スーパーコンシェルジュ 2-②

 夕食後、潤ちゃんの言ってた番組を探す。見た。
 ちょっと待ってよ。
 「ねぇ、潤ちゃん? 言ってたのって、これ? こういうの、求められてるのかなぁ……」
 泣くぞ。画面に映ってたのは、東京の高級スーパーで「コンシェルジュ」の肩書を持ってる人だったから、多分これなんだけど。
 「無理、っていうか、無理。絶対!無理」
 日本語含めて三か国語を操る、めっちゃ上品なイタリア人のマダムが映ってるんですけど。
 「えー」
 あんまり興味なかったみたいで一人パソコンを見ていた潤ちゃんが、こっちに来てくれた。
 
 「あー。あはは……これは、無理、だねぇ」
 「ねぇ、こういう人って、本当にいるの? っていうか、こういうイメージ?」
 「うーん」
 「こういうの、私は無理でしょ」
 「ま、これは、ねぇ」
 
 見てて、余計になんか混乱してきたよ~。
 「ま、リバティマートには、三か国語を話すイタリア人マダムはいらないな。居てダメってことはないんだろうけど」
 「だよね」
 「だから、すくなくとも志緒にこんな風になれってことはないと思うんだけど」
 うーん。
 「これ言い出したの僕だから、混乱させてごめんね? でもとりあえず何も決まってないって言われたんでしょ? 志緒は志緒なりに、自分で考えて、こういう仕事をしていけばいいんじゃないかなぁ」
 「でも、やっぱ何か参考になるようなもの、欲しいじゃん」
 「そうだけど、さ」
 
 何も参考になるものなくて、何か考えろって言われても無理だよ~
 はぁ。今日何度目かの(もう数えきれない)ため息をついた。ネットでの情報は、あまりあてに……というか、頼りにならない気がしてきた。
 とにかく、情報がありすぎるんだもん。そんなことを潤ちゃんに愚痴る。
 「あー、それ、この前も聞いたわ」
 「この前?」
 私はそんなこと言ってないはずだけど。
 「うちの店のランファンの販売員さん。イマドキはネットに情報溢れてて、自分よりいろんなことを知ってたり、事前に価格や商品情報調べて来るから、すごいやりにくいって」
 ランファン、というのはランジェリーファンデーションの略で、いわゆる下着のブランドメーカーのショップの販売員さんもそんなことを言ってた、ということらしい。
 
 「ほら、今はどこのブランドも、オンラインショップあるじゃん? そこで値段も、商品情報も仕入れてから目途つけて来るんだって。採寸とかはもちろん実際に来なきゃいけないからまだいいんだけど、社内研修だけじゃなくて、自分のトコのサイトとか、それ以外にも相当いろんな情報がネットにはあるから、何を聞かれるか分からないってぼやいてた」
 そうかー、ランファンのお姉さんたちも一緒なんだなと、そんなことを思った。
 接客が商売だもんね。
 
 「そうなってくるとさ、情報を持ってるのはもちろん期待されるんだけど、やっぱりアレンジ力と言うか、提案力と言うか『その』お客様にどうなのか、っていうのが期待されてしまうんだと思うな。自分で好きなの選ぶだけなら、ネットで買えばいいわけじゃん?」
 「うん、だよねー。買うもの決まってるんなら、ネットで結構間に合う」
 「でしょ? 今、志緒の話聞いてて、食品も同じかなって思った」
 なんか、分かった気がする。っていうか、潤ちゃんすごい。
 「すごいねぇ。色々考えてるんだ」
 「当たり前でしょ」
 ちょっと睨まれた。
 「だから、志緒が大変なのは、お客様が知ってる以上の何かを提供するってことを期待されてるってことなんじゃないのかな。たとえばカレーにコーヒー隠し味で入れると美味しいですよとか」
 「それ、言わないでよ……」
 入れ過ぎて、苦いカレーを食べさせちゃったのは、まさしく苦い思い出。あれ、やっぱ覚えてるんだ。ってそこじゃないか。
 
 「コーヒーのこと知ってるお客さんには、次の何かを提案しないといけないから、キリはないと思うけど、色々あると思うから、ネタ探しが勝負かもね」
 ネタ探し、ね……
 でもそう思えば、べつにさっきの録画のイメージじゃなくてもいいかも。
 自分なりに、色々出来ることはありそうな気がして来たし。やみくも、になってしまうかも知れないけど、
 
 少し安心してきて、結局その日はそこまで考えてたら、ダウンしてしまった。
 

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