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「公正で質の高い教育を目指した ICT 活用の促進条件に関する研究: 2020 年度全国調査の分析」で明らかになったこととは?

国立教育政策研究所では、ICT を活用した教育が促進されるための条件について、以下の二点に焦点を当てて研究を進めています。

【研究課題 1 】: 社会経済背景や教育ビジョン、組織体制がどのような場合に、ICT を活用した教育が促進されるかを検討する。

【研究課題 2 】: ICT を活用して、児童生徒の多様な特性や背景に配慮した公正で質の高い教育を実現するためには、どのような工夫や条件が必要かを検討する。

国立教育政策研究所 令和元-4 年度プロジェクト研究 「高度情報技術の進展に応じた教育革新に関する研究」中間報告書では、研究課題 1 に焦点を当て、全国の市区町村教育委員会や公立小・中学校における ICT の教育活用に関するデータを統計的に分析し、促進条件について報告しています。分析には、国立教育政策研究所のウェブ調査、文部科学省の調査、各種政府統計調査など様々なデータが用いられています。なお、研究課題 2 については、引き続き研究が行われる予定となっています。

本稿では、研究の背景や課題、調査分析方法が記載されている第 1 章には触れず、第 2 章以降の各章に記載されている研究成果の概要について簡単にまとめていきます。

第 2 章 : 公正で質の高い教育における ICT 活用の促進条件

  • 家庭学習のオンライン支援を可能にした要因は、教育委員会にキーパーソンが存在していたこと、教育長の革新的な教育理念豊かな財政力と端末の配備などが挙げられる。

  • 学校での ICT 活用が進む要因は、キーパーソンと支援人材の存在教育委員会の支援校長がデジタルツールを日常的に使いこなす能力社会関係資本が良好な状況教員が ICT を活用した授業準備の時間を確保できる状況ICT 支援員などの人的資源配置が十分な状況、などがある。

  • 校長の平等分配志向は ICT 活用の促進の阻害要因となる。

  • 全国の学校で ICT の教育活用を促進し、その活用状況の差を縮小するには、教育委員会や市区町村、学校に必要な人的資源の配置と、校長のリーダーシップ発揮教職員間の社会関係資本の醸成が可能となる環境の整備が必要である。


第 3 章 : ICT の教育活用推進におけるキーパーソンに着目した分析

  • キーパーソンの存在の有無によって、ICT の活用状況や組織内・組織間の連携状況に影響が生じる。

  • キーパーソンが存在する市区町村では、ICT を活用する学校の割合が比較的高く、特に小学校でその傾向が顕著である。

  • キーパーソンの存在は、市区町村の教育行政と一般行政、教育委員会内の連携促進学校教員の理解や教職員間の連携の促進に寄与している可能性が考えられる。

  • 約 3 割の教育委員会や学校で、キーパーソンが不在であることが明らかになり、その発掘・育成・配置・研修が引き続き重要な課題である。


第 4 章:市区町村の過去複数年の学力状況,教育長・校長のリーダーシップと ICT の教育活用の関係

  • 教育長が革新的な授業を推進するタイプ( 革新的授業観と ICT リテラシーが最も高い )である場合、ICT 活用が進んでいる。特に、学力が高い市区町村では、「革新的授業推進タイプ」の教育長の下で、遠隔・オンライン学習の ICT 活用が進んだ可能性がある。

  • 校長が「 ICT 積極活用タイプ( ICT リテラシーが高く、平等分配志向が低い )」である場合、学習、校務、遠隔・オンライン学習のどの場面でも ICT 活用が進んでいる。従来の学力状況が良好な市区町村では、学習や遠隔・オンライン学習での ICT 活用が進んでいたが、それが学力格差拡大につながらないかどうかを今後見極める必要がある。


第5章:校長の平等観・学習観と ICT の教育活用

  • 校長が「困難な家庭環境にある児童生徒には、教員が授業内で時間を使って丁寧に教えることが重要」と考える学校では、ICT 活用が促進されていた。また、「新たな ICT の導入が必要になった際には、当面は学校間に差が生じても、できるところから迅速に導入することが重要」と考える校長の学校でも ICT 活用が促進されていた。

  • 学習観が「児童生徒に ICT を活用させる」「複雑な課題を解く際に、その手順を各自で選択するよう指示する」「明らかな解決法が存在しない課題を提示する」「完成までに少なくとも一週間を必要とする課題を提示する」を重視する校長の学校でも ICT 活用が促進されていた。

  • 社会経済的に困難な状況にある児童生徒への公正的平等観や、複雑な課題への積極的な取組を重視する校長の学校では、ICT 活用が促進されている傾向にあった。


第 6 章: ICT の教育活用への社会経済的な制約と不利の克服

  • 社会経済的に不利な市区町村では、有利な市区町村に比べて新学習指導要領の目的に沿った ICT 活用や、登校できない状況への対応の ICT 活用が滞っていた。その一因として、 ICT 支援員の配置が難しくなっている可能性が考えられる。

  • 全体としては、社会経済的に不利な学校で ICT 活用が特に停滞している傾向は見られなかった。しかし、特に小学校では、「プログラミング的思考を通じた情報活用能力の育成」や「探究的な見方・考え方を働かせる教科横断的・総合的な授業や学習活動の充実」など、今後の学校教育で重視され、ICT 活用が期待される一部の領域で、学校の社会経済的背景による活用状況の差が出ていた。

  • 社会経済的に不利な学校の児童生徒の学習への取組状況は課題が大きいが、学校における学習での積極的な ICT 活用と関連がある。学習への取組状況を改善する可能性も示唆されている。

  • 児童生徒の学習への取組状況を改善するのに有効な、教員が児童生徒と向き合う時間を確保すること社会経済的に困難な家庭環境にある児童生徒を支援することは、校務で積極的に ICT を活用する学校で、よりよくできていることが分かった。


今回の中間報告書では、以上の内容が明らかになりました。ただし、本研究報告の最後には、「考えられる複数の仮説を慎重に考慮した上で ICT の教育活用の促進要因と阻害要因について考察しているが、厳密な意味での因果関係を推定できたわけではないことに留意が必要」との記載もあり、読み取り・取り扱いには注意する必要があるかもしれません。
とはいえ、本報告書で示された、自治体や学校内でのリーダーシップの重要性、それを支える人材面・資金面での支援の必要性という、ICT の効果的な活用の実現に向けた2つの視点については、教育委員会・学校が検討していくことが重要であると考えます。


株式会社エデュテクノロジーでは、DX によって先生方の働き方改革とウェルビーイングを向上する学校環境を整えるため、学習用端末を含めた ICT 機器の環境デザインや活用マニュアル等のハード設計から、ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計やキーパーソンの育成までトータルに支援する「教育DXコンサルティング」を提供しています。長年培った経験とノウハウで、これからも児童生徒の学力向上に向けた「学びと ICT 」について、学校と教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えています。

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