【特別対談:HIEN代表×イークラウド代表】国産eVTOL(空飛ぶクルマ)開発に懸ける想いとは
世界各国で次世代エアモビリティ「eVTOL」(空飛ぶクルマ)の開発が進んでいます。そこに国産にこだわり、主流である純電動とは異なるガスタービンハイブリッドで挑むスタートアップがあります。それが現在、株式投資型クラウドファンディングを実施中のHIEN Aero Technologiesです。
7月23日(火)には3回目となる事業説明会を実施し、イークラウド代表の波多江が業界トレンドからHIEN社が開発を進める機体、日本の航空産業に懸ける想いまでじっくりお話を伺いました。本稿では、その内容を一部抜粋・編集して紹介します。
eVTOL(空飛ぶクルマ)の現在地、そしてHIEN社の戦略とは
波多江:今日は東小金井のオフィスまで来させていただきまして、投資家目線で質問していきたいと思います。よろしくお願いします。
HIEN創業の経緯は、ヘリコプターの電動化
波多江:HIEN社は代表の御法川さん、CTOの谷津田さん、チーフエンジニアの高橋さんが中心メンバーとのことで、高橋さんは御法川さんの教え子と伺っていますが、御法川さんと谷津田さんはどのような経緯でチームを組まれたのでしょうか?
御法川:3年ほど前、ヘリコプターを電動化すればエアモビリティが実現できるのではないかと考え、純電動ヘリの開発プロジェクトを行いました。そのとき主体的に開発してくれていたのが谷津田でした。
ヘリは浮上に成功しましたが、重さ200kg以上のバッテリーを積んでいたので飛行時間はギリギリ10分でした。事前に計算で分かっていたとはいえ、実際にやってみて実用化は厳しいと痛感しました。
お互い実用的なものをつくるならハイブリッドeVTOLだろうと考え、意気投合して創業したのがHIEN Aero Technologiesです。
波多江:なるほど、そういう出会いだったんですね。今日は実機がありますので、ご紹介いただきたいです。
御法川:こちらは我々が最初に開発している100kgの大型ドローンで、「Dr-One」(ディーアールワン)と呼んでいます。幅が5m、長さが3mぐらいの大きさで、翼の下に2機のガスタービン発電機を積んでいます。
その発電機で発電し、浮上するためのプロペラや推進用のファンを回しています。機体設計は私が担当し、谷津田が中のパワーエレクトロニクスをまとめています。
教授を兼ねる御法川氏。事業に専念せず大丈夫なのか
波多江:御法川さんのご経歴を見ると研究所の所長や官民協議会のメンバー、そして大学で教鞭も執られているようですが、「事業に専念しなくて大丈夫なのか」と思う方もいそうです。
御法川:非常に的を射た質問だと思います。この会社に対するメンバーのエフォートは気にされるところだと思いますが、会社が大きくなれば専念するステージになると考えています。ただ、現時点ではアカデミアの分野と産業の分野の両軸を持つことにメリットが多いステージだと考えています。
具体的には、アカデミアの立場から産業全体や基礎研究を見ていくことができます。またeVTOLの世界はルールメイキングが発展段階ということで、アカデミアの立場でeVTOLがどうあるべきかの議論に参加していけるというのも重要だと考えています。
谷津田:実際、御法川が大学教授をやっていることで、知識を求めていろいろな方がつながりを持とうとしてくれています。我々としてもありがたい話ですし、大学生との接点があることで若い人の柔軟な考え方を取り入れていけるのも非常に大きな価値になっています。
御法川:深く研究したいテーマが出てくれば、学生と一緒に進める機会も出てくるかもしれませんね。
谷津田:我々は専門家として高い経験値を持っていますが、それ故に視野が狭くなってしまうことがあります。そんなときに若い人たちの一言が我々をハッとさせることもあり、とても価値のある気付きを与えてもらっていると思います。
波多江:なるほど、納得しました。
空飛ぶ“クルマ”という言葉が生んだ誤解
波多江:今後、会社のステージが変わっていく中で経営幹部としてどういった方が必要になると考えていますか?
