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読書日記

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本を読んだ感想を交えた日記
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#茨木のり子

盾・剣・薬・毒・夏

盾・剣・薬・毒・夏

さて、なにから書き始めればいいのでしょうか。今は初夏。強くなり始めた日射しが、あらゆるものを彩度高く染め上げています。風は花の香りを含み、海は鼓動のように浪を高く打ったのです。

ことば、というものについて考えます。ことばは自身や自身の大切な人を守るための盾として用いられることもある一方、自身や他者を傷つけるためのナイフとして用いられることもある。とはよく言ったものですが、さて、詩の言葉とはどちら

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稲妻のような真実を

稲妻のような真実を

まっしろなワードの画面、またはノートブックを前にすると、期待と緊張でピリッとします。それは畏れにもちかい感覚で、いちめんの積雪を前にした朝のようでもあります。

書くということは、彫り出すことにも似ていると思います。新雪のかたまりを彫っていって、いずれ美しい像が顕れると信じ、不可能にも思える挑戦に手を伸ばす。言葉で語り尽くせる範囲など限られているかもしれないのに。

しかし、そうして彫り出したもの

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望み

 詩には、人間や世界というものがみせる、さまざまな姿が顕れているような気がします。信仰、熱狂、沈黙、恋、愛、死、生、怒り、陶酔、喜び、かなしみ……挙げていけばきりがありませんが、それらはおそらく世界を鏡写しにしたものでしょう。私は、ずいぶん詩に助けられてきました。そして私を支えている詩人は、すでに死者となって私をめぐります。私はそれらの懐かしく、また生々しい彼らの話をしたいと望んでいます。

 例

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