G7 富山・金沢教育大臣会合「富山・金沢宣言」の中身とは?
2023 年 5 月 19 日に開幕した G7 広島サミットに先立って、5 月 12 日から 15 日、G7 各国の教育担当大臣が富山・金沢に集まり、今後 G7 各国で共有すべき教育に関わる基本的な考え方と取り組みの方向性についてをまとめた「富山・金沢宣言」を採択しました。
「富山・金沢宣言」にはどのような内容が記載されているのか確認してみましょう。
1、基本的な考え方 〜教育の普遍的価値の再確認〜
我々は、COVID-19 パンデミックとロシアのウクライナ侵攻という世界的な危機が、教育機会へのアクセスを妨げている現状を認識している。我々は、これらの問題に対し、持続可能な開発のための教育(ESD)を推進し、全ての人が質の高い教育及び生涯学習にアクセスできるようにし、国際的な交流を促進するために協力することを約束する。
コロナ禍がもたらした教育への影響は深刻であるが、これを機に教育システムの強化と再考を進める必要がある。私たちは、全ての学習者が包摂的で公平な教育を受けられるようにし、社会的・経済的文脈に応じたウェルビーイングを追求できるような教育環境を作り出すために、より強靭な教育システムの構築に努めることを確認する。生成AIを含めたデジタル技術の進歩は学習や指導に好機をもたらす一方で、教育システムに新たな課題を提起しているが、それらを乗り越えるための戦略も一緒に議論し、G7 各国において以下に示す取り組みを進めていくことについても同意した。
2、G7 が目指す取り組みの方向性
2−1、コロナ禍を経た学校の役割の発揮と ICT 環境整備
学校は包摂的な社会を形成する重要な基盤であり、その役割はパンデミックを通じて明らかになった。私たちは、学校が安心して学べる場所であり、子供たちのウェルビーイングを高めるという役割を保持し発展させることを強調する。また、学校とコミュニティの連携を通じて、自然や文化芸術活動の機会を増やし、社会的なスキルの向上を図る。教師と専門職員の連携も心理的健康のサポートに重要である。さらに、私たちはデジタルとリアルを融合した教育を推進し、教師の ICT スキルを向上させ、情報活用能力の育成を強化する。
2−2、全ての子供たちの可能性を引き出す教育の実現
私たちは、全ての子供が包摂的で公平な教育を受けられるようにし、それがウェルビーイングの向上につながることを確保する。教育のデジタル化が進む中で、デジタルの活用は対面教育を補完するものとして推奨し、その課題を把握し、リスクを軽減することが重要と認識している。また、学校とコミュニティの連携を強化し、教師の能力向上とウェルビーイングをサポートするための取り組みを行う。これには少人数の学級の推進や教師の業務の適正化などが含まれる。最後に、障害の有無、言語、文化、社会経済的状況、性的指向、性自認などに関わらず、全ての子供の可能性を最大限に引き出す教育を提供することを目指す。特に、障害のある子供と障害のない子供が共に学べる環境の整備と、一人一人の教育ニーズに対応した学びの場の整備を進める重要性を認識する。
2−3、社会課題の解決とイノベーションを結びつけて成長を生み出す人材の育成
G7のメンバー国は、人口変動、デジタル化、脱炭素化などの地球規模の社会変化への対応に取り組み、イノベーションと持続可能な経済成長を推進することを目指す。これを達成するための重要な手段として、教育と人材育成が位置づけられている。教育は、貧困の撲滅、包摂的な経済成長、気候変動対策などのSDGsの達成に大いに貢献できるとされている。この観点から、教育の横断的な取り組み、特に基礎教育や STEAM 教育の推進、デジタル技術やグリーンテクノロジーの領域でのスキル開発、起業家精神の育成などが重視されている。さらに、教育を通じたジェンダー平等の推進と教育の障壁を撤廃することの重要性が強調される。これらの取り組みを進めるためには、教師や教育関係者、さらには学校外の関係者との協働が求められている。
2−4、国際社会の連携に向け、新たな価値を想像するための国際教育交流の推進
G7 のメンバー国は、留学生の交流や教育・研究における国際的な頭脳循環の促進を通じて、各国間の友好関係や信頼関係の構築、多様な視点の共有、民主主義、人権、自由、平和などの普遍的な価値観の基盤形成に努めることを目指す。具体的には、初等教育から高等教育、職業教育に至るまでの各レベルでの G7 各国間の教育交流を推進し、大学間の連携や学校間の提携を深化させ、留学プログラムの拡大や ICT を活用した交流を促進するとともに、オンライン学習の重要性を認識しつつ、対面による教育・学習の重要性を維持する。さらに、人材交流の早期化を通じて異文化間の理解を深め、教育水準や国境を越えて人々が出会い、学び、働く機会を拡大する。
3、G7における認識の共有
G7 のメンバー国は、「 TES 」(より多く、より公正に、より効率的に教育に投資する)の原則を振り返り、教育への投資が個人への投資であり、それが極めて重要であると再認識する。このため、各国は G7 教育大臣会合で議論された連携と協力の深化を引き続き推進する。過去の危機や課題、例えばCOVID-19 パンデミックやロシアによるウクライナ侵攻などを経験する中で、教育の普遍的な価値と重要性を再認識したことから、各議長国主導の下、G7 全体で教育に関するハイレベルな対話を継続することを奨励する。
2022 年 G20 教育大臣会合(インドネシア・バリ)で提唱された調和と協調に基づくウェルビーイングのアプローチを認め、学校や大学が生徒・学生の精神的なウェルビーイングを促進・支援する安全で協力的な学習環境の形成を目指す。さらに、子供たちのウェルビーイングを考慮した科学的根拠に基づいたアプローチの重要性を認識する。
過去の G7 でのコミットメントを振り返りながら、G7 教育大臣会合での成果が G7 以外の国々に対しても貢献できるよう、G7 メンバー国は教育が直面する課題に対する解決策を見つけるための連携・協力を継続する。これらの約束を国際社会と広く共有することも目指す。
以上のように、「富山・金沢宣言」では、世界的な危機に見舞われる中で浮き彫りになった教育機会の重要性を強く訴え、すべての子供のウェルビーイングを達成するために各国が協調して歩みを進めていくことの重要性が訴えられています。
各国と比較しても充実した教育制度を有する日本においても、すべての子供たちのウェルビーイング達成には課題が山積しており、それらの課題の解決に向けて、文部科学省がイニシアチブをとっていくことが期待されます。
株式会社エデュテクノロジーでは、子どもたちと先生方のウェルビーイング向上を目指し、学習用端末を含めた ICT 機器の環境デザインや活用マニュアル等のハード設計から、教育データや ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する「教育DXコンサルティング」を提供しています。長年培った経験とノウハウで、これからも児童生徒の学力向上に向けた「学びと ICT 」について、学校と教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えています。
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