鎌倉時代に描かれた、俵屋宗達(風)を感じずにはいられない大元帥明王図像という仏画の癒し系の絵に出会った。秘法の仏画のため図像類の遺品は比較的少ない貴重なもの。とっつきにくいイメージだった仏画がほのぼの的な画風によって一瞬でお気に入りに。何度見返しても飽きないクセになる絵
描かれた大元帥明王を本尊とする大元帥法は「国を守るための本気の祈祷(呪術)」であり、江戸時代までは宮中で、明治以降は民間で極秘に行われていた。可愛さとの興味深いギャップ。その絵の背景について調べてみた
大元帥明王図像
展示最初の場面
次の場面
次の場面
次の場面
この時の展示はここまで
今後また別の場面の展示があったら見たい
大元帥明王を本尊とする修法「大元帥法」を唐から持ち帰った平安前期の僧 常暁とは
奈良国立博物館の特別展「空海」に行ってきたばかりなので、空海と同時代を生きて空海より後のタイミングで唐に渡った僧だと知って興味がわく
常暁請来目録
常暁が唐から持ち帰ったモノを朝廷に報告するための目録一覧の写本(重要文化財)
この中に大元帥法も記載されていると思われる
ちなみに空海が持ち帰ったモノの一覧 弘法大師請来目録(国宝)を奈良国立博物館の空海展で見た。なんと空海の目録を元に最澄が書写した写本だった。(弘法大師と題名にあって空海さんの字だと思い込んで見入っていたら、なんと最澄さん!)空海が持ち帰ったものの一つ「宿曜経」が現在の惑星や曜日の呼称のもと
大元帥法の歴史【時系列】
平安時代から江戸時代まで宮中で行われた真言密教の呪術の一つ。明治維新以降も民間で行われてきた
歴史を知れば知るほど、ほのぼの絵とのギャップが凄い
◾️どういったものか
・密教の修法の中の「大元帥法」という秘密の祈願呪法
・大元帥明王という仏尊を本尊として修法されるもの
・「外寇からの防衛」「敵国降伏」を祈願する性格のものとして天皇がいる宮中のみで行われ、臣下がこの法を修めることは許されなかった。
◾️目的
・怨敵・逆臣(主君に背く臣下)の調伏
祈祷によって怨敵、悪魔、敵意ある人などを下す
・国家安泰の利益
長徳の変で藤原伊周が密かに行っていた大元帥法
大元帥法は天皇がいる宮中のみで行われ、臣下がこの法を修めることは許されなかった。平安時代中期 長徳元年(995年)に起きた長徳の変では、内大臣藤原伊周(藤原道長の兄の子にあたる)がこれを行ったという口実により太宰府に左遷された
要するにMOA美術館所蔵の 大元帥明王図像とは
(参考)リアル描写だとコワイ「大元帥明王像」
大元帥明王像 醍醐寺本模写 19世紀
奈良国立博物館 ColBaseで確認できる
(参考)東京国立博物館所蔵 千手観音二十八部衆像図像のどこかに「大元帥明王」
緻密な圧巻の絵…
鎌倉時代のものなのに現代風 初めて見たタイプ
なんと一発勝負の絵で、茶色いシミは汚れではなく写し取るために利用した油紙によるものだという
これは東博で現物見たい 高画質スゴ リンク
(脱線)1200年前の日本人「円仁」が見た中国の旅行記は 「アジア三大旅行記」
大元帥法をもたらした常暁を調べる過程で知った見逃せない情報。【入唐八家(最澄・空海・常暁・円行・円仁・恵運・円珍・宗叡)】のメンバーの円仁による1200年前の旅行記「入唐求法巡礼行記」 認知度の低さが惜しまれるほどの面白さのよう
(ちなみに)同じ鎌倉時代に百人一首の撰者でおなじみの藤原定家が書いた可愛い絵
大元帥明王図像の風神雷神的キャラクターからあらためて
風神雷神とは
(参考)オトナの教養講座「風神雷神図」は神回
俵屋宗達、尾形光琳、酒井抱一の風神雷神図屛風の違い。決して「俵屋宗達か」「それ以外か」(宗達の劣化版)といったことではない奥深い背景。各絵師の個性。アンサーsongならぬアンサー絵として呼応している絵。面識が無くても何百年の時を超えてリスペクトで繋がる芸術家達。なんてすばらしい文化
夏目漱石の表現「簡朴の趣」大元帥明王図像にもぴったり!
上記の動画で夏目漱石が東京国立博物館の表慶館で俵屋宗達の絵を見て「なんだか雄大で光琳と比べて簡朴の趣がある」(※素朴な趣き)と表現していたというエピソードが紹介されていた。大元帥明王図像に対しての表現としてもぴったり。まさに素朴な素晴らしさ
(参考)東京国立博物館で流れていた風神雷神のカッコイイ動画
東京国立博物館の一室で流れていたトーハク紹介映像。(風神雷神部分を頭出し) 雷の中、光る風神雷神が最高 酒井抱一の夏秋草図とのクロスも。感動して家に帰って調べたらYouTubeに同じものがアップされていた↓
仏画のキャラクター見分けたい
白描画で分かる仏像百科
分かってなさすぎて、説明文を読んでもピンと来ないし頭に入ってこないことが多々の仏像画。大元帥明王図像に描かれた細部が気になってこちらの本に行き着いた。この本はポケットサイズでシンプルで良かった