スーパーコンシェルジュ 2-①
2)コンシェルジュって、何?
売場に帰って、もう今日の勤務時間はほとんど終わりだったけど、チーフの所に顔を出した。
「チーフ……」
「情けない顔してるなぁ」
もちろんチーフは知ってるみたいで、そう言って笑われた。
「一応店長には『はい』って言っちゃったけど、なんかもう、今階段下りてくる間にもしまったなぁとか、言わなきゃ良かったとか、後悔してきて」
「まぁまぁ。佐藤さんなら大丈夫って」
「そんな、なにかも分からないものを簡単に大丈夫とか、言わないでくださいよ」
「いや、何か分からないというか、未知数だから、佐藤さんなら大丈夫って言ってるの。少なくとも今のうちでは一番タフだと思うし。それに聞いた範囲では、多分佐藤さんに合ってる」
「そうかな~」
「ま、言うじゃない? 案ずるより産むがやすしって」
「そうですけど」
「本部の人とかもフォローしてくれるってことだから、知り合い増えて楽しいと思うよ。そういう意味でも佐藤さんだと安心」
「え? どういうことですか?」
「誰ともそれなりにはやって行けそうだから」
「……そう、ですかねぇ」
そこをそんなに否定はしないけど、チーフにそんな風に買ってもらってるとは思ってなかった。
「と、僕は思ってます。ということで、頑張って」
「はぁい。一応ありがとうございます」
チーフからもそう言われ、戸惑いもあるけど、ありがたい気持ちも少し湧いた。はぁ。でもな~
家に帰って、夕食の支度。それからネットでちょっと調べてみた。コンシェルジュ、だけではホテルのお仕事関係の記事が多いかな。フードコンシェルジュ、とか言ってた気がしたのでそれで探してみたら、資格が出てくる。でもこれって店長が言ってたのとはちょっと違うような気が。
そう言えば勉強してもらうから、とかなんとか言われたなぁと思って、今度は食に関する資格なんかを調べてみた。
さっきのフードコンシェルジュもそうだし、フードコーディネーター、食生活アドバイザーから、栄養士、調理師、もろもろ、○○ソムリエとか○○アドバイザーとか○○鑑定士とか○○師とか、めちゃくちゃあるじゃん!
ネットで見る限り、違いもよく分からない。○○がついてるものは、それの専門職なんだろうなぁというくらいの感じ?
今の仕事好きだけど、そんな風に専門的知識を学んでみようとか、ましてや資格をなんて思ったこともなかったから、まずその量に圧倒された。
こんなにたくさん専門職と言うか、そういう資格があって、まぁそれがあるっていうことはニーズがあるってことなんだろうから、ますます店長の言ってたことに納得。
世の中の人は、やっぱり情報を求めてるんだよね。
今までそういうことを考えたこともなかった自分を、少し反省する。もっと勉強しておけば良かったのかなとか、思うから。
「ただいま~」
玄関の音には気付いてなかった。潤ちゃん――私のダンナさまが帰ってきた。
「おかえりなさい」
一応立ち上がってみて、そのまま台所へと向かった。そう言えば、お腹すいたと思ってた。夢中に調べてるうちに、結構な時間になっていた。
「何、調べもの?」
パソコンで調べたことのうち、いくつかは印刷してた。それに目を留めたみたいで、聞かれた。
「うん、ご飯食べながら話す。異動……うーん、異動? 多分……異動になっちゃって」
「異動? どこへ?」
「だから、ちょっとめんどくさい話なんだって。あとで」
「あ、そう」
潤ちゃんは同じリバティマートの行幸店っていうお店で、ホームインナーのチーフをやってる。大学時代の同級生で、私は結婚して潤ちゃんの異動にくっついて野分市に来て、野分店でパートで雇ってもらったという次第。
結婚して3年、一応まだ新婚気分……かなぁ?
「コ、コ、コンシェルジュ!?」
思わず笑った。潤ちゃん、反応が私と一緒だよ。夫婦は似てくるって言うけど、ホントなんだなってそんなことを思う。
「そう。コンシェルジュって言われた。ジッケンテンポでシケンドーニューでシラハノヤなんだって」
「……そ、そう……」
「最初はヤダって言ったんだけど、木谷店長からすごく熱く語られて、聞いてたらそれもそうだなって思っちゃって『はい、わかりました』って言っちゃった」
そういうと、潤ちゃんは苦笑した。
「あー、ありそー」
「うん、言っちゃった。どうするよ」
「ま、頑張って」
「つめたい」
「いやぁ、今のだけだとそうとしか言えないでしょ。っていうか、志緒、実はもう結構やる気だし」
「そんなこともないんだけど」
「そうかな。まだヤダヤダ思ってたら、多分今日僕帰ってきたら、着替える暇もなく『聞いてよ~~』って言ってると思うけど?」
そう言われたら、確かにそうかも。あー、そうかー、私、結構やる気なんだ。
さすが潤ちゃん、よく見てる。
「ちょっと前にテレビのバラエティでスーパーマーケットの特集やってた時に、なんかそういう仕事もあったと思うよ。今やっぱりそういうニーズってあるんじゃないかな。録画したはずだから、あとで探してみ?」
「わかった」
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*