獨協大学文芸部

こんにちは。獨協大学文芸部です。年四回、部誌『獨協文学』を発行しています。2019年春…

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こんにちは。獨協大学文芸部です。年四回、部誌『獨協文学』を発行しています。2019年春号(No.124)~2020年春号(No.128)の作品をマガジンにまとめて公開しています。更新はTwitter(@dokkyobungei)にてお知らせします。

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最近の記事

SLUICEをすべるすべ/牛

SLUICEをすべるすべ 牛 【Ⅰ】涙橋(なみだばし)スルース  夏の終り、十月。  早朝、オレは巨大な橋の上を渡っていた。  全長700メートルもあるこの大橋の名前は「涙橋(なみだばし)」という。この涙橋は、オレの中学校がある小さな埋立地と陸とを結ぶ、唯一の道だ。  橋の上、車道の両脇に通った人間用の道を歩きながら、オレは考えごとをする。  うちの学校にはびこる暴力や、いじめ問題、それに、オレがバレー部を辞めさせられた理由について、などなど。  それらについて

    • 作者コメント

      上坂 紀乃 大阪旅行の記念作です。会話が難産でした 速水朋也 にげられない! ▽ 保須都 始まりも門出もできぬこの春に書いてみましたよろしくどうぞ

      • 光る春、二人の現色/保須都・速水朋也

        光る春、二人の現色 保須都・速水朋也 【起】保須都  西日が差し込む廊下を歩く。窓の外、校庭で練習をする野球部の声がここまで届く。暦の上ではもう春だけど、大昔に決められたカレンダーはもうあてにならないみたいだった。日の当たらない足元はとても冷たかった。  いつもなら家に帰る時間だけど、今日は特別。明日のための準備がある。大切な式典のために、手を貸してほしいと生徒会から呼び出しを受けた。随分前に引退した身としては、久しぶりにメンバーと再会できることがちょっと嬉しかった。

        • ふたりの国/速水朋也

          ふたりの国 速水朋也  ファンタの海を泳いでいる。溶けた二酸化炭素がしゅわしゅわはじける、透明な紫色。しんかのさせ方も知らずにくさむらを探し回ったゲンガーの色、はじめて小説を書いた日の、閉めそびれたカーテンを薄く通り抜けてラップトップに刺さった朝焼けの色。加奈子の舌が私の唇を割るとき、決まって目の前をゆるく染め上げるアルコールの色。動くたびに炭酸が浮き上がり、ぬるくなり、体がべたつく。海はじっとりと汗ばんだ手のひらに似ている。  お正月。おばあちゃんの家で、ミッキーがたく

        SLUICEをすべるすべ/牛

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        • 獨協文学No.128
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        • 獨協文学No.127
          獨協大学文芸部
        • 獨協文学No.126(個人作品)
          獨協大学文芸部
        • 獨協文学No.126(リレー小説)
          獨協大学文芸部
        • 獨協文学No.125
          獨協大学文芸部
        • 獨協文学No.124
          獨協大学文芸部

        記事

          あそび阪り/上坂 紀乃

          あそび阪り 上坂 紀乃 【壱】  現実では滅多に無いが創作物ではありふれた状況と言えば、些細な理由で不良に因縁を付けられることだろう。だが新世界に通じる横丁で、少女はそれを体験していた。右は雀荘、左は立飲み屋と一際陰の濃い突き当りに、彼女はナンパというこれまた古典的な理由で追い立てられている。制服でなければ高校生とは判別し難い骨柄と、幽かに異国的ゆえ儚げな相貌を併せ持つ彼女――鼠根崎は恰好の的である。袋の鼠宛ら唇を噛む彼女に、三人いる不良の兄貴分は脂下がった。 「ええ店知

          あそび阪り/上坂 紀乃

          作者コメント

          田中 お願いします 韻俳 日が昇る前に起きたい あきみ 例の死ぬワニが台頭するより先に思いついてました。本当です。信じて。主人公同様、オレもまた一切の価値が無い人間ですが、小説の中で地元の海をdisることに関しては誰にも負けないつもりです。 万年パーカー 最近はますます魚が食べられなくなってきました 上坂紀乃 再掲に近い形式となりました。我ながら温度差が激しいです 速水朋也 今日もなんとかならない 狄嶺 『穴があったら入りたい』気分で書いた小説です。最近ものすごく

          彼女の笑顔はみたくない/石浦めめず

          彼女の笑顔はみたくない 石浦めめず  謹啓  桜が美しい季節になりました  皆様におかれましては    お健やかにお過ごしのこととお慶び申し上げます  この度 私たちは結婚式を挙げることになりました  つきましては ご報告かたがた  末永いおつきあいをお願いしたく  心ばかりの祝宴を催したいと存じます  ご多用中誠に恐縮ではございますが  ぜひご臨席を賜りますよう  お願い申し上げます

          彼女の笑顔はみたくない/石浦めめず

          正月とか小説について、少々/石浦めめず

          正月とか小説について、少々 石浦めめず    新年あけまして、おめでとうございます。     なんて。  あまり二〇二〇年になったという感覚はなかった。というのも、私は年越しの際、とくに誰に挨拶をするでもなく、ただひたすらに机に向かって就職に向けた勉強をしていから、単に日付が変わった程度の認識しかなかった。まだお餅も食べていないし、実家に帰って親戚と会うこともない。冬休みは勉強漬けの毎日で、ひたすら法律の条文を読んだり判例の要旨を覚えたりと、いつでもできることに身を投じ

