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獨協文学No.128

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2020年3月31日発行
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作者コメント

上坂 紀乃
大阪旅行の記念作です。会話が難産でした

速水朋也
にげられない! ▽

保須都
始まりも門出もできぬこの春に書いてみましたよろしくどうぞ

あそび阪り/上坂 紀乃

あそび阪り
上坂 紀乃

【壱】
 現実では滅多に無いが創作物ではありふれた状況と言えば、些細な理由で不良に因縁を付けられることだろう。だが新世界に通じる横丁で、少女はそれを体験していた。右は雀荘、左は立飲み屋と一際陰の濃い突き当りに、彼女はナンパというこれまた古典的な理由で追い立てられている。制服でなければ高校生とは判別し難い骨柄と、幽かに異国的ゆえ儚げな相貌を併せ持つ彼女――鼠根崎は恰好の的で

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ふたりの国/速水朋也

ふたりの国
速水朋也

 ファンタの海を泳いでいる。溶けた二酸化炭素がしゅわしゅわはじける、透明な紫色。しんかのさせ方も知らずにくさむらを探し回ったゲンガーの色、はじめて小説を書いた日の、閉めそびれたカーテンを薄く通り抜けてラップトップに刺さった朝焼けの色。加奈子の舌が私の唇を割るとき、決まって目の前をゆるく染め上げるアルコールの色。動くたびに炭酸が浮き上がり、ぬるくなり、体がべたつく。海はじっと

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光る春、二人の現色/保須都・速水朋也

光る春、二人の現色
保須都・速水朋也

【起】保須都

 西日が差し込む廊下を歩く。窓の外、校庭で練習をする野球部の声がここまで届く。暦の上ではもう春だけど、大昔に決められたカレンダーはもうあてにならないみたいだった。日の当たらない足元はとても冷たかった。

 いつもなら家に帰る時間だけど、今日は特別。明日のための準備がある。大切な式典のために、手を貸してほしいと生徒会から呼び出しを受けた。随分前

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