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暗黒の未来スコープ⑥

恋愛小説『マイ・ブラウン・シュガー』
【第三十六話】

(ユリ)

”ありがとう”のステッカー。
私と君のチャット欄に続きはなかった。
じっとそのシンプルなメッセージのやり取りを見つめながら、段々と後悔が押し寄せる。

あのあと、返事すればよかったかな。

メッセージについて直接聞いてもみたかった。
けどやっぱり勇気の出ないまま、今日みたいに事務的な会話で終わったしまうだけ。

ベッドに大の字で寝転び、天井を仰ぐ。

ドラマではこんな時、親友や幼馴染とかに相談するんだろうな。足踏みだけしているドラマなんて進展ゼロだ。当たり前か。

温かく穏やかでいられる距離感。


私が君の前の私でいられる間はそれでいいと数ヶ月前までは思っていた。だけど君の見る私が壊れてしまいそうな恐怖心とは裏腹に、もう少しだけ近づきたいとも思ってしまう。

チャット欄を自然と再開できる方法は何かないか。
いつの間にかそんなことを考え始めていた。
あのリストにあった店での食事を誘おうか。
けど、何もキッカケのない自分にはハードルが高い。
RAZOOLのことだと、話題がそれっきりになってしまう。

あとは、進路。
詳細は話さないにしても、情報は重要だからどの学校もその話題で持ちきりのはず。直接話すよりも文字の方が相手の顔を見ずに済むので言えるかもしれない。
そう思ってとりあえず打ってみたものの、今日の君を思い出して手を止める。

顔が見えないからって、やっぱり自分の興味本位で聞いてしまうのは違うか。文字であれ、君が触れられたくないことかもしれないし。
しかも流れで私の話になってしまう可能性は大きい。私の進路、全く話せないわけじゃない。

だけど。

私が穏やかでいられない世界と

君との世界が交わってしまうのを 

どうしても避けたかった。



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