御法川:現在の我々はエンジニア中心の会社になっていますので、やはりマーケティングや財務面を補強していかなければいけないと考えています。それと発信力、広報力も強化していかなければいけません。
特に我々は航空機目線でeVTOLを開発しているわけですが、日本ではどうしても「空飛ぶクルマ」という言葉から来る先入観のようなものがあります。「車」という言葉が1人歩きしてしまい「車なんだから地面を走るものだろう」とか「タイヤがついてるんだろう」とか、そういうイメージを持たれる方が少なくありません。
そこは日本のマーケットが「エアモビリティとしてどうあるべきなのか」という視点を理解してもらわねばないと思っていますし、我々も活動を通じて正しい認識を持っていただけるよう訴えていきたいと考えています。
波多江:なるほど、期待値コントロールは重要ですね。
eVTOL(空飛ぶクルマ)の“現在地”は
波多江:eVTOLの業界全体についても教えていただきたいです。世界ではアメリカや中国で、「どこどこ社は何km飛んだ」といった話も耳にします。実際どういう状況なのか教えてください。
御法川:業界全体ですと、世界のトップランナーが4社ぐらいあります。だいたい2018年ぐらいから本格的な開発を始めて、1機目が「耐空証明」という国から飛んでもいいという許可をもらいつつある段階になっています。
次は「型式証明」という量産のための許可を取っていく段階になるのですが、これがだいたい3年から4年、早くても2年くらいはかかると思います。つまりサービスインまであと2、3年はかかるはずです。
それがトップランナーの話ですから、第2、第3と続いて普及していくのは、だいたい2030年を超えたぐらいだろうと考えています。日本国内ではまだ試作機で「耐空証明」が確実なものにはなっていない状況ですから、世界から見るとやや遅れています。
そういう意味では当社が「遅きに失しているのではないか」ということは決してなく、まだまだキャッチアップしていけると考えています。我々に限らず、これからも日本発のスタートアップが出てくることは大切なことだと思います。
また、部品類のコモディティ化が進むと価格が下がっていくというメリットもあります。後追いをしたほうがそういったものを上手に取り込める可能性があり、トップランナーでいるより確実に段階を経ていくほうが、ビジネス的には良いという考えもできると思います。
波多江:テレビのニュースで「海外では何km飛んだ」といった話を目にする機会もありますが、実際どれくらいの距離が飛行可能になってきているのでしょうか?
御法川:時々メディアで試験飛行の話は出ていますが、実際は5分とか10分の世界です。一部のトップランナーで燃料電池を積んで遠くまで飛ばした話もありますが、それがそのままサービスインできるわけではありません。各社まだまだこれからだと思います。
HIEN社の描くマイルストーン
波多江:HIEN社は2030年頃の完成を目指す6人乗りeVTOL「HIEN 6」に関して、どのようなマイルストーンを描いているのでしょうか。
御法川:我々はベストスピードで2028年ぐらいに「HIEN 6」の1号機のようなものをお見せしたいと考えています。そして2030年の前後で、ほぼ市販化できるような完成度にする計画です。実際のサービスインは2032年頃を目指しています。
波多江:日本でのスタートアップに対する資金供給は海外に比べてまだまだ少ないと思いますが、HIEN社としてそういった環境の中でどうやって勝ち進んでいくお考えでしょうか。
御法川:最初は「Dr-One」のような無人機で実績を積み、だんだんと技術を蓄積していきます。次の機体に生かせるということを示しながら、資金調達も段階的にしていきたいと考えています。6人乗りとなると海外勢に匹敵するような開発資金が必要になりますので、そこへ向けた実績となる技術力を示していきたいと考えています。
波多江:HIEN社にとってコアになるのがガスタービンだと思うのですが、例えば電池の技術革新があってガスタービンがいらなくなる可能性についてはどうお考えでしょうか。
御法川:おっしゃるとおり、電池の容量が数倍になるなど何かブレイクスルーが起きて実用レベルに達したとなれば、我々としても純電動で開発していくことは想定しています。実際、それができる設計で機体をつくっています。ただ、現実には相当な時間がかかると思います。
例えばいま1番良くできているリチウムイオン電池の重さあたりのエネルギーは、石油の約40分の1しかありません。石油の重さに対して電池は40倍の重さが必要になるということです。ですから我々は現実的な方式としてガスタービンを選びました。
波多江:電池と石油以外に選択肢はありますか?
御法川:水素燃料電池があります。ただ貯蔵の難しさ、供給の難しさがあるのと、水素は気体ですからエネルギーの体積密度が石油の1/3000程度しかありません。液体水素という方法もありますが、それはロケットで使うような技術ですので、かなり難易度が上がります。また、機体が大きくなればなるほど問題や性能の差は顕著になっていきます。僕らは当面、石油燃料に分があると考えています。
HIEN社のこれから。国産開発に懸ける想い
波多江:今後の開発計画について教えてください。
御法川:「Dr-One」は100kgの大型無人機ですが、このレベルのものは日本ではまだあまり飛んでおらず、これからの技術になります。そのため長距離の物流や監視任務といったところにニーズがあり、官庁関係からも注目していただいています。まずは、2026〜28年あたりで大型無人機に実用性があることを示していきます。
その間に6人乗りの開発も進めていくわけですが、ベースとして「HIEN 2」という2人乗りのガスタービンハイブリッドeVTOLを開発、提案していきます。こちらを飛ばすことができれば、「HIEN 6」の提案もしやすくなると考えています。
そこまでには時間がかかりますので、我々は別事業としてすでにガスタービンを使って市販化されている海外製のヘリコプター型ドローンなどを販売していく代理業も手掛けていきます。
波多江:HIEN社の機体と競合しないのでしょうか?
