日進月歩で解明される脳ーミニ読書感想『できない脳ほど自信過剰』(池谷裕二さん)
脳科学者・池谷裕二さんの『できない脳ほど自信過剰』(朝日新聞出版、2017年5月30日初版)が面白かったです。『週刊朝日』の連載エッセイをまとめた論考集の第二弾。アラカルト的に、どこからでも楽しめる一冊です。それぞれの掌編は最新の科学論文を題材にしている。脳に関する謎の解明は、日進月歩で進んでいるんだと実感できます。
どこからでも読めるし、人によって学べるパートは異なります。たとえば「我慢すると忍耐力が下がる」。「自我消耗」という概念を学びました。
これは本書には書かれていませんが、発達障害の疑いがある我が子を見ていると、発達障害は認知のズレやクセが強いことで、この自我消耗を起こしやすいのではないかと感じます。いわゆる「普通」と異なることで、あるいは自分の衝動性を抑えるために、精神力の消耗が激しいと感じる。
「内部動機」と「手段的動機」も面白かった。「『好きだから』が一番!」の章。イェール大学のウルゼスニフスキー教授は、いわゆる外発的動機を手段的動機と表現、定義したと言います。
発達障害の「こだわり」に目を向けると、それは内部動機に近いエネルギーを感じます。ある物事になにはともあれ強い感情を持つこだわりは、他人の目とか、他者評価とか、そういう手段的動機を誘引する要素には目もくれないパワーがある。
著者はこのように、一つの論文から溢れるような学びを引き出してくれる。この勢いがあれば、いつの日か、発達障害の全容が解明されるのではないか。それによって、脳の特性を活かす療育や教育の方法が編み出されるのではないか。そんな期待が広がる一冊でした。
万が一いただけたサポートは、本や本屋さんの収益に回るように活用したいと思います。