学び「直し」をやめたい。人事が見つけた大人の学びで本当に大切なこと。
「20代はじめの3年間にどれだけやったかでその後の人生が決まる」
最近ある人にこう言われました。
みなさんは、この言葉をどう感じますか?
こんにちは、ひらふくです。ふだんは会社で人事をしています。この春には新入社員の研修を担当しました。社会人のスタートを切った彼らはまっさらで可能性にあふれています。
研修を考える中で、20代のうちにチャレンジングな仕事をした人は30代で伸びるという話が出ました。逆にそうでない人は難しいとも。たしかに本屋さんには「20代で学んでおくべき100のこと」といった本が並んでいますよね。
でも正直なところ、その言葉を聞いたとき30代の私は悔しかったです。
自分の20代の過ごし方は、頑張ってはいたけれど後悔がないわけではありません。もう取り戻せない20代がこの後の私の人生を左右していくのか。人生100年時代の70年間は後悔しながら生きていくことになるのか。
今回は、人事をしている30代の私が「大人の学び」をテーマに大人の可能性を探っていく記事です。大人のみなさん、どうぞお付き合いください。
「転職は35歳まで」という目隠し
終身雇用制度が強かった日本では、若ければ若いほど転職に有利だという説が根強くありました。一つの会社で勤めあげる時代には若い人を入れて長く働いてほしかったんですね。転職できるのは35歳までだと信じていた知り合いもいました。
でも今はむしろ転職が当たり前に。若者を長く育てるより即戦力にすぐ活躍してほしいという会社は増えています。40代以上でも専門性を買われたり役割が合う人材はひっぱりだこです。
でも、そんな現実を頭ではわかっていても、なんとなく「もう若くないから無理だ」という気持ちがあるんです。新しい情報が頭に入りにくくなったり、変化がこわくなったり守りに入ってしまったり。そんなときに年齢を言い訳にあきらめようとする自分がいます。
年齢の壁を私たちに信じこませているのは私たち自身なのかもしれません。
学び直し」の「直し」はいらない
そんな年齢の壁をのりこえる武器の一つが学びです。
私は社員教育を通じて大人が学ぶことに興味をもちました。一昔前の社員研修では企業ごとのオリジナルルールを学びました。
でもそれもだんだんと変わって、新しい分野を学ぶ「学び直し」、新スキルを身に着ける「リスキリング」、今までの価値観をいれかえていく「アンラーニング」などが広がっています。最近はITスキルを社員全員に学ばせる会社もありますよね。
そして、フィンランドの大人学習はその先をいっています。
就職後にも大学で違う分野を学んで職業を変えることは普通です。それは大学が無償で学びやすいということもありますが、なにより人々がそれを当たり前だと捉えているから。
Learning not for school - but for life.(学びは学校のためではない、人生のためである)
フィンランドの文部科学省ポジションの機関が掲げたスローガンです。フィンランドの人にとって学びは生涯をかけておこなうもの。そしてこのスローガンの根底には「そもそも人生の選択は変えていいもの、変わるものだ」という価値観を感じます。
この価値観に立ったとき、私は日本の「学び直し」の「直し」に強く違和感を感じるんです。
「直す」の意味は「良好な状態に戻す」ということ。じゃあ、今までは良好な状態じゃなかったのか?いいえ、今まで自分が培ってきたことがあったから今の自分にたどり着けたはず。
もしいま職を失うかもしれない瀬戸際で学びをし“直す”のだとしても、今までの人生を失敗だったと思いながら学ぶ状況は、どこか重い気持ちを抱え続けていないでしょうか。
大人がいろんな経験をして選択が変わるのは自然なことです。
だから今までを否定するのではなく、今の自分に新しいことを重ねてバージョンアップしていく。どんどん好きな自分になっていく。大人の学びとは、ホップステップジャンプするような楽しいことだと思うのです。
人事が見つけた、大人の学びに一番大切なこと
じゃあ大人が学びを楽しむにはどうしたらいいのか?
いい先生につくこと、時間をやりくりすること、金銭的モチベーションをもつこと、どれも大切ですよね。その中で、人事を10年近く続けてきた私がたどり着いた答え、それは「人から勇気をもらうこと」です。
年齢の壁、守りたいもの、過去の後悔。大人には抱えているものがたくさんあります。だから、新しく挑戦するときには子どものころより勇気をふりしぼることになるのでしょう。
小さい頃は大人は一人で立てる強い人だと信じていたけれど、実際はどうでしょうか。私はいまも手探りなままの大人です。
人事として面接をしていると毎週新しい方に出会って人生のお話をうかがいます。どんなすごい実績をあげてきた人も必ず悩んできた時期があって。一人で立ち続けられる完璧な人間はいないのだとつくづく感じます。
大人になっても一人では立てないし勇気がくじけることもある。だからこそ新しく学び踏み出すときには大人同士で支え合いませんか。
自分と同じように迷い踏み出そうとする人たちに弱音を聞いてもらったり切磋琢磨したり勇気をもらったり。フィンランドのサウナでは、見知らぬ人同士が日頃話さないような人生の後悔をぽつりぽつりと話すことがあるそうです。あなたには勇気を交わしあう相手や場所はあるでしょうか。
私たちは勇気を交わしあえる大人たち
もしすぐ浮かばなくても大丈夫。身近なところにその場所はあります。
例えば、買い物をしたお店で「この商品を早速使ってみますね」と言ってみましょう。飲食店を出る時に「おいしかったです」と伝えてみましょう。それだけで相手がパッと笑顔になってくれて「ありがとうございました。また待ってます」と言われるはず。
そのとき、あなたは相手に「この仕事を続けよう」という元気や勇気をわたしています。そしてあなたもその笑顔から元気をもらうかもしれません。
そんなふうに、日常の中でささやかな元気や勇気を交わしあいながら大人たちは生きています。そして、この延長線上に大人が楽しく学びあって可能性を広げていく世界があると信じています。
私たちの人生は20代で終わりではありません。まだまだこれから続いていきます。
私たちの可能性は学びによって広げることができます。一生学び続けていくならせっかくなので楽しく学びたいものです。抱えるものがある大人たちだからこそ支え合って勇気を出して。
さあ、子どものころのように「明日は何が起こるかな」と思いながら眠りにつきましょう。
何歳になっても、私たちには可能性があって、明日の自分にワクワクしていけるのだから。
Text by ひらふく(おとな教育の実践人事)
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