スーパーコンシェルジュ 4-②

 あれで良かったんだろうか……と一抹の不安。あまり外れたことは言ってないと思うんだけど、自信を持って大丈夫と言える、とも言えない感じ。
 ネットで確認してみようと思ったけど、そこへお客さんが……
 
 バタバタして結局調べられないままに、2時間ほどが経ってしまった。
 こうやって調べられないままになんのかんのと時間と言うか日数が経って、今に至ってるんだよなぁ。ちょっとだけ情けない。
 前にも思ったけど、担当してたのに。担当してたのに、知らないでいた。だって知らなくたって出来てたから。でもそれって、本当に出来てたってことなんだろうか。
 
 本当はお客様も、こういうこと聞きたいなっていうのがあったのかも知れない。でも、もしかして。どうせ知らないだろうな、と思って聞かれなかっただけなのかも。
 あるいは。そういう知識を必要としないお客様しか、来られていなかったのかも。リバティマートって、そういうお店だと思われてたのかも。ぐるぐる、考え出すときりがなかった。
 そんなに、悪い店じゃないと思う。少なくともそれなりには色々な商品があって、それなりにはきれいにしたり、演出とかにも気を配って、季節感を出して、お買いものして頂いて楽しい店にしようとか、そういうことに工夫をしてきた、つもりだった。
 でも、もしかして、つもりだっただけだった? 
 一番最初、店長に言われた言葉をふと、思い出した。
 
 「本当に豊かな食を提供できているかな?」
 
 悔しいと思った。何が、というわけじゃなく、うまく頭の中で整理がつかないけれど、今までの自分とか、今のリバティマートとか、何かが悔しい。出来ていたと、何も考えず胸を張っていた自分とか。どのくらい居たか分からないけど、もしかしたらリバティマートに少しだけがっかりしたかもしれない過去のお客様とか。
 そんな、想像の世界でしかないけど、でも居たかも知れない過去の自分とお客様に。悔しい。そんな気持ちでいっぱいになった。
 
 夕方、ふと視線を感じて振り返ると、本部の一般食品のバイヤーが立っていた。
 「あ、バイヤー、お疲れ様です」
 「どう、元気にやってる?」
 ここ、野分店は本社と隣り合って立っているから、バイヤーもよく来る。他のお店のパートは多分バイヤーってちょっと遠い存在なんだろうけど(と、チーフが言っていた。電話で話すか、お店には月に一、二度来るか来ないかだから)私にはそんなに遠い存在じゃなくて、で、顔見たら……
 そうだよー。バイヤー、いたじゃん。聞けばよかったんだよ。ほっとして、泣きそうになった。
 
 「お、どうした」
 「聞きたいこと、たくさんあるんです~」
 えー? みたいな感じでにやにや笑ってる。
 「笑いごとじゃないんですよ、私、知らないことだらけなんですよ」
 「いや、どうした?」
 私の口調に、さすがにふざけてる感じでもないのか、ちょっと真面目な顔に戻る。
 
 「びっくりするくらい、お客さん、いろんなこと聞くんです」
 かいつまんで説明。
 「そりゃ、聞いてくれればいいさ~」
 「ですよねぇ」
 お昼に森川さんも、バイヤーに聞いたって言ってたのに。バイヤーっていっても、アウトドア商品のバイヤーってダンナさんだから、聞きやすいような、聞きにくいような、微妙だったって言ってて、そっちに「へー、そういうものかー」とか思っちゃって、肝心の「バイヤーに聞けばいい」って方が頭からすっぽ抜けてたんだよ。
 
 まぁ、お客様の前でバイヤーに電話してあれこれ聞くのもどうかと思うけどね。
 「とりあえず、岩塩オススメしたのはよかったんじゃね? 俺でも岩塩すすめるわ」
 バイヤーのお墨付きをもらって、ちょっとほっとした。
 「あと、ハーブソルトとかな」
 「あー、でもあれって種類多くて、私でも使い分けとか、イマイチ頭に入らないんですよ」
 「それこそ、商品の裏に書いてあらぁ」
 「あ、そうかー」
 「行ってみるか?」
 「いいんですか?」
 
 考えてみれば、私今は売り場担当から離れてるから、もしかして用事の邪魔かも、って思ったけど、それを言ったら笑われた。
 「担当者じゃないけど、うちの商品売るのに知識が欲しいっていうんなら、いくらでも教えるさ」
 「ありがとうございます」
 素直に感謝。
 「そう言えば、新商品のこととかも、結構聞かれるんですよね。前はチーフからチーフ会議の資料とかもらってたんですけど、あれってもらえないですか?」
 「んなもん、チーフからもらえばええやろ」
 「あ、そっか」
 「いや、やらん、言われたら別に俺からでもやるけどよ」
 「すみません、聞いてみます」
 「あー、でも他の部門、聞きにくいか? 日配品とか、生鮮とか」
 「そういうわけでもないんですけど」
 チーフさんたちに頼んでみようかな。
 「コンシェルジュな、食品部長からも『頼まれたら断るな』って言われてるからな、なんだったら他のバイヤーにも言ってやるぞ?」
 「え、そうなんですか?」
 食品部長……バイヤーはまだそれでもよく話もしてたし、気さくな人だから冗談とか言えるけど、一気に雲の上の人感……
 
 「チーフ会議とかで情報とか出るんですか?」
 「あー、一応、な」
 「そういうの、出てみるとかどうなんでしょう?」
 「……やめとけ」
 「え? どうしてですか?」
 「会議はなぁ、数字のことが大半だからな、商品の知識とかは、あまり……だな。そうだな、展示会とか行ってみるか?」
 「展示会、ですか」
 「ん、そっちの方が勉強になるかな」
 また、分からないことが出て来た。とりあえず、売り場に着いたからさっきバイヤーが言ってたハーブソルトとかシーズニングミックスとか、一通り見て、説明も聞いて。
 
 大手さんのこういうのは、そういう情報が多いなぁ。逆に小さい所、というか「こだわり」っぽい方が、そういう情報が書いてある率が少ない気がする。そこに絞ってネットで情報を取った方がいいかもって思った。
 
 それでも一時間くらい、バイヤーに色々教えてもらって、バイヤーは帰って行った。
 当たり前だけど、やっぱり色んなことを知ってる。まだまだ身近に、先生は沢山いる、かな……

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