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【小説風エッセイ】夫婦〜手当てをありがとう、夫〜[家族親族](909文字)

私の希望で、大きくて厚みがあって重い、我が家のまな板。

安定性があって、食材をたくさん置けて、包丁の当たる音も綺麗で、乾くのも早くて、とても使いやすい、自慢のまな板なのですが。

のどかな休日の、午前10時頃。

私は、遅い朝食の仕度に使った後に、そのまな板に付いている取っ手の部分を念入りに拭いていました。

すると、ふとした拍子に、まな板が滑って落ちました。

いつも台所仕事の時にはスリッパを履いているのに、その時は、たまたま履いていませんでした。

まな板が素足を直撃。

右足の、親指の下のあたり。

思わず悲鳴をあげました、
「痛い!」。

これは腫れるかなと思いました。

直後に、まだ寝床で眠っていたはずの夫が部屋から勢いよく出てきて、室内物干しスタンドに激突しました。

こちらは右手の親指のつけ根を負傷。

「大丈夫?」
と私。
「痛かったでしょう」。

でも、
夫はそれには答えずに、
「どうした?」
と心配でいっぱいというふうに私に聴いてくれました。

私が答えると、自分のほうをそっちのけで、私の足の打撲の手当てをしてくれました。

たまたま湿布がなかったので、2枚の濡れタオルを交代で冷凍庫で冷やしながら、それで足を冷やしてくれました。

「何とも…、実はですね」
と私は説明し始めました。

毎朝行う筋トレの後に台所仕事をしていたこと。

鍋を火にかけていたから、コンロ前にいると、とても暑かったこと。

汗がダラダラ出てきて、頭がボーッとしていたこと。

夫はややホッとした表情で、
「指を包丁で切ったのかと思ったよ」
と言いました。

夫は、スーパーマンのように、私の危機を救いに来てくれて、寝ぼけていたので、目測を誤って、室内物干しスタンドに激突してしまったようです。

なるほど、そうか、びっくりさせてごめんね。

そして。

どうもありがとう、とても嬉しい、でもケガしないでね、ケガを早く治してね。

夫の想いが伝わってきて、じんわり、痛みも和らぎました。

その後、夫は湿布を買ってきてくれて、一枚を私の打撲の部分に、もう一枚を夫の打撲の部分に貼りました。

私のほうは幸い、夫の処置が適切で、患部は腫れませんでした。

その湿布を貼ってくれたところを感じるたびに、夫に感謝が沸き上がってきた半日でした。


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