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獨協文学No.125

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2019年5月28日発行
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記事一覧

作者コメント

庭二 羽鶏
夏は裸で生活したいです

川北らいむ
近年は自らの持病にアイデンティティを置く変わった方々もいますね

上坂 英
高校時代に正直やりたかったことを詰め込みました

天空橋小夜子
『さらざんまい』観てください。木曜の夜中にやってます。

石原劉生
おおよそ自己満足ですができれば読んでください

狼魔
暑くてジメジメした日は好きじゃありません。

吉村君、彼女ほしい/庭二 羽鶏

吉村君、彼女ほしい
庭二 羽鶏

 友人に、大学生にもなって彼女の一人もいないのかと煽られた。別にできないんじゃない、あえて作っていないだけなんだ。僕がその気になればすぐにでもできる。――そう言ったのは何時だったか。大学三年生、夏。

 僕は食堂の隅で一人、持参の弁当を口に運んでいた。

「孤独だ」

 小さく呟いて周りを見渡す。辺りには男女、男女、男女。まるで、「一人でいることが間違っている」と

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ホワッツ・アップ・サピエンス⁉/川北らいむ

ホワッツ・アップ・サピエンス⁉
川北らいむ

 『キーーーーーン』

 私は鳴り止まない耳鳴りに悩まされていた。その耳鳴りも、午後の診療予約のリストに並ぶ名前の、その夥しい量のために、更に酷くなるようだった。この診療所は、街では数少ない心療内科の一つである上に、明日から一週間の長期休業を控えているので、今日中に来る患者の数は過去最大に達した。

 午前中ですら目が回るほど忙しかった。すっかり摩耗し

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悪友以上、/上坂 英

悪友以上、
上坂 英

 加山夕が紀野奈都海と出会ったのは、高校生活も残り一年となった始業日だった。氏名順、という無難極まりない形で席が埋まっていく中、始業式への集合を促すチャイムが鳴っても自分のすぐ後ろに人は来ない。何となく気がかりに思っていると、去年も同じクラスだった女子に肩を叩かれた。見ればクラスメイトの殆どが廊下に出ており、喧騒がそちらへと移りかけていた。

 慌てて体育館用のシューズを持

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凪ぐ/天空橋小夜子

凪ぐ
天空橋小夜子

「つまりね、大人になるためには何か大きなものを背負うことが必要だっていいたいんだよ、この作者はね。主人公が自分の力不足が原因で友人を失ったことがそれにあたるんだ」

 二人だけの部室に千秋さんの慌てた声が響く。

 ぼくは液晶に表示されたカウントダウンに目をやる。残り十秒。あれもこれもと、まだまだ話したいことが余りある様子の彼女に苦笑した。

 千秋さんは片手にかざした本を表

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【現代文化1】展望のためのノート*新海誠を巡る問題体系/石原劉生

【現代文化1】展望のためのノート*新海誠を巡る問題体系 
石原劉生

【哲学者の千葉雅也曰く

「90年代までは、文化のデータベースをつくっていく時代で、まだまだコード(筆者注:お約束/常識)の外に新しいものがあると期待することができました。しかし2000年代を経て、あらゆる可能性が出尽くしてデータベースに登録されてしまい

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ドライブ旅行記/狼魔

ドライブ旅行記
狼魔

〈何をもって旅行とするか〉

 なんとなく、旅行と言うとある程度時間をかけて遠くへ出かけることを指すように感じられる。「日帰り旅行」という言い方もある。あえて日帰りであることを明示することがあるということは、単体では日帰りよりも時間のかかる旅を指すからなのかもしれない。

 旅行という言葉から感じる時間的長さを自覚しつつも、ここでは二時間足らずでたどり着けるような場所に出か

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