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教員免許更新制廃止。今後、教員の資質向上はどのように図られていくのか

教員免許更新制は、その時々で教員として必要な資質能力が保持されるよう、定期的に最新の知識技能を身に付け、教員が自信と誇りを持って教壇に立ち、社会の尊敬と信頼を得ることを目指すものとして平成21年4月1日から導入されていた。この制度によって、教員はこれまで、大学などが開設する 30 時間以上の更新講習を受講・修了した後、免許管理者である各都道府県の教育委員会に申請する必要があった。

この教員免許更新制は2022 年 7 月 1 日、「教育公務員特例法及び教育職員免許法の一部を改正する法律」の施行によって廃止された。これにより施行日時点で有効な免許状は更新講習等含めた手続きをすることなく無期限の免許状となったのである。

教員免許更新制の廃止とともに注目されているものが、教員の資質向上の担保である。そこで本記事では、文部科学省で開催された、中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第 7 回)・ 基本問題小委員会(第 7 回)・初等中等教育分科会教員養成部会(第 130 回)合同会議での資料を基に、教員の資質向上に必要な「主体的かつ対話的で深い学び」についてまとめていきたい。

引用元:【資料3-1】令和の日本型学校教育を担う教師の在り方特別部会における審議経過報告(素案)概要

教員の資質向上に必要な学びについてまとめる前に、「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(以下、特別部会)において議論されている「実現すべき教師の姿」について整理しておきたい。「『令和の日本型学校教育』を担う教師の養成・採用・研修等の在り方について」の素案では、実現すべき教師の姿を次のように示している。

「令和の日本型学校教育」を担う教師の姿

・環境の変化を前向きに受け止め、教職生涯を通じて学び続けている
・子供一人一人の学びを最大限に引き出す役割を果たしている
・子供の主体的な学びを支援する伴走者としての能力も備えている
・教師が創造的で魅力ある仕事であることが再認識され、教師自身も志気を高め、誇りを持って働くことができる
・新たな教師の学び(主体的な姿勢、継続的・個別最適・協働的な学び)

今回の教員免許更新制の発展的解消は、主体的かつ対話的な「新たな教師の学び」を実現する体制構築の一環とされている。特別部会では、教員免許更新制の廃止などの制度改正により「新たな教師の学び」の実現に向けた仕組みは構築できたが、体制整備は未だ整っていないという課題が共有されている。

では、「新たな教師の学び」の実現に向けて、具体的にどのような体制整備が必要なのだろうか。特別部会では、具体的な体制整備策として次の 2 点について検討を進めている。

1)公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針の改正

2)研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン(仮称)の策定

引用元:【資料1-1】公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針改正案のポイント

まず、「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針の改正案(以下、改正案)のポイント」について整理していきたい。
改正案の基本的な考え方は次の 5 項目である。

・研修履歴を活用した資質向上に関する指導助言等
・多様な内容方法による資質向上
・「現場の経験」を重視した学び(校内研修・授業研究等)と校外研修の最適な組合せ
・対面・集合型研修、同時双方向型オンライン研修、オンデマンド型研修の適切な組合せ
・研修成果の確認方法の明確化

改正案ではこれらの考え方に沿って、日常的な校内研修等の充実や研修内容が適時見直される仕組みの整備、研修の精選・重点化などを実現するとしている。

改正案 1 つ目のポイントの「研修履歴を活用した資質向上に関する指導助言等」については、「新たな教師の学び」の実現に向けた具体的な体制整備のひとつである「研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン(仮称)の策定」により、別途具体的に定められる予定である。このガイドラインでは、研修履歴の記録の範囲や内容、方法、時期についてだけでなく、研修受講に課題のある教員への対応や、指導に課題のある教員に対する研修等についても定められることとなっている。

改正案では基本的な考え方のほか、次の 3 つの視点を踏まえる必要があるとも示されている。

  • 教師一人一人の資質の向上に関する視点

  • 学校組織・教職員集団として発揮すべき組織力の視点

  • 社会や学校を取り巻く状況変化の視点

特に社会・経済のグローバル化や少子高齢化の進展、人工知能に関する研究の進化等、社会の急激な変化に対し、3 つ目に掲げられている「社会や学校を取り巻く状況変化の視点」が重要視されている。こうした記述からも、これからの学校教育を担う教員は、変化し続ける社会や学校現場からの要請に的確に応えられる資質が求められているということが分かる。

