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彼氏が鉄オタで彼女が非鉄オタなカップルがトリプルデートをした、その後

あれは私が24歳の時の話である。

私の彼氏は医学生で、国試に無事合格し、24歳から研修医となった。
2年間は研修医として全ての科を回るらしい。
彼は精神科医になりたくて医大に入ったので
様々な科を回ることに不安を抱えていた。

特に救命救急と外科は医者のエリートオブエリートが集まるらしく
また容赦なく怒られるらしく
かなり憂うつだったようだ。

 
 
私が関東で学生をしていた時
彼は関西で学生をしていたが
研修医になった際に関東に引っ越してきた。
遠恋が半年間あったので
彼が近くに引っ越してきたことは素直に嬉しかった。

私は私で四大に行った後に二年間専門学校に通っていた為
社会人デビューは24歳だった。

 
私と彼は同い年である。

 
私達は恋人ではあったけど
24歳の春、新しい環境で社会人として働き出した社会人一年生仲間でもあった。

 
 
彼は社宅のような場所で暮らしていた。
2LDKのその部屋は明らかに一人暮らしにしては広すぎて
私は初めて部屋に行った時にビックリした。
キレイだし、広いし、家賃もかなり安い(病院から補助が出る為)。

私「これは…二人暮らしできるね!」

 
彼「部屋余ってるしね。仕事から帰ってきたら、ともかがいたらいいなぁ。一緒に暮らせたら最高だよね。
自分んちのようにくつろいでね。この部屋にあるものはなんでも自由に使っていいし、なんでも好きなものを持ち込んでいいからね。
はい、合鍵。いつ来てもいいよ。」

 
私はこうして彼に合鍵を手渡され、同棲や結婚を具体的にイメージした。

 
私はずっと実家暮らしだったから、結婚したら一軒家に住むイメージしかなかった。
だが、そこはとても美しかった。
セキュリティーもしっかりしていたし、新築に近い新しさで、2LDKは実に使い勝手がよかった。

掃除もしやすい広さだし
一人の時間を確保できるし
二人で一緒に過ごしやすい広さだ。

 
 
もしも私が働きはじめじゃなかったなら
他県住みではなかったなら
半同棲や同棲はすぐに始めたと思う。

私は彼が住む街が好きだった。
部屋から見える夕日が好きだった。
近くにある公園や喫茶店やスーパーに二人で行くのが好きだった。

 
今までの恋は、恋に恋していたが 
生活を意識した初めての恋だった。

 
本家を継ぐようにと長年親から言われていたし
実家の近くの土地に家を建てる未来しか描いていなかった私が

このままここでこの人と結婚して暮らせたら…

と、願わずにはいられないほど
そこで彼と過ごす時間は大切な時間だった。

 
 
私はほぼ毎週彼の家に行った。
私の家から彼の家までは片道二時間だったから
平日仕事後はまず会えない。
会えない日は毎日電話をしてメールをして
デートで別れた日も帰宅後に電話をした。
付き合いだしてから話さない日はなかった。

どんなに忙しくても
必ず5分でも話す時間をお互いに作った。

 
 
彼はやがて、職場で同期の同僚と仲良くなったらしい。 
同じ社宅に住んでいた為、私はその同僚を紹介してもらった。

私が彼の部屋にいる時に、その同僚Aはやってきた。

 
A「初めまして。こんにちは。Aです。いつも●●さん(彼氏)にお世話になっています。」

 
私「初めてまして。こんにちは。真咲ともかです。A君の噂はよく聞いていました。研修医は慣れないことだらけでしょうが、A君がいるから●●は支えられて仕事を励めると言っています。」

 
A「いやいや、僕はともかちゃんの話をよく聞いています。自慢の彼女で、一緒にいると癒されるって惚気られます。」

 
A君の後ろには、美しい女性がいた。
美人でスタイル抜群だ。
女性Bさんは頭を下げた。

 
A「紹介します。Bです。お付き合いしています。これから、四人でも仲良くできたらなって考えています。」

 
B「初めまして。Bです。これからよろしくお願いします。」

 
私「こちらこそ、よろしくお願いします。是非今度飲みに行きましょう。」 

 
 
A君とBさんは挨拶をした後、帰っていった。
こんな風に初めて会った日は軽く顔合わせをしただけで
30分も一緒にいなかった。

 
 
私はA君とBさんが帰ったのを見届けてから、彼に言った。

私「A君、イケメンやん…………めっちゃ背が高くてスタイルいいじゃん。」

 
彼「でしょ~!」

 
私「Bさん、美人過ぎないか………なんか目力強いし、キラッキラしていたんだけど。」

 
彼「Bさんは頭いいらしいよ。」

 
私「うん、知性と気品が満ちあふれていた。」

 
 
