スーパーコンシェルジュ 3-①

3)出来ることから始めよう

 ミーティングから三日後。今日からいよいよ、サービスカウンターに出勤になった。私が担当していた食品は、パートさんの募集は掛けるというものの、今の所は私が欠員した状態で、ちょっと心苦しいけど、仕方ない。
 
 「おはようございます」
 朝、サービスカウンターに行くと、吉野チーフが出迎えてくれた。
 その顔を見ると、逆に緊張してくる。それが分かったみたいで
 「リラックス、リラックス」
 なんて言われてしまった。
 「無理です~~」
 
 「とりあえず、一人にはしないから」
 「当たり前ですっ!」
 なんて冗談を言いながら、サービスカウンターの業務をざっくり教えてもらいつつ、掃除とか整理整頓とかやってたら、もう開店。
 朝一番で来られるお客様って言うのは常連さんか、急ぎのお客様かって言う感じだった。
 商品券とかは出来ないし、タバコの販売もしどろもどろ。レジを打てと言われても入社した時に一日研修でやっただけで、結局(当たり前だけど)とても戦力になれているとは言い難い。
 
 「あら、新入りさん?」
 多分常連の方なんだろう、年配の上品な女性のお客様。
 「はい、あ、いえ」
 わけのわからない返事をしていると、吉野チーフが助けてくれた。
 「食品のご相談係ってことで、来てもらうことになったんです」
 「あらー、そうなの」
 お客様の視線が名札に来るのが分かる。食品担当コンシェルジュ、と入っちゃっているのだ。ぶっちゃけ、最初は研修中くらいにさせてほしいと思ったのだけど、それはダメって言われちゃったんだよね。
 
 「はい、まだまだ未熟ですが、お力になれるように頑張りますので、よろしくお願いいたします」
 頭を下げた。顔は覚えてる。結構色々なものにチャレンジングなお客様だったはず。
 「まぁまぁ、頑張ってね」
 そのお客様は、何かを買ったりされるわけではなかったけれど、来られた際には立ち寄られて、時にはお話をしたりするのだそうだ。
 覚えておこう。
 
 午前中は、バタバタしてるうちに終わってしまった。特に何か聞かれたり、なんてことはもちろんなくて、でも「常連のお客様」という感じの人が、私が思っているより意外に多いことに気付く。売場に居た時は、お客様の顔を見ていなかったことにも気付いた。
 普通に、まじめに、一生懸命やってきたつもりだったけど、この仕事のことを言われてから、うわー、出来てなかったんだなぁということが多くて愕然とすることが多い。その瞬間は落ち込むんだけど、まぁ、気付けたってことが良かったってことにするかなぁ。
 
 昼休憩はサービスカウンターのシフトとは関係がなかったので、適当にお客様が落ち着いたときを見計らって上がった。それでも1時を回っている。
 ちょうどみっちゃんがいたので、声を掛けて一緒に座った。
 「どう?」
 「どうもこうもないかな。ま、初日だし」
 「あはは、だよね」
 「とりあえず足引っ張りたくないから、サービスカウンターの業務も一通り教えてもらったりしてるんだけど、何していいか、分かんないよ」
 「そんなもんなんじゃない?」
 「それで許してもらえたらいいけど」
 他愛もない、愚痴のような世間話。言うと一気に疲れて、ため息が出た。でもそれで昨日まであんなにため息だらけだったのに、今日は初めてだってことに気付いた。
 やっぱり、案ずるより産むがやすし、ってことなのかも。ちょっとそんなことを思う。
 
 午後からも同じような感じ。食品を発送するお客様って意外と多いなんて、そんな新発見もある。ネットスーパー部門はぼちぼち注文があるって聞いたことはあるけど、食品を発送するお客様まで入れたら結構な数になるんじゃなかろうか。
 荷造りしていると、あぁ、こういうものとこういうものを一緒に買ってるのかぁなんて勉強になったりすると思ったので、荷造りは積極的にやらせてもらった。壊れない瓶モノの入れ方、なんてプライベートでも役に立ちそうだし。
 
 それから、ふとした思いつき。サービスカウンターにはインターネットにつながるパソコンが置いてある。発送を承っている都合上、荷物の配達状況とか調べたりとか、遅配が起こっている時にはそれを調べたりとか、リバティマートの他の店のことを聞かれて、会社のホームページで確認したりとか、意外と使われてるんだよね。
 これって、もう一台、私用に置いてもらえないかな……
 私用って言うか、本屋さんに置いてあるような、お客様にも検索してもらえるようなサービスでもいいっていうか、そういうのがベストなんだけど。
 
 「どう思います?」
 吉野チーフに聞いてみる。
 「うーん、場所がない」
 「そこかー……」
 たしかに、場所はない。でも、欲しいなぁ。
 「ま、でも場所なんてどうにでもなるし。芹沢さんに相談してみる?」
 「いいですか?」
 「うん、本屋さんにあるみたいなのっていうのは出来るかどうか分からないけど、佐藤さんが使えるようなパソコンっていうのは、いいかもね。今日なんかはまだ忙しいけど、暇な時期は本当に暇だから、そういう時には自分の調べものとか出来るといいと思うし」
 そうなんだ。さっそく芹沢さんに電話して、説明してみる。
 
 芹沢さんは二つ返事で即サービスカウンターまで来てくれて、吉野チーフと場所のことでちょっとだけ話した後、悩むこともなく
 「やりましょう」
 と言って帰って行った。はやっ。
 でもその様子を見てたら、出来ることはなんでもします、っていう姿勢っていうかそういうのを感じられて、なんだかすごく嬉しかった。嬉しかったし、やっぱり頑張らなきゃなって思う。

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