな感じでどっと疲れて。それでも就業時間終えて、サービスカウンターを後にして、食品事務所へと向かう。
 「お疲れ様です」
 数人のチーフさんたちと、マネージャーも居た。
 「お、どうした?」
 マネージャーが声を掛けてくれる。
 「いや、ちょっとお願いと言うか、相談がありまして……」
 一般食品のチーフも「どうした?」って感じで、パソコンの手を留めて、こっちを見てくれていた。
 「あの、商品情報の資料とかですね、前にチーフからもらってたのってあるんですけど、そういうのって他の部門もあるんでしょうか?」
 「商品情報の資料?」
 「新商品とか、売込み商品のこだわりポイントとか書いてある来月分の一覧、みたいなのなんですが……」
 
 私の言葉を聞いて、一般食品のチーフが
 「うちは、バイヤーごとに新商品一覧とか、出るんですけど」
 と説明してくれた。
 「あぁ、そりゃ大なり小なり、あるだろ。チーフ会議で配られたり……マネージャー会議ではあんまりないけど、多少はあるし。どうや?」
 
 水産のチーフさんに聞いてくれた。
 「ありますよ」
 「そういうのって、コピーしていただけないですかね」
 「あぁ」
 マネージャーが合点が言ったように、頷く。
 「そうだなぁ。佐藤さんには渡した方がいいかも知れないな。売場ではがつんと積んでる新商品を、佐藤さんが知りませんでは話にならんもんなぁ」
 「そうなんです」
 
 今日食品のバイヤーが帰られて、ちょっと調べものしたりしながら思い立って売り場をぐるっと回った。私が一般食品の担当を離れて一か月弱。それでもすでに、いくつか私が居た時にはなかった新商品がちらほらと積まれていたり、棚の中にあったりした。
 その時に、一般食品だったらまだ分かるけど、日配品とかの新商品はそもそも元をあんまり知らないから、見てもそれが新商品かどうかさえ分からないなーって気付いたのだ。
 「まとめて、それを頂くことができたら、お客様から聞かれそうなものも分かりやすいかなと思うし……特にテレビでコマーシャルやってるものとかの情報があると嬉しいなと思ったんですが」
 「それもそうだな。ただ……もらってくるのバラバラだからな~。随時来るのもあるし」
 「難しいですかね」
 「いや、そうだな、商品情報のそういうものが来たら、入れておく場所を決めておくからその先は自分でやってもらっていいかな」
 「あ、それはもちろんです」
 
 結局、チーフミーティングで言ってもらって、その後私用のポストと言うか箱が出来て、そこに随時入れてもらうことになった。後から来た日配品のチーフも、その場でコピーをしてくれた。面倒くさいと言われるかなと思ったけど、うちのチーフさんたち、親切だなぁ。
 
 そして、その先。
 「今日、バイヤー来てたでしょ?」
 一般食品のチーフが、そう言った。
 「はい、改めて色々教えて頂いたりして」
 「今に僕たちも色々教えてもらわないといけなくなるかもね」
 冗談めかして言われた。いやいや、そんなの無理です。
 「あはは、そんな顔をしてるうちは、まだまだ先かな……」
 「なんて返事したらいいのか、わかりません~~」
 困ってる私をからかってる口調。
 
 「それはそうとさ、うちのバイヤーは知ってるからいいと思うけど、やっぱ聞かれるのって、日配品多いんじゃない?」
 「そうなんですよね」
 「バイヤー、会っとく?」
 「え? あ、えっと、はい」
 「まぁほら、一応元部下として気になるじゃん? で見てたらさ、生鮮ってお客さんも多分わざわざ佐藤さんのとこまで行って聞くより、売り場に常にだれかいるから、そっちで聞いてるのかなと。でも日配品と一般食品の区別とかついてないし、売場も生鮮に比べたら人少ないでしょ。結構聞かれてるんじゃないのかなと思ったんだよね」
 「そうなんですよね」
 もちろん、日配品の野分店担当のバイヤーの顔と名前は知ってるんだけど。話したこととかはないから、聞きづらいっていうのはあった。
 「こんど、顔見たら話してみるから、どこかで色々教えてもらい? ねぇ?」
 後半の「ねぇ」は日配品のチーフに向けられていた。
 
 「いいんですかね」
 「いいでしょ。会社としてやってみようって言ってることなんだから」
 プレッシャーも一緒に掛けられつつ、その申し出はありがたいので、お願いしてみることにした。
 
 「いろんな人と知り合えるし」
 チーフから聞いた言葉を思い出す。うん、これも勉強だし、出会いだよね……
 
 食品事務所からロッカーに向かうと、ちょうど日配品のパートの人と一緒になる。
 「どう? やってる?」
 なんて、少しからかい口調だけど。
 「あ、ちょうど良かった、聞きたいことがあって」
 「え、私に分かること?」
 「あはは、商品じゃなくて、バイヤーなんですけど」
 「はい? バイヤー?」
 きょとんとしてる。
 「須山バイヤーって、どんな人ですか?」
 顔は知ってる。小柄で、細マッチョな文学青年って感じの人。正直、中身の想像がつかなくて、さっきもちょっと歯切れが悪かったのはそんな理由もあったり。
 
 「あー、バイヤーね、かわいいよー」
 「か、かわいい!?」
 「うん、ま、見た目とかってのもないわけじゃないけど、結構一生懸命だし、若いっていいなぁって感じ」
 「年もいくつか分からないんだけど」
 「今……33かな? 佐藤さんと同じくらいじゃない?」
 「ですねえ」
 なんでも、27で食品バイヤーとしては最年少でバイヤーになったらしい。
 「暗い人、じゃない?」
 「暗い? そんなこと、ないない」
 笑われた。だって私の知ってる範囲では、そんな明るい感じにも見えなかったし……
 「どっちかっていうと、熱い人だよ」
 そうなんだ。もう一度、須山バイヤーの顔を思い出す。私の知ってるバイヤーと「熱い」というのはどうもイマイチ結びつかない感じがした。
 
 「日配品の中ではデザートとか、乳製品をやってるから、結構面白い話とかしてくれるよ。あれで結構甘党だったり」
 「え……」
 「ちょっとかわいいでしょ」
 「たしかに」
 ちょっとイメージ湧いたかも。
 「色々教えてもらうといいよ~」
 「ですね。ありがとうございます」
 すぐすぐは無理かも知れないけど、ちょっとだけ須山バイヤーにも会って話をしたくなった。今のリバティマートの品ぞろえとかを考えている人。一般食品のバイヤーだけじゃなくて、やっぱり色んな人の想いを聞いてみたいなと思う。

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ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*