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「教育用コンピュータの台数が児童生徒の人数を上回る」 最新の教育の情報化の実態は?

文部科学省は、令和 4 年 8 月 31 日に令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査の結果を速報値として公表した。今回の調査結果で注目すべきは、令和 4 年 3 月時点としながらも、これまで実施されてきた同調査※において、初めて教育用コンピュータ台数が児童生徒数を上回ったことである。

GIGA スクール構想により、小中学校での 1 人 1 台端末環境の整備がほぼ完了し、高校における整備に課題も見受けられる状況にはあるが、初等中等教育段階における児童生徒1人1台環境が現実になる日も目前となっている。

※「日本の教育情報化の実態調査と歴史的変遷(徳島文理大学 林 向達 氏:日本教育工学会研究報告集掲載)」によれば、文部科学省による教育の情報化の実態等調査は、昭和62年度から実施されているという。現在、文部科学省のホームページにおける同調査に関する関連ページには、平成18年度以降の結果が閲覧できる。

「 学校における教育の情報化の実態等に関する調査 」は、地方公共団体において整備された教育 ICT 機器や学校のインターネット環境、教員の ICT 活用指導力の状況を明らかにする統計調査である。この調査は、全国の公立学校( 小学校、中学校、義務教育学校、高等学校、中等教育学校、特別支援学校 )を対象に毎年実施され、国全体の教育の情報化の現状を、都道府県や市区町村などの自治体単位、また、学校種別で集計している。本稿では、今回の調査結果についてまとめていきたい。

学校における ICT 環境の整備状況


学校における ICT 環境の整備状況は、いずれの項目においても前年度の調査結果と比較し向上していることが分かる
。特に大きく向上したのは「学習者用デジタル教科書 整備率」で 29.7 %アップ、次いで「指導者用デジタル教科書 整備率」が 13.8 %アップしており、デジタル教科書が前年度から急速に普及したことが分かる。デジタル教科書の普及は、GIGA スクール構想による教育用コンピュータの整備が大きな要因と考えることができる。
■参考:学習者用デジタル教科書について- 文部科学省

引用元:令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【速報値】より作成

では、教育用コンピュータの整備状況を確認していきたい。本稿冒頭でも触れたが、教育用コンピュータの整備台数が児童生徒数を上回り、「教育用コンピュータ 1 台当たりの児童生徒数」は、調査開始から初めて1台あたりの児童生徒数が 1 を切っている。また、以下に示す都道府県別の教育用コンピュータの整備状況を見ると、前年度調査では都道府県により 0.9 〜 2.9 人/台とばらつきがあったが、今年度の調査では 0.8 〜 1.1 人/台と都道府県による差はほとんどなくなっていることが分かる。前年度調査時にて整備の遅れが見受けられた「岩手県」、「宮崎県」、「山梨県」、「広島県」は、1 年で平均値に近い水準まで上昇している。今年度調査における最高値 0.8 人/台となる都道府県は「徳島県」「高知県」、「愛媛県」の 3 県、最低値 1.1 人/台は「滋賀県」となっている。

引用元:令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【速報値】P9

前年度調査の時点で、すでに整備率が高かった「普通教室の無線LAN 整備率」と「インターネット 接続率( 30 Mbps以上)」は変わらず約 98 %と高い水準を維持している。

教員の ICT 活用指導力


教員の ICT 活用指導力は、いずれの項目においても前年度と比較し向上していることが分かる。特に顕著な向上は「B 授業に ICT を活用して指導する能力 」及び「C 児童生徒の ICT 活用を指導する能力」の教育活動に関わる項目である。この背景には、教育用コンピュータがノートや鉛筆などの文房具として利用できる環境となり、教員が日々の授業に ICT を当たり前のように活用する場面が増えたことが、こうした結果につながっているものと推察される。

引用元:令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【速報値】P23

先の2つの項目以外の「A 教材研究・指導の準備・評価・校務などに ICT を活用する能力」、「D 情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力」についても、それほど大きな上昇傾向ではないが前年度調査から着実に向上している。

「A 教材研究・指導の準備・評価・校務などに ICT を活用する能力」は、教員の校務の情報化に取り組めるスキルと捉えることもできる。これは令和2年度調査で初めて全都道府県での教員の校務用コンピュータの整備率が100 %を超えてから月日が流れ、児童生徒1人1台環境で ICT が日常的に活用されている状況と同様に、校務においても ICT の活用が常態化しつつあることを物語っているものと推察する。

前年度調査からの伸び率が一番少なかった「D 情報活用の基盤となる知識や態度について指導する能力」は、情報モラル等、社会生活での ICT 活用に必要となる力を育成する際の指導力について問われる質問項目である。こうした指導力は、教育用、校務用のコンピュータを日常的に活用していたとしても身につけることは難しい内容であるが、これからの教員に求められる力であるだけに、どのようにして情報モラル等の知識や態度等を身につけていくかは非常に大きな課題と考える。

引用元:令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(概要)【速報値】P28

教員の ICT 活用指導力の向上の大きな要因となったであろう研修の受講状況について確認したい。ICT 活用指導力の各項目に関する研修を受講した教員の割合は、前年度調査から10 %以上上昇している。この要因も学習環境や職員室等での ICT 化が進み、その活用に向けた様々な研修が自治体で展開されたこと、その状況に対して教員が積極的に研修に臨まれた結果であると考えられる。

各都道府県における研修受講率の高まりは喜ばしいことである。しかし、研修受講率が高い都道府県が、必ずしも ICT 活用指導力の4項目の値が高い状況にない。なぜこのような状況が起きているのかについては、まさに教員免許更新制の廃止に伴う新たな研修体制「新たな教師の学び」に大きく関わるものと考える。教員免許更新制の廃止に関しては、別稿にて解説している。是非そちらも参考にされたい。

まとめ


令和3年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査の結果から、学校における ICT 環境の整備状況、教員の ICT 活用指導力が共に向上していることが分かった。この結果は、まぎれもなく GIGA スクール構想を起因とした教育の情報化が進展している状況にあることを意味している。GIGA スクール構想が発案された当時を振り返れば、先進国を中心に世界各国で教育の ICT 化が進む一方で、日本では ICT 機器を活用した教育が一般的とはいえない状況にあった。

テクノロジーが加速度的に進化し、AI や IoT などを積極的に使用する新たな時代を生きていく子どもたちに必要なのは、従来の知識を詰め込むだけの教育ではなく、創造性や論理的思考力を醸成する教育にあると言える。令和4年度は教育用コンピュータが整備され、本格的な活用のフェイズに移行し「活用元年」とも言われる中で、次世代の人材を持続的に育成するという目標に向け、学校教育の情報化を更に推進していく必要性が高まっていくだろう。

株式会社エデュテクノロジーでは、学校教育における学習用端末を含めたICT機器の環境デザインやICT機器の有効な活用マニュアル等のハード設計から、ICTの強みを活かした授業デザイン等のソフトウエア設計までトータルに支援する ICT コンサルティング事業を提供している。株式会社エデュテクノロジーは、長年培った経験とノウハウで、これからも「 ICT や情報・教育データの利活用」に向けた学校、教育委員会へのサポートを行っていきたいと考えている。


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