          正月とか小説について、少々/石浦めめず

          礫の雨/狄嶺

          礫の雨 狄嶺  礫(つぶて)の雨は、決まって煙と共にやってくる。  気の遠くなるほどに深い洞穴の向こうから、捻りだされるようにして吐き出される煙の集団は、まるで気の触れた龍のように、ぐるぐるととぐろを巻いて空に昇って行く。硫黄か酸か見わけもつかない、鼻のもげそうな異臭の中で、我々はすっかり滅茶苦茶になったかつての同僚たちを拾い集める。丸太のように積みあがった彼らの抜け殻に火を放てば、リンが鬼火のごとく青白く嘲笑っている。その大炎上の中から立ち昇る煙と言うのは、むせ返りそう

          礫の雨/狄嶺

          夜と松下くん/速水朋也

          夜と松下くん 速水朋也  松下くんの視線がぼくの目を包む柔らかな涙の膜をするりとくぐり抜けたそのとき、ぼくは不幸にも車に撥ねられて死んでしまった、真夜中みたいに黒くて美しい猫を学校の裏にこっそり埋めようとしていたところで、松下くんは土に薄く汚れたぼくのスカートも、猫の腹からこぼれた、秋のひんやりとした風にさらされている赤色も、そこに落ちて濁ったぼくの涙も全部見てしまったのだった。 「それ、なに?」 「猫だよ。ぼくの……」  ぼくの猫。そう言いかけて口をつぐんだのは、た

          夜と松下くん/速水朋也

          四号室の××さん【改訂】/上坂 紀乃

          四号室の××さん【改訂】 上坂 紀乃 【盛夏】  東京の片隅にあるそのハイツには、この国では不吉だとされる四号室が存在する。気付いた大家が閉鎖しようとしたすんでのところで、滑り込んできた男がいる。彼と同居人たちが今何をしているかというと―― 「海ぃ?」  金に近い茶髪と険しい表情という、一見不良にも見える風貌をした少年と、青みがかった黒髪の青年が一斉に訝しがる。予想通りの反応に、木崎(きざき)一(はじめ)は苦虫を嚙み潰したような顔でそろそろと頷いた。中規模の商社に勤める

          四号室の××さん【改訂】/上坂 紀乃

          セムヌール湖怪談/万年パーカー

          セムヌール湖怪談 万年パーカー  私は数ヶ月ほど前から行方の知れなくなった友人を探して街を訪れた。そんな僕に話しかけてきた者がいる。 「彼は姿を消したのではない。死んだのだよ」  そう言ったのは、ローブを羽織った、青白い肌の腹の膨れた男だった。男はふやけたように皺まみれの手で、縫い目だらけの革手帳を取り出すと、それを私に差し出してきた。 「これは?」  私が問うと、その男は不気味な笑みを浮かべながら、 「君の友人、ハリスのものだ」  と答えた。妙に耳に残る、まる

          セムヌール湖怪談/万年パーカー

          ぼくのためのメメント・モリ/あきみ

          ぼくのためのメメント・モリ あきみ 「あー、君、あと一週間の命だね」  内科の先生は、妙に砕けた調子で言った。 「へ?」  あまりにも突然な余命宣告に、ぼくは素っ頓狂な声をあげてしまった。 「とりあえずお薬出しておきますねー」 「えっ、薬、なんで?」 「鎮痛薬だよ。死ぬ前に痛いのもヤでしょ?」 「……はぁ」 ▼一日目  先々週から体調が頗る悪かった。常に疲れが取れず、脇腹から胸にかけて小さい発疹が出来、口にも数個の炎症が出来ていた。その内に咳が止まらなくな

          ぼくのためのメメント・モリ/あきみ

          日を記す/韻俳

          日を記す 韻俳  今日は昼が短いな。  窓の外に広がる世界を見て、デバイスを操作する手を止めた。午後四時三十分。だんだんと世界が暗くなっている。すぐに夜になってしまいそうだ。どうして昼が短くなる代わりに、夜が長くなるのだろう。空の調子が悪いのだろうか。誰かその理由を知っている人間はいるのだろうか。  自我をもってから十余年。私が疑問に思ったことに答えをくれた人はいなかった。学校に行っていた時も、こうして労働している時にも。だから自分の中で考えて答えを探してきた。けれどそ

          日を記す/韻俳

          作者コメント

          田中 読んでいただけたら、幸いです 志水ショウ 世界って案外優しい……気がします。そうでもないかも。 ジョン山田 おすすめの観光地は秩父です。 速水朋也  一緒に逃げようよ 瞳七絵   本当にあった怖い話を書きました。 逢ひ昔   さよならは言いません。たぶん。 石浦めめず 3年生のこの時期になると、やりたいことのある人とない人の差がはっきりしてきて、これまでしっかり未来に向けて土台を作ってきた人はきらきらして見えます。その土台の有無のせいでしょうか、彼らはもうわ

          作者コメント

          エンドロール/石浦めめず

          エンドロール 石浦めめず  わたしのさびしさはどこからやってくるのだろう。  大学からの帰り道、友人と別れてひとりぼっちになったときにそんなことを考えた。  週の半分以上は遅くまで講義が入っているので、アパートの最寄駅を降りたときの空は藍色を過ぎて黒に近づいている。この街に住んで二年が経つ。それでも、ぼんやりした街灯の頼りなさと背後から近づいてくる革靴の足音にはまだ慣れない。被害にあったことはまだないが、いつ遭遇しても不自然ではない環境が警戒心を解かせない。  十月の

          エンドロール/石浦めめず