スーパーコンシェルジュ 2-③

 翌朝。起きたら少しすっきりしてた。ベッドに入って眠りにつくまでもあれこれ考えて、なんとなく、……なんとなく、なんだけど少し気付いてきたっていうか。
 私、食べること、好きだよ? 今のお仕事、好きだし……誇りも持ってる。じゃぁどうしたいの? って思ったら、お客さんにも同じように「食べることって楽しいなぁ」「幸せだなぁ」って思って欲しい。
 
 これが、私の一番中心かなって思う。
 そうしたらどうすればいいの? って言ったら、私がしてほしいようなことをしてあげらいいんじゃないかな。
 だから、私は「私がリバティマートのお客さんだったらしてほしいと思うことは何か」を考えようって。それを考えて、それを実行するにはどうしたらいいか、一人で出来ないと思ったら、誰かにやってもらったり、考えてもらったり。それでいいかなって。
 
 そこまで腹が決まった所で、ブラックアウト。脳が疲れ果てたみたいに、ぐっすり眠って目が覚めた。
 
 翌日は日曜日。全体朝礼で辞令が発表された。昨日聞いてたから、まぁもちろん私は驚かないんだけど、他の人は「は? え、今なんて言った?」みたいな感じでざわついてた。だよね~。終わってすぐ、今まで食品一緒にやってたつのさんとみっちゃんが「ちょっと何?」ってすぐに駆け寄ってきて、しゃべりながら一階へと降りる。
 
 私と3人でやって来てたので、二人ともすごく不安そうな顔をしてた。いや~、私も不安なんだけどな、と思うけど、考えてみたら「置いていかれる」感があるのかな、と思ってもみたり。
 「うーん、よく分からないんだけどね、さっき店長が言ってたくらいのことしか、私も聞いてないし。でも食品担当ってことだから、売場と全然関係なくなるってことじゃないし……」
 「そっか~。大変そう」
 みっちゃんは少し複雑そう。私より二つ下で、入ってきてからまだ1年経ってないくらいだから、不安になるのも分かるかな。つのさんは結構年配のパートさんで、いわゆるベテラン。主? でもやっぱりリバティマートでは初めてのことだから、びっくりするよねぇ。
 
 そして……私的にびっくりだったのは、コンシェルジュは私ひとりじゃなかったってこと。あ、いや、食品は私一人なんだけど。
 私の肩書が「食品担当コンシェルジュ」で、もう二人、「衣料服飾担当コンシェルジュ」「住生活担当コンシェルジュ」って人がいた。住生活の人は森川さんって言うインテリアに居た人で、ダンナさんは本部のバイヤーだって聞いてる。衣料服飾の人も、元々服飾品の人で、そして3人ともパートさん。
 なんていうかさ、あぁ、店長本気なんだ、って思った。会社が、かな……。昨日の段階ではなんか「思いつき?」とか思わなくもなかったんだけど、3業種全部で、しかも全員パートさんで、年齢同じくらいで。で、ちゃんとパートさんに辞令出して。
 それに気づいて、ちょっと気が引き締まる。あんまり、グダグダな所は見せられないよね。
 
 昼休憩も、やっぱりなんとなく、他の部門や業種の人も色々聞いて来られたりして、ちょっと落ち着かない感じだった。
 「おつかれさまです」
 声をかけられた。住生活の森川さんだった。
 「あ、お疲れ様です」
 森川さんがよく一緒にご飯食べてる人と、みっちゃんが同時期入社で仲良くて、森川さんとは面識があるんだよね。
 
 「なんか……」
 二人、顔を見合わせて笑った。言葉が出ないよ。
 「なんか、ですよねぇ」
 困ったように笑ってる森川さん。私も多分同じような顔をしてるんだろうな。
 「あ、今日3時から少し集まってとか言われたけど、聞いてます?」
 「え、いえ、聞いてないですよ」
 食品は情報が降りてくるのがちょっと遅いから、多分この後戻ったらチーフ辺りから言われるんだろうな。
 「顔合わせとか、ちょっとお話とかあるみたいですよ」
 「そうなんですか」
 小さくため息。また、店長の熱弁が出るのかな。まぁでも、昨日は私一人で!? とか思ってたけど、業種が違っても同じような人があと二人いるっていうのは少し心強いし、とか思う。
 
 「どんな風になるんでしょうねぇ」
 思わず愚痴っぽくなる。
 「わかんないです」
 くしゃっと森川さんが笑った。普段はおとなしそうな上品な人なんだけど、こういう顔をするとすごくかわいいんだよなーと別のことに感心する。
 「勉強しろ、とか言われませんでした? 店長から」
 「言われました」
 「勉強、とか言われても、ねぇ?」
 「難しいですよねぇ」
 森川さんも同じようなことを考えてたんだなぁって思うと。ちょっと嬉しくて、ちょっとほっとした。
 
 「他のお店とか見に行ったりするの?」
 みっちゃんが言う。さっきまで私達の会話を黙って聞いてたけど。
 「うーん、行きたいなって思うけど、どこにっていうのも浮かばないんだよね」
 「そう、それ! それなんですよ」
 
 「商店街にさぁ、あそこあるじゃん」
 みっちゃんが言っていたのは、大手のパンメーカーの本店だった。
 「あそこって、なんとかアドバイザーって言う人、すごく色んな所にいるよ?」
 「え、そうだっけ?」
 「うん、なんか講習会みたいなことも時々してるから、そういう話とかも聞けるんじゃないかなぁ?」
 「私もあの店、好きです」
 と、森川さん。森川さん、あそこ、似合いすぎるよ……と店の外観を思い出しながら、思わず心の中でつぶやいた。そうだなぁ。しばらく行ってないな。久しぶりに行ってみるかな、と思う。
 
 「あ、じゃぁ後で」
 森川さんが時間が来たみたいで、席を立つ。
 「はい、また」
 後姿を見送りながら、私は今日何十回目かの小さなため息をついた。
 

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