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今後の ICT 環境を自治体はどう整備していくべきか?

学校における ICT 環境は、平成 29 年 12 月 26 日、各都道府県教育委員会教育長等宛てに発出された「平成30年度以降の学校における ICT 環境の整備方針について」とともに、当該整備方針を踏まえ策定された「教育の ICT 化に向けた環境整備 5か年計画(2018~2022年度)(以下、5か年計画)」を根拠として整備が進められてきた。しかし、予算措置も講じられていたものの、各自治体における ICT 環境整備は思うような進展は見られなかった。

2019 年(令和元年)に開始された GIGA スクール構想によって学校における ICT 環境は一変する。児童生徒 1 人 1 台のコンピュータや、高速ネットワークが全国的に整備され、教育の情報化が一気に加速。5か年計画に示された指標達成に向け大きく前進した。ICT 活用の更なる促進が図られていくことが想定される中で、これからの学びに適した教育環境を創造し、実現していくことが今後の大きな課題である。

本稿では、昨年 12 月から今年 1 月にかけて文部科学省から発出された通知文書から、国の方向性について確認しつつ、各自治体が担う今後の ICT 環境整備の考え方・進め方について考察する。

学校における ICT 環境整備の現状


本稿冒頭にも記載の通り、学校における ICT 環境整備は5か年計画をもとに進められており、今年度が最終年度となる。ここでは5か年計画に記載されている整備項目及び目標値(水準)について確認していく。

引用元:教育のICT化に向けた環境整備5か年計画(2018~2022年度)

数値目標が定められている整備項目は(1)コンピュータ、(2)プロジェクタ等の大型提示装置、(3)WiFi 環境を含むインターネット回線、(4)統合型校務支援システム、(5)ICT 支援員の大きく 5 つにまとめることができる。
これらの整備状況については「令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)(令和4年3月1日現在)(以下、調査結果)」に記載の数値を参考に確認していく。

各整備項目に関連する数値の全国平均値は以下の通りである。(一部文部科学省の通知文書に記載された数値から筆者が算出した数値を含む)

① 教育用コンピュータ 1 台当たりの児童生徒数  : 0.9 人 / 台
② 教育用コンピュータ整備率 : 109.2 %
③ 普通教室の無線 LAN 整備率 : 94.8 %
④ インターネット接続率(30Mbps 以上) : 99.4 %
⑤ 普通教室の大型提示装置整備率 : 83.6 %
⑥ 教員の校務用コンピュータ整備率 : 125.4 %
⑦ 統合型校務支援システム整備率 : 81.0 %
⑧ ICT 支援員の配置 : 8.1 校 / 人
※ 「⑧ ICT 支援員の配置」については、令和 4 年 11 月 25 日付け 4 文科初第 1664 号「1人1台端末の利活用促進に向けた取組について(通知)」の別添2「 ICT 支援員(情報通信技術支援員)の配置状況【都道府県別 ※政令市除く】」に記載の「1人当りの学校数」をもとに算出した全国平均値である。


1)コンピュータについて
学習者用コンピュータの指標は「 3 クラスに 1 クラス分程度」。この水準は「 1 日 1 コマ分程度、児童生徒が 1 人 1 台環境で学習できる」とも表現されている。① にある 0.9 人 / 台は、まさに 1 人 1 台環境が整備された状況を表すものであり、この数値から5か年計画の指標「 3 クラスに 1 クラス分」は充足しているものと考えられる。

また、別の観点からも検証してみると、調査結果には全学校種の普通教室数が記載されており、その数は 48万2483 教室である。「 3 クラスに 1 クラス分程度」の整備水準であることから、普通教室数の 3 分の 1 にあたる約 16万1000 教室に 40 台のコンピュータが整備されていれば達成されていることになる。その数は単純計算で約 644 万台である。調査結果に報告されている教育用コンピュータは全国で 1,235 万 9187 台であり、先の水準を遥かに超えるコンピュータが整備されていることが分かる。

