見出し画像

賭・広場・貨幣

version1


二人の者が出逢い
牛と馬を交換する

いつの日か
彼らはある開かれた
約束された場で
牛と馬を売り買いする者たち
博労/馬喰/伯楽と呼ばれる
ようになるだろう


すなわち
規定された交換の一歩手前に生成する
分散の反復


牛と馬を交換した二人は
まだ可逆的で可塑的な関係のうちにある
彼らの生きる場は
まだ変容する生命にあふれている

確かに博労たちは
交換に対して超越的な
ある尺度にいたる
一つの道筋をつけたのかも知れない
彼らはどの馬/牛とどの馬/牛とが
現実に交換できるのか
交換されるに値するのかを
吟味する能力を持つのだから

だが彼らの身体的力能に内在する尺度は
交換に対してまだ超越してはいない
この博労たちの交換から
超越的な尺度として機能する
貨幣を媒介にした交換へといたる
無限に思われる距離の
すぐ傍らに
賭が位置している

博労たちは
賭の民として生成することによって、
分散の反復を
規定された──その都度二項を対立させ
それら二項をもう一組の二項に対応させる
交換の枠の中へと
誘導していく

賭はまさに
貨幣の交換という形を取って生成することになる
このとき賭は
無限に反復され得ることを
あらかじめ予想されている
賭は
それが無限に反復され得るという予想がなければ
賭として成り立たないのだ

さまざまな獲物を携えた者たちが
その都度出逢い
それら獲物をいったん宙吊りにする
広場に彼らの獲物がばらまかれる
賭が始まり 反復される
無限の反復が予期された
その都度の反復
無限の反復が予期されることで
賭は獲物たちの分配という交換を生み出す
ある時すべてを失うある者が
別のある時に別の者としてすべてを奪い返す
その可能性が常に保留されていることが
賭けられた獲物と一つの破滅の交換でさえ
彼らの間での獲物の分配にしてしまうのだ

ここで破滅とは
自らの存在=身体を獲物として差し出し
犠牲になること
──さまざまな苦痛 破壊 
さらには抹殺の対象となることである
すなわち
経済という名の
終わりなき残酷の反復

賭の反復
──決定的な終わりを欠いた
未完であり続けるこの交換=分配の生成という
出来事の直中で
《広場》は変容する

それは
賭の反復における市場の生成という出来事である
無限の反復が予想された賭は
その都度の反復を
市場の内側へと誘導していく
さまざまな方向から
さまざまな獲物たちを携えた人々が集まる
そこではつねに
何が起ころうとも
獲物たちの賭が反復されることが
人々の間で予想されているからだ
それは
外への通路の不断の折り畳みとしての
内の生成であり
人々は絶えず入り交じりあいながら
賭けられるもの──獲物たちとともに
そこへと
あるいはそこから出入りする

その都度の人々の出入り──市場の生成は
その都度の賭の生成なのである
賭が無限に反復されるという予想は
その都度の賭の直中へと巻き込まれる
賭の無限反復の予想は
それ自身が賭である以上
賭に先立ってなどいなかった
それは予想ではなく
賭そのものであった

ここで賭けられている獲物
同時に賭の直中で獲物として生成してくるもの
それこそが
《我々=人間》なのだ……-


こうしたことに一体どんな終わりがありうるのか
これを限りの
一つの終わりというものが。
瞬時に凝集する

賭けられるもの
――獲物 つまり《我々=人間》――は
次の場面で他の時空へと旅立ち
移りゆくためにのみそこに場所を占める
だがそことは
その都度破壊され
生まれ出る時空の狭間だ
それは
次の
もう一つの時空へとたどり着くことはない
誰かの掌の上の砂は
いつしか指の隙間からこぼれ落ちている
賭は
賭を没落させる終わりのない分散へと
永遠に回帰するのだ


……ふと気づくと
砂浜の上を横切っていく俺の影は
いつしか黄昏の光と溶け合う波に洗われ始めていた
確かにそこに
新たな時が
今にも刻まれようとしている
俺は立ち止まる

あの街は今でもそこにあるのだろうか?
あの壁に浮かび上がって消えた落書きを刻んだのは
この俺でなければ
一体誰だったのか? 

だがそこがどこなのか
俺にはもはや分からない
いつか
そしてどこかに書かれたはずのその文字は
遠い残響となって俺の脳裡をかすめていくだけで
それがどこからやってくるのか
確かめる術はない
俺の身体を
既にそこにあった沈黙と
没落していく黄昏の光と
生まれ出る闇が包み込んでいく
俺は静かに眼を閉じる──


この体を繰り返し洗う波間から
俺は立ち去ることが出来なかった
そこには
潤いと恵みにみちた震えが生まれる

あらゆる生き物たちが
どこまでも屈曲し
分岐するはるかな時空を貫いて
この波間で誕生と死を反復してきた
生き物たちは
この微細な反復の過程で
あらゆる触発を誘う波の動きを
自らの内側へと包み込んでいった
というよりむしろ
この内側の生成としての波動の包み込みこそが
生き物たちの誕生だったのだ
生き物たちの内側へと包み込まれ
新たに生まれたさまざまな波の動きは
さらにその内側/波間に
あらゆる生き物たちを誘発する触発の場を用意した
それら触発の場が新たに内側へと包み込まれることによって
あらゆる生き物たちの内側で
あらゆる生き物たちが新たに誕生していったのだ
包み込まれるこの体が
さまざまな他の体を再び包み込む

こうして
一つの皮膚に包み込まれた無数の体が
再び無数の包み込む皮膚=体を包み込んでいく

そこは
他者としてあらゆる誕生と死の狭間に生まれでる
──すなわち
出来事として生成する 
あの  
別のある者……


ここから先は

3,091字

哲学やサイエンスやアートの記事をまとめています。各マガジン毎に記事20本程度まとめたものになります。オリジナルソースがある場合も画像等を含…

よろしければサポートお願いいたします。頂いたサポートは必ず活かします。🌹🌈🎁