私は面食らった。

私と彼は顔で勝負するタイプではない人間だが
A君とBさんはあまりにも容姿に恵まれていて、キラキラしていた。
DAIGOと北川景子……に、少し似た雰囲気があった。
とにかく、美男美女である。
おまけに頭までいいなんて、羨ましい。

 
A君は台湾人だった。

顔立ちはアジア系ではあるが、日本人らしくはなかったし
名前は明らかに外国人だった。

 
Bさんも台湾人だった。

だが、顔立ちだけ見たら日本人でも通用するし
先程自己紹介で聞いたフルネームは日本人としか思えなかった。

 
 
私「二人は台湾人だよね?」

 
彼「そうだよ。」

 
私「でも、Bさんの名前は日本人じゃない?」

 
彼「帰化したから。」

 
私「キカ?」

 
私は彼氏から、外国人が日本国籍を取得することを帰化ということを教わった。
なるほど、だから日本人の名前なのか。

 
 
 
こうして私は人生で初めて台湾人の方と知り合った。

外国人の方と知り合いになるのも
帰化した人と知り合いになるのも
初めてのことだった。

 
 
 
 
約束通り、顔合わせから早々に四人で食事会をした。

 
見れば見るほどA君はイケメンだし、Bさんは美人だし
二人とも知性と気品と優しさが溢れていた。
とても仲は良かった。お似合いカップルだ。

 
その時何を食べたかはよく覚えていないが
会話が弾んだ楽しい食事会だったのは覚えている。
私は二人のまばゆさに憧れ
イケメンだなぁ美人だなぁと見とれ
四人で撮った写真を見ては
しかし写真写りがまたいいなと、ため息を吐いた。

 
……正直、A君と彼が何故仲が良いのか分からない。

 
系統が違う気がする。
彼は日本とラテン系を掛け合わせたような外見や発言で
いくら同期で同い年で同じ医者とは言え
共通項が見当たらなかった。

 
彼「ともかには、もう一人紹介したい人がいるんだよ。C君。俺とA君と仲のいい看護師Dさんの彼氏で、C君も病院に勤めてる。C君は別の病院勤務だけどね。」

 
私は彼にそう言われ、A君やBさんとダブルデートを複数回した後
今度はトリプルデートをすることになった。

私はトリプルデートは人生で初体験だった。 
三組のカップルが集まるのは面白い体験だと思った。

 
Dさんは今風の女子で、恋愛体質なタイプだった。
かわいらしいが、庶民的でもあり、ホッとした。
それほどにBさんは高嶺の花のような美貌だったのだ。

 
C君も庶民的な感じだった。
やはり、ホッとしたのを覚えている。

 
 
トリプルデートをした際、男性陣は盛り上がっていた。
どうやら彼とA君とC君は全員が鉄オタで
共通の趣味で仲良くなったらしい。

 
一方、女性陣はみんなそんなやりとりを微笑ましく見ていた。
私達女性陣は全員が非鉄オタだった。
鉄オタ三人が集まって話すネタはマニアック過ぎて全くついていけなかった。

 
男性陣と異なり
あまり面識のない女性陣は
無難なやりとりや当たり障りのない会話をした。
私はDさんから彼の仕事の様子を聞いたりして
へぇ~!と新鮮な気持ちにもなった。

そして
自分の彼氏が男の子の顔をしながら
夢中になって好きなものの話をする姿を、女性陣は微笑ましく見ていた。

 
男性と女性が対面する形で食事をし
集合写真を撮ったが
面白いくらいに、カップル同士で顔や系統が似ていた。
誰が誰の恋人か一目瞭然なくらい
彼氏と彼女で雰囲気が同じだった。
私は集合写真を見たら、笑ってしまった。

 
私達三組のカップルは、全員が結婚前提で付き合っていた。
だから結婚式もお互いに呼ぼうと言い合っていた。

 
初のトリプルデートは実に微笑ましかったのだ。

 
 
 
 
やがて、私は招待状をいただいた。 

三組のカップルのうち、一番最初に結婚をしたのはA君とBさんだった。
二人はずっと同棲していたとはいえ
研修医で結婚はまだ早いんじゃあ…と内心思ったが
年齢的には結婚適齢期ではある。
何より二人は互いを大切にしていたし
家族から祝福もされていた。

 
これ以上めでたいことはない。

 
ドレスに着飾って出席した。
彼のネクタイ姿を初めて見た。

当たり前だが、パーティー会場は医者だらけ彼の同僚だらけで
私は見知らぬ人の中にいた。
彼はみんなの前で私を彼女だと堂々と紹介してくれて嬉しかった。
結婚前提とさえ、言ってくれた。
同僚みんなの前で、だ。