一方で、指導者用コンピュータはどうだろうか。調査結果には、指導者用コンピュータについての項目はない。また、教育用コンピュータは、指導者用と学習者用の両方を含めたものとの注釈もあることから、その数値は、両者を合算したものと考えることができる。

GIGA スクール構想では、児童生徒用のコンピュータ整備が優先され、指導者用のコンピュータが不足しているという先生方からの声をしばしば耳にする。教育用コンピュータの整備台数が大幅に増加している状況は、学習者用コンピュータが整備されたことを意味し、指導者用コンピュータはいまだに十分ではないことが推測される。直接的なデータが確認できない状況にあって、調査結果の分析や、学校現場から聞こえてくる声からの推測でしかないが、指導者用コンピュータの整備状況は、5か年計画の指標を達成していない可能性が高く、今後、整備を進めていく必要があると考える。


2)プロジェクタ等の大型提示装置

調査結果 ⑤ の数値から明らかなように、普通教室の大型提示装置整備率は83.6 %と、5か年計画の指標は達成されていない。また、普通教室とともに整備指標にある特別教室へのプロジェクタ等の整備については、指導者用コンピュータ同様、直接的なデータが存在しないため判断することはできないが、おそらく普通教室から優先して整備する自治体が大多数をしめている状況にあり、特別教室における大型提示装置の整備も進んでいないことが想定される。

3)WiFi環境を含むインターネット回線
調査結果 ③ 及び ④ の数値からも明らかなように、普通教室の無線 LAN 整備率並びに超高速とは言い難いがインターネット接続率(30Mbps 以上)は、 100 %に近い数値であることが分かる。調査結果では、参考データとしているインターネット接続率(100Mbps以上)においても、 100 %に近い数値が示されており、5か年計画における本項目の指標は概ね達成できている。今後、ますます ICT 活用が日々の教育活動で当たり前の光景となる中で、整備水準の達成だけではなく、より快適な WiFi 環境の模索、実現を目標としていく必要がある。

4)統合型校務支援システム
教職員の負担軽減や働き方改革に向け、校務の DX 化を進展させることが重要である。そうした中で、統合型校務支援システムの導入は早期に進めていく必要がある。調査結果 ⑥ の校務用コンピュータの整備率は高い水準にあり、導入する基盤が整っている状況にあると推測できるだけに、統合型校務支援システムの整備を加速させ、校務負担の軽減、またその先にある働き方改革を実現させることが急務と考える。


5)ICT 支援員
上記 ⑧ は、文部科学省が示した公の数値ではないが、文部科学省の発出文書をもとに算出した結果である。その値は、5か年計画の指標を大きく下回る数値であることが分かる。 1 人 1 台環境における活用元年と言われた本年度から、ICT の更なる活用促進が求められる次年度に向けて、文部科学省の GIGA スクール運営支援センター整備事業の支援を得ながら、5か年計画の指標以上に ICT 支援員の適正配置に取り組むことが必要と考える。

各整備項目を調査結果と照らし合わせ、それぞれの整備状況に大きな違いがあることが分かった。現状、5か年計画という整備水準がある中で、その水準を満たしている整備項目は現状維持することが望ましいのか?もしくは更なる整備強化が必要なのか?水準を満たしていない整備項目はいつまでに目標達成を目指していけば良いのか?等、整備を委ねられている自治体にとって、今後の ICT 環境整備の進め方は、非常に悩ましい課題である。

ICT 環境の文部科学省の整備方針について


今年度が5か年計画の最終年度であることを受け、文部科学省は今後の整備方針に関する通知文書を令和 5 年 1 月に 2 通発出している。令和 5 年 1 月 16 日に発出された「学校における ICT 環境の整備方針について」では、5か年計画に示されている ICT 環境整備を持続的・継続的に進めていくことが重要との見解を示すとともに、GIGA スクール構想によって実現された教育環境での新たな学びに関する検証期間の必要性を考慮し、5か年計画を 令和 6 年度まで 2 年間延長することを周知した。

