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イノセント・デイズ/早見和真

「イノセント・デイズ」の小説の後ろ側には
内容がこのように書かれている。

田中幸乃、30歳。元恋人の家に放火して妻と1歳の双子を殺めた罪で、彼女は死刑を宣告された。凶行の背景に何があったのか。産科医、義姉、中学時代の親友、元恋人の友人、刑務官ら彼女の人生に関わった人々の追想から浮かび上がる世論の虚妄、そしてあまりにも哀しい真実。幼なじみの弁護士たちが再審を求めて奔走するが、彼女は…。筆舌に尽くせぬ孤独を描き抜いた慟哭の長編ミステリー。

 
 
要約に書いてあるように
小説の最初の方で
裁判官は田中幸乃にこう伝える。

 
「あなたに主文を言い渡す前に、判決に至った理由から先に述べたいと思います」

「覚悟のない十七歳の母のもとー。

養父からの激しい暴力にさらされてー。

中学時代には強盗致傷事件をー。

罪なき過去の交際相手をー。

その計画性と深い殺意を考えればー。

反省の様子はほとんど見られずー。

証拠の信頼性は極めて高くー。」

「主文、被告人をー」

それまでよりも一段高い声が法定内に轟いた。

「死刑に処する!」

 
幸乃はその判決、すなわち死刑を受け入れ
その日を静かに待つこととなる。

  
この小説は各章が
裁判官が伝えた言葉となっており
田中幸乃を知る者が
過去を回想したり 
今どう感じてどう生きているかが触れられる。

裁判官の言葉と実際の様子が対比して書かれていて面白い。

読者は読み進めていくうちに
世間一般で言われている幸乃と実際の幸乃のギャップを知ることになる。

どうして犯行に至ったのか
はたまた犯行を犯していないのではないかと
ページをめくる手が止まらない。

 
本作は467ページあり
仕事後、夜に読み始めた私は
次の日も仕事の為、途中で中断を余儀なくされた。

だが
仕事中も頭の中は幸乃でいっぱいで
先の展開が気になって仕方なかった。

 
結局読むのに三日かかったが
その三日間、私の心も頭も「イノセント・デイズ」でいっぱいだった。

 
帯には「読後、あまりの衝撃で3日ほど寝込みました…」と書かれているが
私の場合は本から離れて眠ろうとしても
他の活動をしていても
3日間虜であったし
むしろ先が気になって眠れなかった。

今年読んだ本で一番衝撃的な作品だった。

 
個人的には第五章が特に印象的で
号泣ではなく
ただ心がギュッと掴まれた感覚が離れず
気がつけば断続的に
ポタポタと涙がこぼれた。

川に投げるシーンは幸乃に感情移入しすぎて
苦しくなった。

私は元彼に二股をかけられた上に捨てられたことがある。
女癖が悪かったり
お金にだらしのない人もいた。

 
だから幸乃の気持ちが分からないでもないのだ。

自分に自信がなかったり
寂しい時
自分を必要としてくれるのならば
それが悪い人だろうと関係ない。

 
正しく生きることを人に求める人は
恵まれた環境や支えとなる人がいつもどこかにいたのだろうと思う。

負のループから抜け出すのは容易ではなく
幸乃は生きるごとに失い、諦め、期待しなくなるしかなかった。

表立って怒り、憎しむことさえできなかった幸乃に
純粋さよりも果てしない孤独を感じる。

繰り返し作る肉じゃがは
切なさと願望の象徴のようだ。

 
幸乃を想う人々はいたが
どんなに想っていても
一人一人にできることはたかが知れていて
想っているからこそできないこともある。

そして
誰かの言葉や存在に揺さぶられても
何度も何かや誰かを失っていては
強く生きる理由や希望に繋がるとは限らない。

 
彼女が死刑囚になった理由には
様々な人の様々な思いや行動が絡んでいる。

登場人物は誰もが人間らしくて
人物描写や心理描写がお見事。

共感したり、親密感やストーリー性を感じた。 

 
伏線回収が見事で
私は何度か読み返したり
「アレはあぁいうことか!」と読み応えがある。

 

私は読みながら幸乃の幸せを願ったが
やがて長年の願いを叶えられて
私はよかったと思った。 

今は生きたいと願う彼女の呼吸が
逞しくも、悲しく
生と死とは激しく生々しいとも思った。

 
 
好きなものや大切な人を守るのは
覚悟と責任がいる。

そして
噂は噂、情報は情報であり
感情や思い込みが入ると
物事は複雑になったり、印象が変わる可能性があると感じた。


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