 
彼は出し物やら打ち合わせやらで席を立つこともあった為
C君やDちゃんがそばにいて心強かった。

彼の話によると、Bさんは台湾の政治家の親戚らしく
つまり会場は医者やら政治家関係者やら
ハイスペックな見知らぬ人だらけの集まりだった。

 
容姿も普通で凡人代表のような私は
この場にふさわしくない気がした。

 
ドレス姿のBさんはそれはもう…それはもう美しくて
A君とBさんは本当に幸せそうに見えた。

 
恋愛体質なDさんは「私も早く結婚したい。」と散々私にぼやいていて
愛されるC君は幸せだなぁと思った。

 
 
 
A君とBさんの間にかわいすぎる赤ちゃんが生まれた頃
C君とDさんも結婚した。

C君とDさんが結婚する時には
彼は研修医を終えて他県で医師として働き出し
私はもう彼等と会ったりはしていなかった。
確か彼だけ参列したんだと思う。

 
Dさんの念願の夢が叶ったのだと思った。

 
 
次はいよいよ私達の番だと思った。
トリプルデートの二組が結婚したように
私達も最後に結婚するのだと思って私は信じていた。

彼の母親からは交際を反対されていたけど
私の家族や親戚と彼は会っていたし
私の家族は結婚に賛成していた。

 
彼は数ヶ月後に私の実家付近に引っ越す予定だった。
私達は二人暮らしを始めて、彼の母親を説得できたら
結婚するつもりだった。

 
私と彼は同じ気持ちだと、思っていた。

 

  
婚約破棄されるまでは。

 
 
 
 
SNSでは、A君とBさん、C君とDさんの幸せそうな様子が伝わった。
子宝に恵まれ、何人ものかわいい子どもと共に
彼等は実に幸せそうだった。

私と彼が別れた後
彼は別の方と結婚した。

 
私はその事実に打ちひしがれた。
トリプルデートをした6人の中で、私だけが出来そこないで、何かが足りなかった。
私達カップルだけ結婚できなかったのではなく
私だけが結婚できなかった。

結婚を夢見たのに。
私も夢見たのに。
彼と結婚したかったのに。

 
願うだけじゃ、夢は叶わない。

 
私はそう、痛感した。

 
彼の奥さんもまたSNSで惚気まくっていた。
見なきゃいいのに、私は見ずにはいられなかった。
彼と奥さんが幸せそうであればあるほどに
私は自分が人間として女性として生きることに向いていないと実感した。

 
なまじトリプルデートをしてしまったから
私は人と同じ幸せを私も手にできると勘違いしてしまった。

 
離婚率が高かったり、恋人同士でも長く付き合うのが難しい中
A君とBさん、C君とDさんは今も尚
幸せそうに暮らしている。

 
SNSを見るたびに
私も生まれ変わったらそんな幸せを手にしたいと思う。

 
 
婚約破棄後、私は様々な人と出会い、恋をしたり、デートをしたが
未だに上手くいかず、未婚のまま30代になった。

 
結婚や出産の可能性はまだ0ではないのだろうが
色々頑張った上での今の結果なので
今の人生ではもう無理だろうなぁと諦めが強い。

 
 
 
日本が災害被害に遭うたびに台湾や台湾の方は
日本に支援をしてくれた。
そういったニュースを見るたびにA君やBさんを思い出す。
彼等は確かに優しかった。 

やっぱり台湾人は優しいな…

と、思うには十分なくらい
彼等はできた人達だった。

 
 
だから台湾で何かしら悲しいニュースがあると
私はやはりA君やBさんを思い浮かべて
心痛めた。
優しい人達はどうか報われてほしい。

 
 
もともと台湾のことを私は好きだったが
A君やBさんとのことがきっかけで
台湾や台湾人がより身近になったのは確かだ。

そして、その縁を繫いでくれたのは元彼がいたからだ。

 
 
今では元彼と連絡はとっていないが
元彼が縁を繫いでくれたA君、Bさん、C君、Dさんとは
未だに繋がっている。

縁とは不思議だ。
一番そばにいたかった彼とは別れたのに
彼が繫いだ縁とはまだ繋がっている。

 
 
人生はこんな繰り返しなのかもしれない。

一番ほしいものは手に入るとは限らないけど
手を伸ばし続けていたら
それを見ていたり、応援してくれる人はいて
それが縁となり
何かしらを得るきっかけにはなるのかもしれない。

 
 
彼と結婚はできなかったけど
出会ったことや付き合ったことに悔いはない。
彼は様々なものを与えてくれ
それは今の私に確かに繋がっている。

会わなくなった、今でもだ。
そしてきっと、これからも。

















 

 



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