コイシ トキ

詩作、短歌、言葉をほそぼそと綴りつづけています。 昔からぼーっとしていると、言葉が生ま…

コイシ トキ

詩作、短歌、言葉をほそぼそと綴りつづけています。 昔からぼーっとしていると、言葉が生まれてきます。結婚、出産、育児、死別、仕事の日々の中でそれらを書き留めることが出来る時間が減ってしまいました。 noteで、生まれる言葉たちを形にできればいいなと思います。

記事一覧

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ポトスの話をしよう。 ある時、100円ショップで彼がポトスを買った。かつて研究生だった彼が、唯一心を許した植物であった。 ポトスという植物について、彼が言った。…

恋しいときはどこだ

恋し、恋しい この思いはどこからやってくるのか かつて寄り添いあった瞬間の記憶か それとも 産まれる前の温かいものに包まれていた感覚か 寂し、寂しい この気持ちはど…

素直な頑固さ

ある日、おばあちゃんに訊いてみた。 「どうしたら、いいと思う?あまりにうまくいかないことが多いんだ。」 おばあちゃんは、60歳になった時スイミング教室に通いだして…

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すりガラスの優しさ

梅雨休みの晴れた日 すりガラス越しにひゅっと燕の影が映った すりガラスはどうしてこんなにも優しいのだろう 見えているようで見えず、見えないようでいて見える ぼんや…

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正々堂々

「雨が降っているから、濡れて帰ろう」 君はそう言って、ゆっくりと豪雨の中を歩いていく。またか、と僕は心の中で大きく呟いた。 彼女の突拍子のなさは、いつもこんなふ…

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嘘つきと作文

文学少女は、うそつきである。 かつて遠藤周作が「日本うそつきくらぶ会長」を名乗っていたように、得てして文学とは嘘つきだ。 文学少女だった私は、文学的表現を盾にし…

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秋とブラームス

夕暮れの寒さが人恋しさに変わる。 この季節はいつもそうだ。どうしようもなく、寂しくなる。 「昼間と夜で十度も違うと、心に隙間ができるんだよ。だから葉っぱも落ちる…

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ポトスの話をしよう。

ある時、100円ショップで彼がポトスを買った。かつて研究生だった彼が、唯一心を許した植物であった。

ポトスという植物について、彼が言った。

「やつはさ、とにかくへこたれないんだよ。水をしばらくあげなくても、そんなに光がない部屋にいてもさ。それで、薄い壁の向こうの雑音にうんざりしていた僕に、そういうこともあるよって言って、やつの葉っぱでぐるぐる包んでくれたんだ。そんなに大

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恋しいときはどこだ

恋し、恋しい
この思いはどこからやってくるのか

かつて寄り添いあった瞬間の記憶か
それとも
産まれる前の温かいものに包まれていた感覚か

寂し、寂しい
この気持ちはどこへゆくのか

答えが帰ってこない空っぽのソファか
それとも
二度と寄りかかることができない背中のぬくもりか

恋し、焦がれ、寂しさつのる
寂し、さざめき、恋しさつのる

つのり、つのって
どこにもゆけなくなったとき
ただ、ここで

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素直な頑固さ

素直な頑固さ

ある日、おばあちゃんに訊いてみた。
「どうしたら、いいと思う?あまりにうまくいかないことが多いんだ。」

おばあちゃんは、60歳になった時スイミング教室に通いだして金槌じゃなくなった。70歳になった時には韓国語を習い始めてソウルを旅した。そういう人だ。

「私が若いときから気をつけてきたのはね、素直でいること。」

おばあちゃんは紅茶を一口飲んで、続けた。

「誰でもね、素直になりたくないのよ。素

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すりガラスの優しさ

すりガラスの優しさ

梅雨休みの晴れた日
すりガラス越しにひゅっと燕の影が映った

すりガラスはどうしてこんなにも優しいのだろう
見えているようで見えず、見えないようでいて見える

ぼんやりと映る光と影
曖昧なままの向こうの景色

隔たったようで繋がっている
こちらとあちら

世界のすべてを明解にみることは難しい

曖昧なままのキミの優しさ
ぼんやりと映る光と影

繋がっているようで隔たっている
あちらとこちら

正々堂々

正々堂々

「雨が降っているから、濡れて帰ろう」

君はそう言って、ゆっくりと豪雨の中を歩いていく。またか、と僕は心の中で大きく呟いた。

彼女の突拍子のなさは、いつもこんなふうに始まるのだ。それが芸術家だと友人は言うが、僕にとってはただの非常識でしかない。

でも、こんなに風が強くては傘はなんの役にも立たないし、邪魔になるだけだ。

守ろうとするのも難しい。

正々堂々と雨に濡れてやろうじゃないか、と腹を括

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嘘つきと作文

嘘つきと作文

文学少女は、うそつきである。

かつて遠藤周作が「日本うそつきくらぶ会長」を名乗っていたように、得てして文学とは嘘つきだ。

文学少女だった私は、文学的表現を盾にして、嘘を散りばめながら作文を書いていた。それを嘘というのか、誇大表現というのか、見方によって変わるわけだ。

小さな鼻にもかからないような出来事を、崇高な文学へ。

なんでもないように感じていた気持ちを、感動的な逸話へ。

結果として美

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秋とブラームス

秋とブラームス

夕暮れの寒さが人恋しさに変わる。

この季節はいつもそうだ。どうしようもなく、寂しくなる。

「昼間と夜で十度も違うと、心に隙間ができるんだよ。だから葉っぱも落ちるし、赤くなったり黄色くなったりする」とよくわからない理論で微笑んだ彼の残像が、ふっとよぎる。

無性にブラームスが私を呼んでいる。

大音量で流れるブラームスの交響曲第4番。

それでも足りない。もっと、深く、強く、私を満たして欲しいと

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