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GIGA スクール構想をベースにした「 教育の情報化 」その実現に向けた方策と議論のいま(前編)

令和4年1月に文部科学省が公開した「 教師不足に関する実態調査 」において明らかとなった深刻な教員のなり手不足は、近年クローズアップされている教員の長時間労働が起因していると言っても過言ではない。

学校では GIGA スクール構想によって、これまで以上に ICT 化が進展している。新型コロナウイルス感染症拡大によって ICT 化が進んだ企業においては、業務の自動化や業務量の削減等、業務の効率化が実現されていることを耳にするが、こうした観点から考えれば、学校における ICT 化は教育 DX・教員の働き方改革につながる校務の効率化が図られていてもおかしくはない。しかし、変化の著しい現代社会において、学校は多様化・複雑化した教育課題に迅速かつ的確に対応しなければならず、これまで以上に教員の負担が増えてきている状況にある。

教育環境の ICT 化を含めた教育の情報化が、教員に、そして学校に何をもたらし、実現していくのか。そして、現在学校教育が抱える課題を解決に導けるのか。「 その方策と議論のいま 」を前編・後編の 2 回に分けて考察していく。

参考:「教師不足に関する実態調査」(令和4年1月31日)

教員の勤務時間の実態


前述のとおり、教員、そして学校は、多様化・複雑化した教育課題に迅速かつ的確に対応することが求められ、その結果長時間勤務を余儀なくされている実態にある。こうした状況は、OECD 加盟国等 48 か国・地域が参加した国際教員指導環境調査「 TALIS  2018 」※においても明らかとなっている。

下記資料左側に注目いただきたい。調査参加国と比較して課外活動・事務業務・授業計画準備に割く時間を要し、その結果、1週間当たりの仕事時間が長くなっているものと推察できる。授業時間については調査参加国とほぼ同じであることからも、授業以外の業務が教員の長時間勤務の大きな要因であることが分かる。

出典:『 GIGA スクール構想の下での校務の情報化の現状について』令和 3 年 12 月 初等中等教育局 学校デジタル化プロジェクトチーム( P2 )

※国際教員指導環境調査「 TALIS 」:経済協力開発機構による学校と教員に関する国際調査。2008 年に第一回調査、2013 年に第 2 回調査、2018 年に第 3 回調査が実施され、日本は第二回から参加している。「 TALIS 2018 」に関する調査報告は、国立教育政策研究所 HPにて確認ください。

また、この資料は教員の仕事時間とともに、学校における教育の情報化が進展していない状況がはっきりと現れている。資料右側をご覧いただきたい。「 TALIS 2018 」の調査時期が GIGA スクール構想以前であり、学習環境が十分に整っていないことも要因として考えられるが、「児童生徒に課題や学級での活動に ICT を活用させる」の質問項目が、調査参加国と比較して著しく低い値を示していることが分かる。平成23年4月に公表された「教育の情報化ビジョン」をはじめ、これまで学校教育の ICT 化・情報化を推進してきたが、この調査結果が物語るように文部科学省が描いてきた「教育の情報化」は、少なくとも「 TALIS 2018 」の調査時点では実現できていない状況にある。

教育の情報化


ここで「教育の情報化」について、改めて先述した「教育の情報化ビジョン」を参考に確認しておきたい。「教育の情報化ビジョン」では、子どもたちの情報活用能力の育成や ICT を効果的に活用した教育活動といった「 学び手・学習を主体とした情報化 」と、ICTを活用することによる校務負担軽減等の「 教員・校務を主体とした情報化 」に大別している。この2つの視点を基準としながら、ICT の活用主体が誰であるのか、そして、どういった活動に用いられているかを正確に把握し、適切な支援や対応策を検討・実施していくことが、これからの学校教育に求められる「 教育の情報化 」を実現することにつながる。

では、GIGA スクール構想で構築された教育環境、更には今年度で高校までの実施が完了した学習指導要領に適した「 教育の情報化 」に向けた手立てとはどのようなものか、その具体について考えていきたい。まず前編では、「 学び手・学習を主体とした情報化 」について見ていく。

学び手・学習を主体とした情報化


GIGA スクール構想で実現された一人一台端末環境は、学びの場を限定せず、学び手個々の学習到達度に応じた学習機会をもたらした。今年度は、学習用端末活用元年とも言われている中で、これまでの日本の経済成長を支えてきた一斉講義型の学習スタイルとは異なる授業手法を取り入れていくことの難しさを感じられているがゆえに、「 学び手・学習を主体とした情報化 」が思うように進展されていない状況もあるのではないだろうか。

GIGA スクール構想で構築された一人一台環境を基軸とした新たな学びを支援するものとして文部科学省が提供するStuDX Styleがある。このサイトは、一人一台端末の活用方法に関する優良事例や本格始動に向けた対応事例等の情報発信・共有を目的としており、各自治体が導入した端末(OS)における「学び手・学習を主体とした情報化」に向けた取組を検討する上で参考とされたい。

出典:『【参考資料】StuDXStyle とApple社、Google社、Microsoft社が連携』文部科学省

また、これからの学びにおいて重要な役割を担う教科横断型・探究的な学びを支援するコンテンツである「 STEAM ライブラリー(経済産業省)を活用していくことも「学び手・学習を主体とした情報化」の進展に寄与するものと考える。

STEAM ライブラリー(経済産業省)


教育データ利活用と個別最適な学び


文部科学省、経済産業省が提供している内容は、GIGA スクール構想の下における今現在の教育環境での「 学び手・学習を主体とした情報化 」を進展させるものである。今後、現状の教育環境の強みを更に活かした個別最適な学びが、学校における当たり前の光景となることが想定される中で、教育データ利活用について活発な議論が交わされている。

教育データ利活用に関する議論の詳細は別稿にて紹介するとして、本年1月にデジタル庁から示された「 教育データ利活用ロードマップ(令和 4 年 1 月 7 日デジタル庁、総務省、文科省、経産省)に関する Q&A 」から、個別最適な学びに必要となる子供たちの学びの可視化のイメージを確認したい。

これまで子供たち一人一人のあらゆるデータは、紙媒体であったり、電子データであったりと内容によって、また、そのデータが持つ重要度によっても保存先が異なっていた。こうした個人に紐づく様々なデータを一目で確認することは、児童生徒個々の現状把握が用意につながるとともに、これからの学びにおいては、必要不可欠であるといえる。今後の展開も注視したい学習e ポータルも含め、児童生徒個々の学習進度を一元管理するダッシュボードが、全国の学びの場に導入される日も近いかもしれない。

参照:『教育データ利活用ロードマップ(令和4年1月7日デジタル庁、総務省、文科省、経産省)に関する Q&A 』文部科学省( P4 )


後編では「 教員・校務を主体とした情報化 」について詳しく考察していきたい。
後編はこちら


株式会社エデュテクノロジー (https://www.edutechnology.co.jp/ )では、自治体や教育委員会、学校、先生向けに「 ICT 環境デザイン」や「授業デザイン」、「マニュアル設計」に関するコンサルテーションを提供している。GIGA スクール構想における校務の ICT 化についても、「 働き方改革 」「 ICT を活用した業務・校務の効率化 」をキーワードに、既存のフローをヒアリングしながら状況を分析し、現状に適した個別最適化された支援を引き続き行っていきたいと考えている。

株式会社エデュテクノロジー


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