マガジンのカバー画像

読書熊録

351
素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
運営しているクリエイター

2023年10月の記事一覧

日進月歩で解明される脳ーミニ読書感想『できない脳ほど自信過剰』(池谷裕二さん)

日進月歩で解明される脳ーミニ読書感想『できない脳ほど自信過剰』(池谷裕二さん)

脳科学者・池谷裕二さんの『できない脳ほど自信過剰』(朝日新聞出版、2017年5月30日初版)が面白かったです。『週刊朝日』の連載エッセイをまとめた論考集の第二弾。アラカルト的に、どこからでも楽しめる一冊です。それぞれの掌編は最新の科学論文を題材にしている。脳に関する謎の解明は、日進月歩で進んでいるんだと実感できます。

どこからでも読めるし、人によって学べるパートは異なります。たとえば「我慢すると

もっとみる
許さなくていいーミニ読書感想『毒になる親』(スーザン・フォワードさん)

許さなくていいーミニ読書感想『毒になる親』(スーザン・フォワードさん)

いわゆる「毒親」の原典にあたる、スーザン・フォワードさんの『毒になる親』(講談社プラスアルファ文庫、2001年10月20日初版、玉木悟さん訳)が勉強になりました。一番目を引いたのは、「毒親を許す必要はない」と指摘した部分でした。

回復は許すことから始まる。定型句として語られるこのテーゼに、著者は異論を唱えます。

原著が出版されたのは1989年。しかし、ここで語られていることは古びていません。

もっとみる
光ある道でなくともーミニ読書感想『ラウリ・クースクを探して』(宮内悠介さん)

光ある道でなくともーミニ読書感想『ラウリ・クースクを探して』(宮内悠介さん)

宮内悠介さんの小説『ラウリ・クースクを探して』(朝日新聞出版、2023年8月30日初版発行)が最高の友情小説でした。ブラザー&シスターフッド。ソ連崩壊で揺れ動くエストニアを舞台にした本作。革命を主導する英雄ではなく、その革命に翻弄される「無名の人」を描いていて、同じく無名の人である読み手の私たちの胸を深く打ちます。

本書の魅力は、書き出しの1ページ目のこんな文章ににじんでいます。

表題の通り、

もっとみる
読むという奇跡ーミニ読書感想『プルーストとイカ』(メアリアン・ウルフさん)

読むという奇跡ーミニ読書感想『プルーストとイカ』(メアリアン・ウルフさん)

小児発達の研究者メアリアン・ウルフさんの『
プルーストとイカ』(小松淳子さん訳、インターシフト、2008年初版発行)が面白かったです。不思議で印象的なタイトル。読書の楽しみと奥深さを解くプルースト。それとはなんの関係もなく思えるイカ。それがつながる時、「読む」という行為がいかに奇跡であるか、見えてくる。

本書が特徴的なのは、ディスレクシア、いわゆる読字障害や学習障害についてもかなりの分量を割いて

もっとみる
逃げやすい社会にーミニ読書感想『発達障害は最強の武器である』(成毛眞さん)

逃げやすい社会にーミニ読書感想『発達障害は最強の武器である』(成毛眞さん)

元日本マイクロソフト社長で著述家の成毛眞さんの『発達障害は最強の武器である』(SB新書、2018年2月15日初版)が学びになりました。正式な診断は受けていないものの、ADHD傾向があると自己分析する成毛さん。ご自身の幼少期を振り返り、表題の発達障害傾向(気質)を武器にする方法をレクチャーしてくれています。

診断を受けていない、ということから分かる通り、著者の特性は社会生活が困難な程度ではありませ

もっとみる
見えない障害を持つ方に近づくためにーミニ読書感想『私の脳で起こったこと』(樋口直美さん)

見えない障害を持つ方に近づくためにーミニ読書感想『私の脳で起こったこと』(樋口直美さん)

レビー小体型認知症の当事者である樋口直美さんの『私の脳で起こったこと』(ちくま文庫、2022年1月10日初版発行)が勉強になりました。樋口さんが診断を受けた前後の時期の日記などをまとめたもの。生々しい感情、揺れる思いが記録されています。目に見えない障害を持つ人に対して、どのように接したらよいのか。ヒントを与えてくれました。

印象に残ったのは、この部分。

著者は、当初はうつ病だと誤診され、試行錯

もっとみる
2023年上半期に読めて良かった本8冊

2023年上半期に読めて良かった本8冊

2023年もあっという間に折り返し。上半期に「読めて良かった」と思える本をまとめました。

と、ここまで書いて続きを書けずにいましたが、書きあぐねていても時間ばかり過ぎるので、公開してみます。それぞれの本をなぜ選んだか、理由が欠けていますが、リンク先の記事を読んでいただければ少しは魅力を感じていただけるかも。

とにかく、この8冊はおすすめです。

①『シャギー・ベイン』

②『母親になって後悔し

もっとみる
イーロン・マスク氏に学ぶ特性のある人が善く生きるためのヒントーミニ読書感想『イーロン・マスク  上巻』(ウォルター・アイザックソンさん)

イーロン・マスク氏に学ぶ特性のある人が善く生きるためのヒントーミニ読書感想『イーロン・マスク 上巻』(ウォルター・アイザックソンさん)

スティーブ・ジョブズ氏の評伝を書いたことで知られるウォルター・アイザックソンさんの『イーロン・マスク』の上巻を読んでいます。この時点でむちゃくちゃ面白い。タイトル通り、電気自動車のリーディングカンパニー・テスラ、民間ロケットの草分けSpaceXなど、革新的スタートアップをいくつも立ち上げてきたマスク氏の公式評伝。訳は井口耕二さん。文藝春秋、2023年9月10日初版発行。

私が本書をいち早く読みた

もっとみる