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ぼくのためのメメント・モリ/あきみ
ぼくのためのメメント・モリ
あきみ
「あー、君、あと一週間の命だね」
内科の先生は、妙に砕けた調子で言った。
「へ?」
あまりにも突然な余命宣告に、ぼくは素っ頓狂な声をあげてしまった。
「とりあえずお薬出しておきますねー」
「えっ、薬、なんで?」
「鎮痛薬だよ。死ぬ前に痛いのもヤでしょ?」
「……はぁ」
▼一日目
先々週から体調が頗る悪かった。常に疲れが取れず、脇腹から胸
セムヌール湖怪談/万年パーカー
セムヌール湖怪談
万年パーカー
私は数ヶ月ほど前から行方の知れなくなった友人を探して街を訪れた。そんな僕に話しかけてきた者がいる。
「彼は姿を消したのではない。死んだのだよ」
そう言ったのは、ローブを羽織った、青白い肌の腹の膨れた男だった。男はふやけたように皺まみれの手で、縫い目だらけの革手帳を取り出すと、それを私に差し出してきた。
「これは?」
私が問うと、その男は不気味な笑みを
四号室の××さん【改訂】/上坂 紀乃
四号室の××さん【改訂】
上坂 紀乃
【盛夏】
東京の片隅にあるそのハイツには、この国では不吉だとされる四号室が存在する。気付いた大家が閉鎖しようとしたすんでのところで、滑り込んできた男がいる。彼と同居人たちが今何をしているかというと――
「海ぃ?」
金に近い茶髪と険しい表情という、一見不良にも見える風貌をした少年と、青みがかった黒髪の青年が一斉に訝しがる。予想通りの反応に、木崎(きざき
夜と松下くん/速水朋也
夜と松下くん
速水朋也
松下くんの視線がぼくの目を包む柔らかな涙の膜をするりとくぐり抜けたそのとき、ぼくは不幸にも車に撥ねられて死んでしまった、真夜中みたいに黒くて美しい猫を学校の裏にこっそり埋めようとしていたところで、松下くんは土に薄く汚れたぼくのスカートも、猫の腹からこぼれた、秋のひんやりとした風にさらされている赤色も、そこに落ちて濁ったぼくの涙も全部見てしまったのだった。
「それ、なに
正月とか小説について、少々/石浦めめず
正月とか小説について、少々
石浦めめず
新年あけまして、おめでとうございます。
なんて。
あまり二〇二〇年になったという感覚はなかった。というのも、私は年越しの際、とくに誰に挨拶をするでもなく、ただひたすらに机に向かって就職に向けた勉強をしていから、単に日付が変わった程度の認識しかなかった。まだお餅も食べていないし、実家に帰って親戚と会うこともない。冬休みは勉強漬けの毎日で、
彼女の笑顔はみたくない/石浦めめず
彼女の笑顔はみたくない
石浦めめず
謹啓
桜が美しい季節になりました
皆様におかれましては
お健やかにお過ごしのこととお慶び申し上げます
この度 私たちは結婚式を挙げることになりました
つきましては ご報告かたがた
末永いおつきあいをお願いしたく
心ばかりの祝宴を催したいと存じます
ご多用中誠に恐縮ではございますが
ぜひご臨席を賜りますよ