引用元:中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会(第3回)・教員免許更新制小委員会(第4回)合同会議 資料2_教師に求められる資質能力の再整理について p17

改正案ではさらに、「教師に共通的に求められる資質能力」を次の 5 つの柱に整理し、構造化している。

①教職に必要な素養
②学習指導
③生徒指導
④特別な配慮や支援を必要とする子供への対応
⑤ICT や情報・教育データの利活用

①教職に必要な素養は、まさに教員に求められる資質能力の基盤である。倫理観や使命感、総合的な人間性など、教職を担うに当たって必要となる素養は、当然のことながら「教師に共通的に求められる資質能力」と言える。

②学習指導及び③生徒指導は、主たる教育活動であり、「教師に共通的に求められる資質能力」の柱に位置づけられる。予測困難な社会を生きていくために必要とされる力を養う「主体的・対話的で深い学び」等の新たな学びや情報モラル等の道徳的な教育は、これまでも、そしてこれからの教育においても、教員に欠かすことの出来ない重要な資質能力である。

④特別な配慮や支援を必要とする子供への対応、⑤ ICT や情報・教育データの利活用は、②学習指導及び③生徒指導に含まれる内容であるにも関わらず「教師に共通的に求められる資質能力」として別に示されているのは、「令和の日本型学校教育」の実現に向け必要不可欠な資質能力であるからと言える。

⑤ ICT や情報・教育データの利活用は、②学習指導や③生徒指導、④特別な配慮や支援を必要とする子供への対応をより効果的に行うための手段として位置づけられている。つまり、 「ICT や情報・教育データの利活用という資質能力」は、「教師に共通的に求められる資質能力」である 5 つの柱のうち、 3 つの柱を最大限に発揮する役割を担っているのである。教育におけるICT及び教育データの利活用については、GIGA スクール構想をはじめとした教育現場の ICT 化が急速に進んでいる中で「令和の日本型学校教育」の実現をはじめとする教育DXに必要不可欠であるといえる。


以上のことから、教員免許更新制の廃止に伴う教員の資質向上に必要な学びについてまとめると、以下の通りである。

○ 教員の資質向上に必要な学びとは、「令和の日本型学校教育」を担うための「新たな教師の学び(主体的な姿勢、継続的・個別最適・協働的な学び)」である。

○ 教員免許更新制の発展的解消は主体的かつ対話的な「新たな教師の学び」を実現する体制構築の一環である。

○「新たな教師の学び」の実現に向けた具体的な体制整備は未だ整っておらず、次の 2 点について検討を行っている。
 ① 公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針の改正
 ② 研修履歴を活用した対話に基づく受講奨励に関するガイドライン(仮称)の策定

○ 公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針の改正案では、 5 つの「教師に求められる資質能力」を柱としている。
 ① 教職に必要な素養
 ② 学習指導
 ③ 生徒指導
 ④ 特別な配慮や支援を必要とする子供への対応
 ⑤ ICT や情報・教育データの利活用

教員の資質向上に必要な学びは、「令和の日本型学校教育」を担うための「新たな教師の学び」の実現に向けた体制整備のひとつである「公立の小学校等の校長及び教員としての資質の向上に関する指標の策定に関する指針の改正」によって示されつつある。しかし、「新たな教師の学び」の実現に向けた体制整備は未だ整っていない状況だ。

今回開催された、中央教育審議会「令和の日本型学校教育」を担う教師の在り方特別部会、基本問題小委員会、初等中等教育分科会教員養成部会での議論は今後も継続されていくと考えられるが、教員免許更新制が廃止され、今後どのように教員の資質向上を保持していくのか引き続き注視していきたい。

株式会社エデュテクノロジーでは、一人一台 GIGAスクールの実現に向けて、入札準備から運用支援、環境デザイン・授業デザイン、 マニュアル設計までトータルに支援する ICT コンサルティング事業を提供している。これは、民間業者も含めた運用体制の最適化や先駆事例の情報提供など、長年の経験とノウハウで  ICT を推進するサービスである。株式会社エデュテクノロジーでは、教師に求められる資質能力のひとつである「 ICT や情報・教育データの利活用」に向けた学校、教育委員会へのサポートを今後も行っていきたいと考えている。

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