スーパーコンシェルジュ 5-①
5)知ってほしいバイヤーの想い
①
バイヤーさんたちは、それぞれの部門に何人かいるわけで、その中でも「この商品」という担当と「この店」という担当を持っている。一般食品の野分店担当のバイヤーは、商品でいえば調味料とギフト。もちろん、担当以外の商品でも元々は一般食品の担当者だった人がバイヤーになるわけだし、お店の担当としては、自分の担当以外の商品は知りませんと言うわけには行かないので、チーフとかよりは当然たくさんの知識や経験を持っている。
店舗巡回と、店舗会議、というのが月に一回あって、その日は食品の野分店担当のバイヤーさんは全員野分店に来られて、午後からは2時間ほど、チーフとマネージャー、そして野分店の担当のバイヤーさんたちが一堂に集まっての会議がある日がある。
須山バイヤーから声を掛けられたのは、その店舗巡回の日だった。
「佐藤さん? ですよね。日配品の野分担当の須山です」
丁寧な自己紹介。
「あ、すみません、私から行かないといけなかったのに」
「いや、大丈夫ですよ」
きっと誰かが言ってくれたのだろう、わざわざバイヤーの方からサービスカウンターに来て、声を掛けてくれた。
「今日の店舗会議の後、もしよければちょっと時間が取れるんですが、ご都合がどうかと思って」
あくまでも優しく、丁寧な物言い。年も変わらないし、立場で言えばバイヤーの方がどうやっても上なのに、そういう感じだと、逆にどうしたらいいか分からない。
「あ、えっと、もちろん大丈夫です! いいですか?」
「はい、じゃぁ食品事務所かどこかにいると思いますので、適当に探して声掛けてください」
「ありがとうございます」
あくまでも物静かに、ていねいに須山バイヤーは去って行った。うわー。いや、確かに暗い感じじゃないけど、私のバイヤーのイメージは、一般食品のバイヤーのイメージで、なんていうか、えらくそれとかけ離れてるというか。
色んな人がいるなぁなんて思いながら、午後。店舗会議は1時からと聞いていたので、3時頃に終了かな、とめどをつけて、3時半に食品事務所に行ってみた。
姿は見えないけど、チーフさんたちの姿は何人かあったので、店舗会議は終わっているみたいだ。
「須山バイヤーって、どちらにおられますか?」
日配品のチーフも居たので、聞いてみた。
「あぁ、どっかそこらへん……っていうか、電話してみる、ちょっと待って」
「え、いや、いいですよ、探します」
「結構見つからないよ」
笑いながらそう言われ、待つことしばし……
「あ、佐藤さん? おつかれさん!」
須山バイヤーが入ってきた。
「どうする? 店頭? 食堂とかでゆっくり話する? あ、コーヒーくらいならおごるよ。チーフは? 一緒に来る? 聞きたいことまとめて来た? あ、そういうんじゃない、失礼しました~」
……誰よこれ。マシンガントークの須山バイヤーを前にして、思わず固まってしまう。さっきと今の、この違いは、何?
視界の端に、笑いをこらえる日配品のチーフの姿。
「すーさん、すーさん、佐藤さん固まってる。落ち着きなさい」
「え? なんで? 何かあった? どうして? ああ、そっかー、ごめん、俺ってこんななんだよね~」
二重人格? ソトヅラ?
「いや、ほら店頭ではやっぱり、お客様向けの顔ってあるじゃん? あれはあれで俺なんだけど、時々二重人格とか」
私の顔に書いてあったかのように、すらすらと説明されても、私の頭はついていかない。
「ま、とりあえずここじゃなんだから、休憩室? 食堂くらい、行く?」
「あ、それもそうですね」
食品事務所内は須山バイヤーに「うるさいなー」とでも言いたげな目を向けるチーフ、「佐藤さん、大丈夫か、おい」と心配そうな視線を向けてくるチーフ、笑いをこらえている日配チーフ、とずいぶんさまざまな視線が交錯している。とりあえずこの空気は私には重いので、出口に向かいつつ、つられて立ち上がった日配品のチーフと入口を譲り合い外に出た。
「あ、チーフそう言えばさっき今日の日替わりの牛乳切れかけてたけどまだ在庫あるよね。誰にも会えなかったから、指示出せてないけど」
「あぁ、行きます」
慌てて店頭へと踵を返す日配チーフ。え、私この人と二人? と思ったけど、とても顔に出すわけにも行かず、多分食堂へと向かっているだろう須山バイヤーの後を慌ててついて行った。
食堂はちょうど営業を終わろうとしているころで、人ももう、ほとんどいない。遅番の人たちの昼食もこのくらいにはちょうど終わるらしかった。
窓際の割と明るい席へといったん腰を下ろす。
「コーヒーでも、飲む?」
「あ、いえ」
「ま、遠慮せずに……」
お言葉に甘えて、カップコーヒーをおごってもらい、改めて向き合った。手元には一応ノートは持ってきているけど、何を聞くとか、あまりまとめられていない。
というかむしろ、何を聞けばいいのかを聞きたい、というくらいで。
「で、改めて、須山です。よろしく」
「佐藤です。よろしくお願いします」
挨拶して。
「何から聞きたい?」
「それが……」
かいつまんで、今の心境を説明。
「っていうことで、むしろ『何から学んだらいいんでしょうか?』って感じなんですが」
「あぁ、なるほどね~」
ちょっとの間、須山バイヤーは考えているようだった。少し遠くを見るような視線、とんとん、と指先で机をたたき、ふと上を仰いだ。
ここまで読んでいただき、ありがとうございました。お役に立ちましたら幸いです。 *家飲みを、もっと美味しく簡単に*