御法川:そこはアライアンスでしっかり棲み分けています。例えばヘリコプター型ドローンは浮上する力が強く、重いものを長く運ぶことができるのが特徴です。デメリットとして、スピードがあまり出ません。
一方、我々の飛行機型はかなり速いスピードが出ますので、速達性とか広範囲のミッションに向いています。そういったところでニーズに対する棲み分けができると考えています。
オールジャパンで新たな航空産業をつくる
波多江:自社のプロダクトについてはパートナー企業とともに開発を進めているそうですが、どういった方針で進めているのでしょうか。
御法川:発電機のパーツやものづくりの要素技術など、興味のある国内の企業さんと技術提携を組んで「一緒にやっていきましょう」「一緒に小さな飛行機をつくって勉強していきましょう」「盛り上げていきましょう」と話しています。「僕らから得られた知見はどんどん他の技術や他のeVTOLに使っていただいてかまいませんよ」というくらいの姿勢でやっています。
谷津田:技術的な課題を解決するのに国内の部品メーカーさんと一緒に進めていくのですが、部品メーカーさんにはその知見を自社製品に生かして世界に売っていただきたいと考えています。そうすることで国内にeVTOLという新たな産業のクラスターができます。我々は全員で世界に打って出るというふうにしたいと思っています。
波多江:なるほど、産業全体の成長がまだまだ必要な領域ですから閉じすぎず、巻き込みながら仲間を増やしていきたいということですね。
谷津田:僕らは試験内容をYouTubeでも公開してオープンにしていますので、クラスターの中で隠すつもりはありません。むしろ国内メーカーさんがどんどん入ってきてくれることを期待しています。
航空産業に対する誤解を壊し、盛り上げていく
波多江:各社6人乗りのような大型eVTOLを飛ばそうとされている中で、HIEN社が段階的な開発にこだわって進めているのは少しユニークだと感じたのですが、この辺りの考えに至った経緯はありますか?。
御法川:海外の航空機開発、eVTOL開発はまとまった資金がいきなり入り、そこに専門家が集まって進めるスキームが多いです。しかし、サービスインするまでに何年も、ヘタをすると10年近く1円も儲からない状態を耐え続けなければいけません。先に予約受注を取って耐えていくこともありますが、日本にそういう文化はありません。
飛行機開発は大きな会社があってそこにTire1、Tire2がぶら下がり、言われた部品をつくって上納するのがいわゆる飛行機のものづくり、航空産業だと考えられてきました。僕らはそこを壊していきたいと考えています。「そうじゃないんだ」と。「小さな飛行機はつくれるんですよ」と。
その時に何が必要かというと、小さな飛行機をまとめるための知見と技術ですね。集まってくる人たちの水平な技術共有がいるんです。みんなが技術を共有して、同じ立場で物を言えるような形にしていかないと、まとめることはできないと思います。
それをやることによって競争力を持ちますので、メーカーや部品屋さんが海外へ打って出られるくらいに、飛行機の業界を盛り上げていきたいと考えています。
国産eVTOL(空飛ぶクルマ)開発に懸ける想い
波多江:最後に、HIEN社をどのような会社にしていきたいと皆さん思っているか、教えてください。
御法川:日本の中に、小さな飛行機でいいですから自分たちでつくって飛ばせる、自信を持って「日本の飛行機ってこんなに良いんだよ」と言えるフィールドを作りたいです。そのために若者を育てなければいけないし、いろいろな人たちを巻き込んでいかなければいけない。
僕は欧米の小さな飛行機会社をたくさん見てきましたが、そういうところには飛行機をどうやってつくるかということがわかっている人たちがいて、手作業に近いところで飛行機をつくっています。そういう文化を日本で育てていかないといけない。eVTOLはそういうきっかけづくりにもなると思います。
日本は電気も得意ですしメカも得意です。ものづくりは得意ですから、僕らが真ん中に立って、いろんな人たちを巻き込んでいきたいというのが目標です。
高橋:僕は御法川と谷津田の考えを正しく受け継いで、それを正しく後世に残していくというのが自分の役割だと考えています、2人がやっていることをしっかり見て、考え方を学び、若者の声を取り入れ、それをうまくまとめて正しく後輩につなげていく。2人が言ってたように、クラスターをしっかりつくっていきたいし、文化をつくってより大きく国内で発展させていきたいと考えています。
谷津田:私の田舎は過疎化が進み、タクシーすら走っていないみたいなところです。日本はもうちょっと空を身近に使わないと厳しい。いつまでも税金を使って道路や鉄道をつくればいいという国ではもうないと思うんです。
人口が減っていく中でもちゃんと生産性を維持して、田舎であっても利便性を落とさないで生きていくやり方をきちんと考え、世界に示すことが必要だと思います。 我々は諦めずに最後まで突き進んでいきます。
波多江:それぞれ熱いコメントを多様な視点で頂いて、すごくHIEN社の理解が深まったと思います。今日聞いていただいてHIEN社に興味を持っていただいた方は、SNSで情報拡散をするだけでも大きな力になります。ぜひ応援いただけると嬉しいです。よろしくお願いします。
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