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読書熊録

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素敵な本に出会って得た学び、喜びを文章にまとめています
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2020年4月の記事一覧

現実直視眼ー読書感想#12「ソロモンの指環」

現実直視眼ー読書感想#12「ソロモンの指環」

動物行動学者コンラート・ローレンツさんのエッセイ「ソロモンの指環」が面白かったです。本書の学びは「動物はむちゃくちゃ合理的だ」ということ。ローレンツさんはどうやってその合理性を見抜いたかと言えば、ひたすら動物を観察した。「現実を直視する眼」が発見をもたらすことを本書は教えてくれます。

カラスは目玉を突かないが、小鳥は突く現実を直視する眼を持たずに動物の行動を考えると、「人間のイメージ」を押し付け

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道標になるー読書感想#11「疫病と世界史」

道標になるー読書感想#11「疫病と世界史」

ウィリアム・H・マクニールさん「疫病と世界史」(佐々木昭夫さん訳)が、今の世界を生きる上での道標にあふれていました。世界史を動かしてきたのは戦争や災害といった「マクロ」だけではない。感染症という「ミクロ」がローマ帝国を、中世ヨーロッパを劇的に変えた。そのことを見出すマクニールさんの知性に刺激を受けて、少しでも学び取りたいと感じました。

ミクロ寄生とマクロ寄生は相似するマクニールさんの思考の大枠は

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内なる焔を守るー読書感想#10「革命前夜」

内なる焔を守るー読書感想#10「革命前夜」

須賀しのぶさん「革命前夜」は勇気をもらえる小説でした。舞台は1989年初め、東ドイツ。音楽留学した日本人ピアニスト眞山は否応なく、当局の監視や、それに抗う人と交わっていく。歴史の先に立つ私たちは、数ヶ月後にはベルリンの壁が崩壊することを知っている。でも登場人物は知らない。いまが夜明け前の最も暗い瞬間だとは、知らない。それでも光を求めてもがく姿が、勇気をくれるのでした。

この暗さの中から音楽は生ま

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幸福になるために苦労を取り戻すー読書感想#9「わたしたちのウェルビーイングをつくあうために」

幸福になるために苦労を取り戻すー読書感想#9「わたしたちのウェルビーイングをつくあうために」

「わたしたちのウェルビーイングをつくりあうために」は、滋味深い本でした。病気など「悪い状態」は目に見えやすい。けど反対に、幸福な状態=ウェルビーイングとはどういう状態か、答えられる人はどれくらいいるだろう。本書は、テクノロジー、インターネット、コミュニティ、風土など、いろんな視点から「自分にとってウェルビーイングとは何か」を考えられる構成になっている。中でも、「苦労を取り戻す」という考え方が、自分

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今の人間だけが人間じゃないんだと「人間たちの話」を読んで思う(本の感想#8)

柞刈湯葉さんのSF短編集「人間たちの話」が勧めて回りたいほど面白かったです。収録6作品はいずれも、人間じゃない何かや、現代じゃないいつかの話。ある人間は地球外の生命体との交流が当たり前になった時代にラーメンを作り、ある人間は透明で誰にも見えない。荒唐無稽で、だけど「日常の匂い」がする。肩肘張らない世界観で、「今の自分たちだけが人間じゃないんだな」と気が楽になる。

実際、監視社会だったらこうかもな

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「シン・ニホン」には希望がある(本の感想#7)

「シン・ニホン」には希望がある(本の感想#7)

安宅和人さんの「シン・ニホン」は希望の本でした。希望とは、歴史から「勝ち筋」を分析し、未来へ向けて「打ち手」を繰り出すこと。「手を動かす」ことで未来が開かれていくこと。新しい景色へ、閉塞した現在の延長線ではない未来へ、灯火となってくれる一冊でした。

希望とは「勝ち筋」と「打ち手」何度も繰り返したい本書の核心は「希望とは歴史から勝ち筋を分析し、未来へ向けて打ち手を繰り出すこと」。希望とは何か、それ

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「次世代ガバメント」が視界をクリアにする(本の感想6)

「次世代ガバメント」が視界をクリアにする(本の感想6)

若林恵さん責任編集「次世代ガバメント 小さくて大きい政府のつくり方」が刺激的でした。若林さんの放つ言葉は視界をクリアにする。今回は「なぜいま行政機構が機能不全に陥っているのか」「じゃあどうしたらいいのか」という問いを、考えやすい形に言語化してくれる。

脱「生物歯車」政府、市町村、官僚機構がなければ、現代はこんなにも豊かになってはいない。でも今となっては、多様化する問題に対処しきれているようには思

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