スーパーコンシェルジュ 2-④

 休憩を終わって降りると、案の定、チーフ経由で15時に集まってという連絡が回って来ていた。着任まではもう数日あるけど、やっぱりすでに「何かが動き出している」感はあるなぁって思う。
 まぁ仕事が変わるって分かってて、今の業務をずるずると引きずるのもなんだか違うと思うので、それはそれでいいかなと思うんだけどね。
 
 そして……今朝から感じていたんだけど、今までどれだけ私って、自分の売り場の商品を見ていなかったんだろう! って痛感。なんていうか、情けないというか、がっかりというか、ま、仕方ないんだけどね、今さら。
 商品とか出す時に、そう言えばこれはどうしてここにあるんだろう? とか、これとこれってどう違うんだろう? とか、改めて考えると知らないことがむちゃくちゃあるんだよ。一旦気になりだすと、本当に次から次へと見えてくる。
 なんで……塩ってこんなに種類があるんだろう? とか。砂糖ってそこまでないんだよ、メーカーが違うのが揃えてあるのがむしろ意味が分からないくらいで、コーヒー用はまぁコーヒー用で、後は上白糖、グラニュー糖、三温糖が基本。容量の違いと、形態(袋詰め、角砂糖、小分けとか)の違いって感じ。
 でも塩って、メーカーが違うってのもあるんだろうけど、裏の材料名見て、くらくらする。あっちこっちの塩があったり、表現もばらばら。
 これって違うことに意味があるからそろえてあるんだよね?
 こういうの、お客さんから見てもやっぱり「なんで?」って思ったりするのかなぁと思った。
 
 15時、集合場所の2階中会議室に集まる。ここは研修とかで使われることが多い部屋で、10人ちょっとがようやく入れるくらいの部屋だ。
 「お疲れ様です」
 入ったら、もう5~6人いた。森川さんも居たので、隣に座る。特に誰も席については言わなかったから、それで良かったんだろう。
 割と早目に全員がそろったみたいで、時間より2分早くミーティングが始まった。
 
 「昨日、それぞれに思いを聞かせてもらったわけだけど」
 木谷店長のあいさつって言うか、話の切り出し。え? いや、私が聞かせてもらったんですが……と思ったものの、森川さんとかはそこには反応してない。
 ってことは、それなりに思いがあったの、かな? どういう話をしてるのか、分かんないけどさ。
 「ここに今来てもらった三名には、リバティマートで初めての取り組みにチャレンジしてもらうことになるわけで、大いに期待しています」
 真ん中、ほとんど聞いてなかったけど、まぁ昨日聞いたようなこと、かな。
 
 で、その後に、ここに来ている他のメンバー。なんでサービスカウンターチーフとか来てるんだろうと思ったら……
 「佐藤さんは、基本の待機場所は一階サービスカウンターになります」
 え? 聞いてない……っていうか、そうだよね、売場うろうろしててもしょうがないし。でも……サービスカウンター? あそこ、いつも忙しそうで、近寄りづらいんだよー。
 私の表情を読んで、サービスカウンターの吉野チーフがにっこり笑った。
 「その他、販売企画のメンバーが皆さんのアイディアのお手伝いとか、あるいは逆に本社からの情報の伝達役になります。別に挨拶までは要らないから、自己紹介」
 「販売企画マネージャーの嶺谷です」
 「スタッフの芹沢です」
 顔は知ってる。店内であれこれやってることも知ってる。もちろんあいさつくらいはしてるけど、知り合いまで行かないという感じの二人。
 
 「三人は、組織図上は店長直轄スタッフってことになるんだけど、実際私がすべての指示や研修の面倒まで見るわけにはいかないからね、ということで、基本は嶺谷マネージャーに仕切ってもらうことになると思う」
 「よろしくお願いします」
 嶺谷マネージャーが改めて頭を下げた。あわてて私たちも頭を下げる。
 うーん、やっぱ店を上げてのプロジェクトっていうか、企画なんだなぁという気持ちがひしひしと湧いてきた。
 会議はいわゆる顔合わせ的な要素が多かったみたいで、ものの30分で終わった。その後、ちょっとばらけて、雑談と言うか、……まぁ私はサービスカウンターでお世話になるんで、吉野チーフと少しお話をしたり。
 「私、何も出来ないですけど」
 開口一番そう言うと、吉野マネージャーがいきなりけらけら笑って、困ってしまう。
 「そうですよねー」
 「どうしましょう?」
 「ま、サービスカウンター配属じゃないわけだから、強制は出来ないけど、出来る仕事は手伝ってもらえたらありがたいかなって思ってます。……分かると思うけど、めっちゃ忙しい所だし、お客様から見れば、多分あまり見分けとかつかないと思うし」
 「です、よねぇ」
 ため息をつきかけて、慌ててぐっと飲み込んだ。うーん、クセになってるっぽい。でもここでため息つくのは、あまりにも吉野チーフに失礼だよね。
 
 「分かりました。頑張ってみます。教えて頂きながらになると思うんですけど」
 「そうですね。あ、でもあくまでも本業優先だし、出来る範囲で……」
 「ありがとうございます」
 吉野チーフは、面倒見のよさそうな、気配りもしてくれそうな感じで、ちょっと安心した。そう言えば高校時代はバレーボール部でキャプテンやってた、って聞いたような気が。そういう所もあるのかなぁ。たしかにいかにもキャプテンって感じ。
 
 勉強が目的じゃないのは分かってるけど、じゃぁ何をどうするの、っていうのがあまりイメージの湧いてなかった私としては、とりあえず一つまた、イメージが固まった、というか何をしたらいいのかが見えてきて、ちょっとほっとしたり。まずはサービスカウンターかー。
 
 会議がお開きになって、ちょっと森川さんと立ち話。森川さんも元々はインテリア担当だったけど、3階の総合レジ(というのがある)に居ればいいという話になって、ちょっとほっとした感じだった。
 居場所って大事だもんね、とそんなことを思った。

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