また、現行の ICT 環境整備方針に替わる新たな方針の策定を、令和 7 年度に向けて進めることも明らかにしている。更に、次年度以降 GIGA スクール構想で整備された 1 人 1 台端末の更新が控えている状況を受け、 費用負担の在り方について検討していくことについても言及している。

令和 5 年 1 月 23 日に発出された「令和 5 年度学校の ICT 化に向けた環境整備に係る地方財政措置について」では、先述の通知内容に加え、これまでの5か年計画同様、引き続き単年度 1,805 億円の地方財政措置が講じられることを示している。

引用元:(令和5年1月23日付け事務連絡)令和5年度学校の ICT 化に向けた環境整備に係る地方財政措置について


次年度からの 2 年間は、先の通り、現行5か年計画を推進していくことになる。その中で大きな課題となるのは、コンピュータ教室の整備ではないだろうか。GIGA スクール構想によって小中学校には 1 人 1 台環境が、高校では自治体及び家庭負担で 1 人 1 台環境が整った状況にあって、コンピュータ教室の必要性についてどのように整理するのか、自治体は頭を抱えている状況にあるだろう。

ここでコンピュータ教室の在り方に関する文部省の見解について確認していく。
令和 4 年 12 月 19 日「 GIGA スクール構想に基づく 1 人 1 台端末環境下でのコンピュータ教室の在り方について」が文部科学省より発出されている。この通知には、小・中・高等学校学習指導要領「総則」解説や令和 4 年 6 月に改訂された各学校種における「施設整備指針」等にあるコンピュータ教室に関連した記載を丁寧に解説している。

通知文書の記載の通り、コンピュータ教室の設置の必要性は理解できる。しかし、各記載内容の文末が「望ましい」、「重要である」というものでは、自治体における環境整備の予算折衝の根拠とすることは困難である。正直、この通知文書をもってコンピュータ教室の整備を推進していくことは難しいと感じる。それだけに自治体がコンピュータ教室でどのような学びを実現し、どのような子供たち、人材を育成するのかを想像していくことが重要となる。通知文書には、今後のコンピュータ教室の方向性を自治体で検討する上でのヒントが記載されているので確認されたい。

これまでコンピュータ教室は、情報活用能力を育成する特別教室としての役割を担ってきた。今日、 1 人 1 台端末環境が実現したからこそ、STEAM 教育などの発展的な学びに対応できる高性能な端末や 3D プリンター等を備えたファブスペースへの転換など、これからの時代を担う子供たちの資質・能力を醸成する新しいコンピュータ教室(特別教室)に進化していくことが必要であると考える。

最後に


ICT 環境整備は、これからの社会を生き抜くために必要な資質・能力を養う学習機会を提供する環境を整えることにある。こうした信念のもとに各自治体は ICT 環境を整備してきたし、今後も整備し続けなければならない。教育の平等や教育の質を担保するという観点で、国が示す5か年計画等の整備方針は明確な目安であり、その実現に向けて自治体は日夜努力を続けている。

本稿で取り上げた通知文書で、次年度から 2 年間、現行5か年計画に基づく環境整備が継続すること、また、その整備にあたって単年度 1,805 億円の地方財政措置の予算措置も継続されることも判明された。しかし、こうした通知や予算措置が、自治体における予算折衝の根拠となることが難しい状況にあることは事実である。教育の質を上げることは我が国の国力を高めることにつながる。GIGA スクール構想で 1 人 1 台環境が実現したように、ICT 環境整備に係る明確な予算措置とともに、平成 29・30 年度改定学習指導要領下での学習環境のあるべき姿に基づく整備方針が示されることを期待したい。


株式会社エデュテクノロジーでは、学校教育における学習用端末を含めた ICT 機器の環境デザインや活用マニュアル等のハード設計から、ICT の強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する「教育DXコンサルティング」を提供している。長年培った経験とノウハウで、これからも児童生徒の学力向上に向けた「学びと ICT 」について学校、教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えている。

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